たいへん気持ちの良いお芝居でした。2

 昨日(1)からの続きです。ミーハー的ですが、初バウホール1列目観劇であります。ウチのおくさんは1列目経験者だが、昔は「むせ返るような香りがした」と言うが、どうだろう?w。

  

1列目上手側席(27・28番)→

和物とあって衣装は本当に美しい。それにしても「近い近い」。やはり最前列はいい。お芝居というのがピッタリの「オグリ!」
観終わったあとに一服の清涼感が残った。大道具さんのがんばり、出演者の真剣な演技。花組最後の作品となる野々すみ花(のの・すみか)さんはまさに熱演でした(特に客席に降りてきての演技=ほんとうに間近=1〜4列各24番と25番の席は最高の席です。参照
 5組ある中で1番すきなのは「花組」(好きな娘役であった白羽ゆりさん=雪組=は別格ですが)。そもそも純名里沙さんのことが好きだったからです。


さてさて「小栗判官」とはこういう物語です。 

 京都三条高倉の公家、大納言兼家夫婦には子供がなかなかできなかった。そこで鞍馬山にある毘沙門様に百日参りを行い、その満願の日にようやく子供を授かった。
 成長してその子は小栗判官藤原正清と名づけられ、文武両道に長じた立派な青年となったが、ただひとつ、女性関係に関しては個性が強すぎて、十八歳から二十一歳まで妻をとっかえひっかえすること七十二人に及んだ。
 これを気に病んだ両親は、毘沙門天に授かった子だから妻のことも毘沙門天にお願いすればよかろうと、小栗を鞍馬山へ向かわせる。
 その道中、市原野辺でひとやすみついでに小栗は笛を演奏する。その美しい音に近くのみぞろが池の大蛇は聞きほれ、「この笛の奏者に一目会いたい」と、たちまち十六、七の美人の姫に変身し、小栗に近づく。その美しさに「これぞ私が求めていた女人」と小栗は喜び、館に連れ帰って睦みあうこと三箇月。
 しかし、「池の大蛇と契った」といううわさは宮中にまで届くところとなった。帝はことのほかお怒りになり、「そのような不浄なものを都に置いておいては安穏は得られまい。小栗をどこかへ流せ」という御状が来る。小栗の母は、「壱岐対馬に流されてはもうこの世で会うことはできまい。できれば私の実家の常陸の国にお流しあれ」と夫の大納言に願う。かくて小栗は常陸の国北条の玉造の郷に流罪となってしまった。

 侍の国・常陸では、小栗は毘沙門天の申し子としてもてはやされ、あっというまに八十三騎の大将となった。ある日小栗のいる黒木の館に、行商人・後藤左衛門が訪れる。
 後藤は自分が訪れた場所の四方山話をしていくうちに、小栗に武蔵相模両国の郡代、横山正監照元の息女、照手姫のことを話す。照手姫も、横山夫妻が娘をなかなか授からなかったため日光山に願かけをした直後に誕生した「申し子」だった。
 「姿を申さば春の花、形を見れば秋の月」と照手姫の美しさを紹介する後藤の言葉に、小栗は見ぬ恋に取り付かれた。小栗は金十枚と照手姫宛の恋文を後藤に渡し、照手姫との仲介を頼む。
 相模国の横山館に着いた後藤は、照手姫つきの女官に小栗の恋文を託す。女官たちはその恋文があまりに難解な言葉で書かれているので笑い飛ばすが、肝心の照手姫は難なくその手紙の謎を解き明かし、小栗の心を知る。知った上で、照手姫は手紙を引き裂いた。
 これに後藤は、「仏の申し子の小栗の手紙を破くのは、仏の手紙を破ったも同然」と激怒する。
 照手姫は嫌いで破ったのではなく、父や兄にこのことが知れれば小栗はただではすまないと思ったためと訳を言い、あらためて小栗宛の手紙を後藤に託す。
 小栗は戻った後藤から手紙を受け取り、思い通じたとさっそく十人の強者を連れて相模に行く。

 横山館の門番を「常客だ」と騙して中に入った小栗は、館の乾の殿で照手姫と出会い、七日七夜の睦み事。どうも乾の殿が騒がしいと、照手の父、横山正監照元は嫡子の家継と三男の三郎を呼び出す。二人の息子から小栗が照手姫を寝取ったと聞いた照元は、ただちに小栗を殺すことを命じる。
 三郎は父に、小栗をまず酒宴の席に呼び出し、得意技という馬の曲乗りを所望する。その上で横山家が飼う馬「鬼鹿毛」をあてがい、小栗を殺そうと計略を提案する。鬼鹿毛は人を餌とする凶暴な馬だった。
 乾の殿に使者があり、小栗は横山親子の前に参上する。
 さっそく曲乗りを所望され、厩に向かうとそこには大量の人骨。その奥には、巨木と鉄と鎖で頑丈に繋がれた鬼鹿毛の姿。
 「たばかられたか」と小栗は悟り、十人の武者たちもただちに逃げるように言う。
 しかし小栗は一人厩に入り、「人も生あるもの、馬も生あるもの。生あるものが生あるものを殺める道理はない。もし私の曲乗りに付き合ってくれるなら、寺を建て、死後は馬頭観音になるよう祈ろう」と諭し、鬼鹿毛にまたがり横山親子の前へ。
 無事に戻ってきた小栗の姿に親子は驚くが、長男家継はなおも曲乗りを小栗に課す。
 小栗は鬼鹿毛に乗ったまま十二段のはしごを使って館の屋根に登ったり、碁盤の上に馬の四足を乗せたりと、あざやかに鬼鹿毛をあやつってみせる。勝負は小栗にあり。
 悠々と乾の殿に帰っていく小栗を見て、横山親子は新たな計略を考える。三男の三郎は、明日小栗に詫びと称して酒を振舞う、その酒の中に七味の毒を仕込み、十人の強者もろともに殺してしまおうと提案する。
 翌朝、目を覚ました小栗に照手姫は話す。昨晩見た夢で、家宝の鏡を鷲が持ち去り、宙で三つに割ってしまった。また、小栗が白装束に逆さ鎧、逆さ鞍で葦毛の馬に乗っていた。これは小栗に何か大事があるという前兆だ、と。
 しかし小栗は女人の夢と気にせず、横山親子の前へ。
 横山親子は昨日と打って変わってにこやか。親子は昨日のわびにと、不老長寿の酒を小栗主従に勧める。一度は断った小栗たちだが、下手に下手に出る横山親子に押され、ついに全員酒を口にする。
 飲んでいくうちに、「毛穴が開き、骨が外れる」と十人家来が騒ぎ出し、次々に息絶えていく。小栗自身も苦しい息の下、刀を取って横山親子に立ち向かおうとするが、もう毒は全身にまわりきり、「生き代わり死に代わり、己ら親子の奴ばらに恨みをなさん」と叫び、ついに事切れる。
 将監照元は小栗たちの死体を、初めは裏の谷底に捨てて獅子や狼の餌にしてしまおうとするが、小栗の最期の言葉に恐れをなし、近くの陰陽師に善後策を相談しようとする。
 三郎はただちに陰陽師のもとに行き、事の次第を話す。陰陽師はその場で占い、「小栗は神の申し子であるから天へ帰さねばならぬ。従って小栗のみ火葬、残る十人家来は土葬にすべし」と指示する。三郎は「一人火葬、十人土葬」とつぶやきながら帰り道を急ぐ。
 折りしも外は大雨。道を急ぐあまり、三郎はうっかり落馬し、お尻を強かに打つ。その痛みをこらえながら馬に戻るうち、「一人土葬、十人火葬」と伝言を取り違えてしまう。
 かくて館に戻って三郎は父に占いの結果を告げる。父照元はその占いどおり、藤沢寺へ小栗ら十一人の死体を送り、寺の遊行上人の引導のもと、小栗を土葬、家来を火葬にする。

 あわれなのは残された照手姫。親子は照手姫も同罪と下男の鬼王、鬼次兄弟に、姫を相模川に沈めるよう命じる。すでに覚悟を決めていた照手姫は、自ら牢型の輿の中へ入り、鬼王鬼次兄弟に連れられ相模川へ。
 船の上で「早くあの世で小栗に会いたい」と泣いたり、形見の品を兄弟に渡したりする姿を見るうち、兄弟はどうも姫を沈めるにしのびなくなり、輿をそのまま川下に流してしまう。
 照手姫は流される輿の中、行く末を観音菩薩に祈る。すると輿は風に任せて穏やかに川から海へ流れ、やがて六浦浜に流れ着く。
 集まってきた漁師たちは、不思議な乗り物に乗った妖怪だと照手姫を打ち据えるが、浦君の太夫という慈悲深い老人がそれを止め、家に連れ帰る。
 あわれなのは残された照手姫。親子は照手姫も同罪と下男の鬼王、鬼次兄弟に、姫を相模川に沈めるよう命じる。すでに覚悟を決めていた照手姫は、自ら牢型の輿の中へ入り、鬼王鬼次兄弟に連れられ相模川へ。
 船の上で「早くあの世で小栗に会いたい」と泣いたり、形見の品を兄弟に渡したりする姿を見るうち、兄弟はどうも姫を沈めるにしのびなくなり、輿をそのまま川下に流してしまう。
 浦君の太夫は妻の老婆に、連れ帰った照手を養女にすると言い出す。欲深い老婆は、「養子とは木を切り、櫓をこげるもののことをいう。女なぞは人買いに売ってしまったほうがいい」と打っちゃるが、太夫は怒り、「そんな欲深い女とは一緒にいたくない」と言い放つ。
 その場では老婆は太夫に謝るが、「男は黒い肌の女を嫌う」と、照手を塩焼き小屋に騙して連れて行き、小屋に閉じ込めていぶしてしまおうとする。 煙に巻かれた照手が観音菩薩に祈ると、千手観音が照手の頭上に現れ、煙の方向に立ちふさがり、照手を護る。事敗れた老婆はすぐに人買いを呼びつけ、照手を売ってしまう。
 照手の姿がないことに気づいた太夫が老婆に行方を尋ねると、知らぬ存ぜぬの一点張り。それで事態を察した太夫は、老婆の下を無理やり立ち去り、墨染の衣に身を包んで山里奥へ隠れてしまう。

 人買いの手に渡った照手は、六浦浜から越中氷見、能登、加賀、越前と売られ売られの悲しい身の上。
 やがてたどり着いたのは美濃国・青墓の萬屋長右衛門の屋敷。照手の器量に目をつけた長右衛門は、いい女郎にして稼ぎ頭にしようと考え、照手に名前をつけさせる。
 「そなたの故郷は?」
 照手は小栗のことを思い、その領地の常陸をあえて自分の故郷と言う。それで照手は常陸の小萩と名づけられた。
 さて女郎の仕込み…と長右衛門が腰を上げると、「自分は体内に悪い病があって、男性と床をともにできない」だの、「死んだ夫に操を立てたい」だのと言って避けようとする。
 怒った長右衛門は、それなら十六人いる下女の仕事を小萩一人でやれと命令する。仕方なしに小萩は下女働きをはじめるが、「百人分の料理を作れ」「十八町先の井戸の水をすぐに汲んで来い」とひどい命令ばかり。それでもけなげに仕事に向かう小萩の頭上には、先の千手観音がピンチのときにすぐ現れ、十六人分の仕事も何とかこなすのだった。

 さて、小栗判官と十人の家来の魂は、閻魔大王の前で裁きを受ける。はじめは地上を乱した小栗を地獄に落とすつもりだった閻魔大王は、十人の家来の説得で小栗を地上に返すことにする。
 閻魔大王は木札を取り出し、相模国藤沢の遊行上人にあてて「熊野本宮湯峰の温泉に浸け、本復させること」と一筆書き、小栗の首にかけ、手持ちの杖で宙を指す。
 地上の小栗の墓は突然地響きを起こし、真っ二つに割れる。中から出てきたのは、塚に一年埋まって、すっかり腐れ果てたぼろぼろの肉体の小栗だった。そこに閻魔大王は小栗の魂を戻したのだ。
 烏が騒ぐのを聞きつけて遊行上人が来てみると、地を這いずり回る「餓鬼阿弥」と化した小栗の哀れな姿。
 首にかかる木札を見てことを察した遊行上人は、綱で引く土車に小栗を載せ、木札に「この餓鬼阿弥車引くものは、ひと引きが先祖供養、ふた引きが万僧供養」と書き加え、上人みずから車を引く。
 遊行上人が餓鬼阿弥車を引くその姿に、あらゆる人が集まり、かわるがわるに綱を引いて、餓鬼阿弥車を進めていく。
 その中には、亡き(と信じている)照手姫の菩提を弔う横山一族の姿もあった。もちろん今引いている餓鬼阿弥が小栗判官だとは知らない。
 藤沢から小田原、三島、駿府、浜松…と、餓鬼阿弥車の綱は多くの人の手から手に渡り、次第次第に進んでいく。やがて車は美濃・青墓の萬屋前にたどり着いた。が、ここについた途端、車は急に押せども引けども動かなくなってしまった。
 下女仕事途中の小萩は餓鬼阿弥車を見て、「小栗の菩提のために車を引きたい」と長右衛門に願い出る。もちろん長右衛門は許さないが、「後々に長右衛門に大事がないよう祈る気持ちもある」と小萩は付け加え、何とか三日のいとまをもらう。
 小萩は喜んで、緑の髪を振り乱し、烏帽子に狩衣といういでたちで車を引き始める。
 道中、近江八景や和歌に読まれた名所古跡を通り過ぎるが、それらを楽しむより先に、小萩の心の中には小栗のことばかりが浮かぶ。
 三日はあっという間に過ぎ、大津関寺の玉屋の門で小萩は綱を離す。餓鬼阿弥との別れ際、小萩は餓鬼阿弥が首にぶら下げる木札の裏に、「この車の施主は数多ある中に中山道萬屋長衛門の抱えし常陸小萩」と追い書きし、車と別れ、青墓へ帰る。
 餓鬼阿弥車はなおも街道を進み、ついに熊野本宮の湯峰までたどりついた。温泉に投げ込まれた餓鬼阿弥は、四日目で両目が開き、二十七日目で耳が聞こえ、二十八日で言葉が話せるようになり、四十九日目にして、ついに元の小栗判官となった。小栗は本復の御礼に熊野三山を参詣する。その帰途、熊野権現が小栗の前に現れ、「弓とも盾ともなって天下の運を開くものを授ける」と、小栗に二本の金剛杖を託す。

 小栗が真っ先に訪れたのは、都の父母の家。
 頃しも館では自分の一周忌の法要が行われていた。修験者に変装した小栗を門番は箒でたたくが、その様子をあわれんだ奥方は小栗を館の中に入れる。
 一周忌を迎え、息子のことを思っては泣く奥方の姿に小栗はたまりかね、「私こそは小栗判官、あなたの息子でございます」とひれ伏して告白するが、にわかには本復を信じてもらえない。しかし面体と、小栗が必死に説くいきさつを聞き、ついに奥方も実の息子と悟る。
 その時父、兼家が突然現れ、「もし本当の息子ならば、家に伝わる矢取りの法を知っているはず」と、たちまち三本の矢を小栗に射掛ける。
 小栗は一本目を右手で、二本目を左手で、三本目を歯で止めた。兼家もこれで小栗の本復を信じ、晴れて父子の名乗りをする。
 小栗本復は帝も知るところとなり、小栗が流罪を許され、平判官満重の名と、あらためて常陸の国を賜る。
 常陸国への帰還の途中、満重は青墓の萬屋を訪れる。
 長右衛門に会うなり満重は開口一番、「常陸小萩という下女を座敷に出せ」。小萩はなおも遊女となるのを拒んで下働きを続けていたが、長右衛門の説得でいやいや遊女のなりに着飾って座敷へ出る。ふすま越しよりのぞいてみてびっくり。満重のなりがあまりに小栗判官に似ているので、小栗への操を立てていた照手の心は乱れる。
 逃げようとする小萩を長右衛門は無理強いして満重の前へ。もじもじしている小萩に、満重は以前の木札を指し示す。それが以前、道行をともにした餓鬼病みのものと知り、小萩は初めて自分の身の上を話す。苦しい境遇の中でも夫・小栗のことを忘れなかった心のうちを聞いた満重は、初めて自分が小栗判官であることを明かした。天にも昇る心地の小萩=照手。双方手に手を取って再会を喜び合う。
 小栗は永く照手に苦しい思いをさせていた長右衛門を処罰しようとするが、慈悲を望む照手の心を汲み、逆に美濃十八郡を与える。
 常陸に帰った小栗は、七千騎をそろえて横山親子の討伐に向かおうとする。
 横山家も重装備でこれに立ち向かおうとするが、さすがに実の親の討伐には忍びない照手は、父殺しは天の大罪と小栗に説き、「もしどうしても横山を滅ぼしたいなら、私の命を取ってから」と迫る。
 その強い意志を汲み、横山一族の討伐はやめたが、ただ一人三男の三郎だけは許さず、簀巻きにして海に沈めてしまった。またゆきとせが浦の老婆も、首から下を地中に埋め、のこぎりで首を引き切る刑に処した。
 それからの小栗は照手と常陸で幸せに暮らし、八十三歳で大往生。その霊は美濃の墨俣の正八幡として、また照手姫も同所の契り結びの神として祭られ、人々に末永く慕われた。(完)