政治: 思想がない日本の社会


毎日新聞

野党をどう育てるか
 政治記者になって30年余。ある単純な仮説がある。実は日本国民は政治を軽んじてきたのではないか。なぜならば、外交・安全保障政策という最重要な政治については自らの主体的責任を放棄して米国に全面依存、経済のパイの分配を政治の役割としてきたからだ。経済は一流、政治は二流でいい、というのが本音に見える。解散政局のドタバタ劇でそれが真説に思えた。


安保への主体性欠如と政治軽視
 そもそも何のための選挙だったのか。安倍晋三政権の5年をどう評価し、継続させるか否かを問うものであった。


 私の点数は辛かった。看板政策のアベノミクスは2%の物価目標を達成できないまま、日本経済を崩壊させかねない負の遺産(日銀の金融緩和からの出口問題、財政収支目標の先送り)を抱え込んだ。新安保法制に代表される外交・安保政策は、中国との抑止力強化競争の道に自らを追いこみ、その延長にある圧力一辺倒の対北朝鮮政策も戦争回避の賢策には見えない。何よりも森友・加計問題隠しの意図が透けて見える国会冒頭解散であった。


 もちろん、安倍政治を評価する人もおられる。そこで野党側との間で丁々発止の安倍政治総括が行われ、国民が最終的に審判を下す、というのが本来の姿であったはずだ。


 ところが、そうはならなかった。野党の合流・新党デビュー劇の衝撃が強く、国民世論の目が十分に安倍政治に向けられなかった。それが自民勝利という選挙結果にも出てしまった。残念の極みである。


 ただ、その野党再編劇の中にも日本政治の本質が宿っていた。それが冒頭申し上げた日本国民の政治軽視と安保政策への主体性欠落であった。


 9月28日の民進党両院議員総会には驚いた。前原誠司代表が、同党と小池百合子東京都知事が党首の「希望の党」との合流方針を公式の場で初めて発表したのだが、強い異論なく満場一致の拍手で了承されたからだ。民進党という旧民主党以来20年の歴史を持ち3年余政権も担当した野党第1党が、一夜にして消滅する。しかも、これは後から現実化したことであるが、安全保障という基本政策で民進党が一貫して掲げてきた新安保法制の廃案主張と、自民党内でもタカ派視されていた小池氏の安保政策がいずれ矛盾することはちょっと想像すればわかっていたはずなのに、さしたる吟味もなかったという。


 これをどう見るか。選挙直前、わらにもすがらんと小池ブランド傘下に入ろうとした気持ちはわかるにしても、あまりに安直な判断ではないか。前原・小池間で合流条件がどう詰められていたかとは別に、安保政策における一種の集団転向的政治行為が選挙民のひんしゅくを買い、希望の党の失速要因になった。小池氏の排除の論理よりはこちらの影響の方が重い気がする。


なぜ政権交代の選択肢持てない
 問題は、安倍政治にきしみが出てそれに代わる政権担当能力のある野党が必要な時に、なぜ我々はその選択肢を持てなかったか、ということだ。


 ひょっとしたら我々が彼らを追いこんだのではないか。


 振り返れば、民進党には必要以上に国民世論のバッシングが続いたように思える。民主党政権の3年余にはいい政策、理念もあったはずだ。税と社会保障の一体改革は、自民党政権が先送りしてきたことに正面から取り組んだ改革だったし、日米対等・アジア重視の外交・安保政策もまた、安保環境変化をにらんだ勇気ある対案だった、と思う。

 にもかかわらず我々は彼らの失敗を言い募り、それを許さず、政党支持率1桁のタガをはめ、その結果、自信喪失に陥った彼らがつい希望の党への合流劇に乗ってしまった。

 これをもって自業自得、しかるべき淘汰(とうた)だという議論もあろう。ガバナンス(統治)能力に欠けた党のなれの果て、という見方も正しい。

 ただ、私はそこに日本国民の政治軽視を感じるのだ。与党ですら米国依存の半人前政治、まして野党はなおさらだ。そこには時間をかけてきちんと野党を育て、いずれ与党が行き詰まった時の受け皿を作っておこうという政治的意思、度量、覚悟がなかったのではないか。もちろん、緊張した与野党関係を作り、いざという時に政権交代で政策変更させよう、などという戦略的意図はありようがない。


 この問題にこだわるのは、未来にも通じる教訓だからでもある。今回は立憲民主党希望の党という二つの新党が立ち上がった。慢心も卑下もない野党として彼らをどう育て、政権担当能力を持つまでに鍛え上げていくか。それは彼らと我々の共同作業だ、ということを忘れずにいたい。


 その際には日本政治の米国全面依存体質にも向き合いたい。日米安保至上主義の下、米国の外交・安保政策に服属する以外の選択肢がタブー視されているが、そろそろ見直すべき時期が来た、と思う。袋小路の沖縄基地問題、日米両国関係の非対等性、対中抑止力強化の持続不能性がそれを物語っている。立憲民主党は、辺野古基地問題の再検証を打ち出している。もっと根源的に日米安保体制を見直す作業も始めてもらいたい。


 政治軽視と主体性欠如の日本を変える好機としたい。