ライブドアの残したもの  2005年4月19日 毎日

 

フジVSライブドア、和解 転換点の既存メディア 油井雅和・毎日新聞学芸部
 ニッポン放送株をめぐるフジテレビとライブドアの対立は18日、和解という形で決着した。「メディアの融合」を掲げたライブドアと、フジサンケイグループとの業務提携の具体的内容は今後の協議に委ねられ、先送りされた。ライブドアニッポン放送株を大量に買い付けてから2カ月余り。一連の騒動がメディア界に投げかけたものは何だったのか。メディアにはどんな課題が残ったのか振り返った。

 ◇視聴率重視に警鐘
 電波法の規制により新規参入が極めて難しい放送業界は、既得権益に守られた優良企業の集まりだといえる。ライブドアとフジテレビによるニッポン放送株争奪戦は、「最後の護送船団」に守られた放送局ですら、外部資本によって経営が揺らぐ可能性があることを示した。
 フジテレビの村上光一社長は放送の公共性を盾に、この問題をめぐる報道について「ニュースはただおもしろおかしくやればいいのではない」と批判したことがある。だが、フジテレビは「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチコピーの「軽(かる)チャー路線」で視聴率を稼いできた。劣勢に立たされた末に持ち出された主張に、説得力は感じられなかった。むしろ、若きIT企業経営者である堀江貴文ライブドア社長の印象と対比され、既得権益にしがみつく古い経営者というイメージを広めてしまった。
 また、一連の問題は、インターネットと放送の連携による情報伝達のあり方を、放送業界関係者に再認識させた。フジサンケイグループ関係者の一部では「ネットと既存メディアの融合」を掲げる堀江社長の手法を評価する意見さえあった。ニッポン放送は番組のホームページで放送現場の模様をネット配信することなどを行っているが、それはあくまでもラジオ放送の「付録」だ。フジサンケイグループのある幹部は「今後もラジオだけで経営が成り立つと考えているとしたら問題だ」と反省を述べたうえで、「これはニッポン放送が生まれ変わるチャンスだ」と言い切った。

 「土足で窓から入ってきたのは気にくわない」「フジテレビを手に入れるためにニッポン放送株を買い集めたなら、ニッポン放送に失礼な話だ」。堀江社長の手法に対するこうした感情的批判が渦巻いたことは確かだ。
 しかし、テレビ、ラジオといった既存メディアが大きな転換期を迎えているのは間違いない。今回は「和解」に落ち着いたとはいえ、同種の問題が再発する可能性は消えていない。先送りされたその「答え」は、いずれ出るはずである。