まともな司法になってください

東京新聞社説 2012年5月10日 引用

小沢元代表控訴 一審尊重へ制度改正を

 一審無罪の小沢一郎民主党元代表を検察官役の指定弁護士が控訴するのは疑問だ。そもそも検察が起訴を断念した事件だ。一審無罪なら、その判断を尊重するよう検察審査会制度の改正を求めたい。

 新しい検察審制度で、小沢元代表が強制起訴されたのは、市民が「白か黒かを法廷で決着させたい」という結果だった。政治資金規正法違反の罪に問われたものの、一審判決は「故意や共謀は認められない」と判断している。

 つまり、「白」という決着はすでについているわけだ。検察が起訴する場合でも、一審が無罪なら、基本的に控訴すべきではないという考え方が法曹界にある。国家権力が強大な捜査権限をフルに用いて、有罪を証明できないならば、それ以上の権力行使は抑制するべきだという思想からだ。

 
 とくに小沢元代表の場合は、特捜検察が一人の政治家を長期間にわたり追い回し、起訴できなかった異様な事件である。ゼネコンからの巨額な闇献金を疑ったためだが、不発に終わった。見立て捜査そのものに政治的意図があったと勘繰られてもやむを得ない。

 小沢元代表はこの三年間、政治活動が実質的に制約を受けている。首相の座の可能性もあったことを考えると、本人ばかりでなく、選挙で支持した有権者の期待も踏みにじられたのと同然だ。


 新制度は従来、検察だけが独占していた起訴権限を市民にも広げる意味があり、評価する。だが、新制度ゆえに未整備な部分もある。検察官役の指定弁護士に一任される控訴判断はその典型例だ。検察でさえ、控訴は高検や最高検の上級庁と協議する。

 指定弁護士の独断で、小沢元代表をいつまでも刑事被告人の扱いにしてよいのか。「看過できない事実誤認」を理由とするが、検察審に提出された検察の捜査報告書などは虚偽の事実が記載されたものだ。どんな具体的な材料で一審判決を覆そうというのか。

 むしろ、「白か黒か」を判定した一審判決を尊重し、それを歯止めとする明文規定を設けるべきだ。最高裁も二月に、控訴審は一審の事実認定によほどの不合理がない限り、一審を尊重すべきだとする判断を示している。むろん被告が一審有罪の場合は、控訴するのは当然の権利だ。

 検察による不起訴、強制起訴による裁判で無罪なのに、「黒」だと際限なく後追いを続ける制度には手直しが急務である。

小沢元代表を控訴 裁判は続行 ニッカンスポーツ 2012年5月10日9時10分

 民主党小沢一郎元代表(69)が政治資金規正法違反で強制起訴された「陸山会」事件で無罪判決を受けたことについて、検察官役の指定弁護士3人は9日、判決を不服として東京高裁に控訴した。「けさまで悩んだ」と苦渋の選択だったことを明かす一方で、「控訴審の裁判官を説得できる相当程度の自信がある」と、“逆転有罪”に自信を示した。政治的圧力は否定した。一方、小沢氏は「理解に苦しむ」とコメントを発表。党員資格は今日10日に戻るが、国会議員と被告という「グレー」な立場での活動を余儀なくされる。


 「1審判決に看過しがたい事実誤認があった。論理的におかしな点が多く、修正可能と判断した」。主任格の大室俊三弁護士(62)は会見で、こう話した。「事件の実態を一番理解しているのは被告人と証人で、その次に知るのが指定弁護士。職責を果たすことが控訴だと思った」。元秘書らの検察官調書が証拠採用されず、苦しい立場で下った無罪判決。覆す自信を問われると「5割では足りない。相当程度」。大室氏は、根拠を「論理と証拠」としか明かさなかった。

 
 もっとも、心情的には葛藤もあったようだ。山本健一弁護士(48)は「1審判決を覆すだけの有罪立証ができるか考えた。裁判を無用に長引かせるわけにもいかない。正直、けさまで悩んだ」。大室氏も「納得できない部分も受け入れる余地はないか悩み抜いた」という。


 裁判の過程で、起訴議決に影響を与えた捜査報告書が虚偽だったことが判明し、裁判自体の正当性を問う声も強い。さらに、裁判が続けば、捜査報告書問題が蒸し返され、検察のダメージが広がる恐れもある。小沢氏という大物を控訴する政治的影響も避けられないが、大室氏は「慎重に判断し、その結果を踏まえても控訴の結論になった」。政治的な圧力もないと否定した。

 無罪判決後、3人で2回会い、数時間協議。大室氏は「ベストの選択」と話した。判決後、電話や手紙などが約100件寄せられ、控訴に賛成と反対は「半々」だったという。

 今回の無罪判決は、結論はシロでも、秘書からの報告・了承を認め、指定弁護士の顔も立てる「絶妙の判決」(捜査幹部)といわれた。指定弁護士が逆転有罪を得るには、1審の事実認定がよほど不合理な場合に限られ、焦点となる共謀立証のハードルもより高い。

 大室氏は1審で839時間、山本氏は約600時間を費やした。指定弁護士の報酬は1審、2審ごとに上限120万円とされ、大室氏の場合、時給換算で約1430円。精神的な負担を考えると割に合わないといわれる。大室氏は、精神的負担を問われると「何も考えずに頑張る、としか言えない」と、強調した。

 産経新聞より
 村本道夫弁護士(57)は「検察官であれば組織として控訴するので責任が分散されるが、とても気持ちが重かった」と、指定弁護士独特の重圧にも言及した。