政治: 失望の党


毎日新聞

 10月25日の希望の党の両院議員懇談会では続投を表明した小池百合子代表への辞任要求が噴出した。党役員人事も、来月1日に迫った特別国会での首相指名への対応も決められなかった。小池氏は「都政にまい進する」として混乱から距離を取る姿勢も見せたが、党の統治は崩れはじめている。【影山哲也、樋口淳也、松井豊】


希望の両院議員懇談会に出席した議員の意見
 「代表の一言で180人の同志が戦死した。血しぶきの飛び散る選挙だった」


希望の党が抱える課題
 午後3時に始まった両院議員懇談会は午後6時すぎまで3時間以上続いた。出席者によると、延べで40〜50人が発言した。


 小池氏に辞任を求めたのは全員が民進党から合流した議員だ。希望の当選者50人のうち約40人が合流組だ。民進党出身議員を選別する「排除」発言による逆風のなかで当選してきただけに、小池氏に従う理由はないと感じている。民進党出身の小川淳也氏は記者団に「希望の追い風で助かった人はいるのか」と指摘した。


 小池氏が、人事を含めて党運営は国会議員に任せる考えを示したのはこのためだ。党幹事長などの人事は規約上は代表が指名するが、そのような「トップダウン」がもはや通じないことは小池氏自身が一番よく承知している。


 樽床伸二代表代行らが国会議員と協議して暫定人事案をまとめるという案を会場から提案したのも、無役の階猛氏だった。階氏は記者団に「規約通りに小池氏が指名すると民主的ではない」と説明した。懇談会では小池氏自身がこの規約自体を見直すよう提案した。


 民進党出身議員らは小池氏が主導してきた党の路線にも批判を浴びせた。小池氏は安倍政権との対立軸を強調する一方、個々の政策課題については「是々非々」で臨むとしてきた。


 しかしこの日は「第2自民党になるなら今ここで解党してほしい」(柚木道義氏)などと、政権との対決姿勢を明確にするよう求める意見が多数出た。小池氏も「安倍1強に対峙(たいじ)する受け皿を目指す」と繰り返し釈明せざるをえなかった。


 さらに小池氏の排除発言を逆手にとって「ウイングを狭くしてはならない」「野党とは『排除』ではなく『連携』だ」として民進党時代の野党連携に戻るよう求める声も相次いだ。小川氏は「野党第1党の代表を首相指名したほうが良い」と述べ、首相指名では立憲民主党枝野幸男代表に投票すべきだと発言した。


 希望の基本的な路線である、安全保障法制容認を柱とする「現実的な外交」路線も崩されつつある。


 懇談会では、衆院選で「踏み絵」として候補に署名させた安保法制を容認した政策協定書について議論した。安保法制に反対した民進党出身議員から「選挙のために節を曲げたと批判されている。安保法制は容認していないと確認してほしい」という意見が複数出た。結局、「民進党の考え方と矛盾しない」と確認された。


 樽床氏は「安保法制は不断の見直しをする」と説明したが、外交面では政権と歩調を合わせ、内政で違いを出すという小池氏の路線は、安保法制の廃止を求めた民進党とのもっとも大きな違いで、「排除」の根拠にもなった。人事以前に、党の基本的な立ち位置が揺らぎはじめている。


小池氏、八方塞がり
 小池代表はこの日の両院議員懇談会で「都政にまい進したい」と繰り返し、党務から一歩引く姿勢を示した。一方、党代表については続投を重ねて表明。会合後、記者団から「国政で党内の意見が分かれても国会議員に任せるのか」と問われると、「テーマによります」と一定の関与を残す考えもにじませた。


 小池氏は続投の理由について、希望が衆院比例で1000万票近くを得たと指摘し、結党した責任を強調してみせた。その背景には「党を投げ出した」との批判を避けると共に、小池氏一人の人気に依存してきた希望に、代わりになる「看板」やナンバー2がいないという事情が大きい。


 9月に代表に就任してから、希望の党運営は小池氏のトップダウンで決まってきた。当初は7月の東京都議選の勢いそのままに、民進党出身者に政策協定書で「踏み絵」を踏ませ、衆院選公約も主導。「排除」発言で衆院選敗北の原因を作ったのも小池氏自身で、良くも悪くも「ワンマン」政党の色が濃かった。


 民進分裂前にいち早く希望に参加した顔ぶれを見渡しても、「党の顔」として党内の納得が得られる適任者は乏しい。細野豪志環境相には民進系から「裏切り者だ」と反発が根強く、小池氏が代表代行に指名した樽床伸二総務相も、比例近畿ブロックで単独1位に優遇され、苦戦した当選者らが不満を募らせる。他は玉木雄一郎衆院議員らを推す声が一部ある程度で、小池氏が完全に身を引けば希望は「ただの民進保守系グループ」(党関係者)として、事実上の解党状態に陥りかねない。


 このためこの日の懇談会では、前原誠司民進代表の側近・小川淳也氏ら複数から小池氏に「進退を決断すべきだ」との声が出たが、大勢には至らなかった。出席者の一人は「今は辞任や分裂の話はすべきでない」と渋い顔で話した。


 小池氏は1カ月前の9月25日、希望結党を表明した記者会見では「都政と国政にシナジー(相乗)効果が生まれる」と強調。それだけに、完全に代表を降りれば、肝心の都政でも一層求心力が低下しかねない。


 ただ、自民党は「二足のわらじで都政がおろそかになる」と攻撃しており、小池氏が代表を続投すればその批判にさらされ続ける。ある希望議員は「都政与党の公明党も都議会で協力しなくなるのでは」と懸念。小池氏は、代表を辞めれば「国政投げ出し」と批判され、辞めなければ「都政軽視」と批判されるジレンマを抱えたままだ。