劇評(宝塚歌劇支局)「TRAFALGAR−ネルソン、その愛と奇跡−」
大空祐飛(おおぞら・ゆうひ)さん、野々すみ花(のの・すみか)さんを中心とした宙組公演、グラン・ステージ「TRAFALGAR−ネルソン、その愛と奇跡−」(齋籐吉正氏作、演出)グランド・ショー「ファンキー・サンシャイン」(石田昌也氏作、演出)が宝塚大劇場で開幕した。
「TRAFALGAR−」は、ナポレオンを倒したイギリス海軍の英雄、ネルソン提督の軍師としての偉業とナポリ大使夫人エマ・ハミルトンとの不倫の恋を並行して描いたスペクタクル・ミュージカル。かつて名優ローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リーが仲むつまじい夫婦だったころに製作されたアレクサンダー・コルダ監督の映画「美女ありき」(40年)が、同じ題材を扱っている。モノクロだったがヴィヴィアン・リーの息をのむ美しさが印象的だった。
今回の舞台版もほぼ映画と同じ展開で進むがネルソンが腕を失う経緯やエンディングなどが宝塚的に脚色されている。
幕開けはフランスの港町ツーロン。蘭寿(らんじゅ)とむさん扮するナポレオンが、部下のコーネリアス(月映樹菜=つきえ・じゅま:2006年入団)オーギュスト(蒼羽りく=そらはね・りく:2007年入団)から戦況を聞くくだりから。ナポレオンがネルソンを認識する重要な場面がいきなり登場するのだが、セリフがよく聞こえず、何を言っているのかよくわからないままオープニングに突入してしまう。ここはもう少しベテランがきっちり抑えるべきだったか。
続くオープニングは映像をフルに使い、同じ齋籐氏の星組公演「エル・アルコン」を彷彿とさせるダイナミックなステージング。大空祐飛さん、蘭寿さん、北翔海莉(ほくしょう・かいり)さんら主要人物が次々と歌い継ぎ、最後に大合唱になる主題歌「VICTORY」は「エル・アルコン」「カラマーゾフの兄弟」に続いて3度目となる寺嶋民哉氏の作曲。前2作に比べるとメロディーがやや弱いが、力強いパワフルな曲想で、幕開きにふさわしい高揚感があった。
続いてエマ(野々すみ花)登場。婚約者に会いにナポリにやってくるが待っていたのは伯父のナポリ大使ウィリアム(北翔海莉)。婚約者が5000ポンドでエマを売り渡したのだった。
一方、ロンドンでは戦場から帰還したばかりのネルソン(大空)を再びナポリに送り込む。ネルソンとエマはナポリ大使の公邸での晩餐会で出会い、一目で恋に落ちる。
とまあなかなか要領のいい展開。これにナポレオンとイギリス側の対立、ネルソンと妻ファニー(花影アリス=はなかげ・ありす)との確執などが絡み合う。
ほかにもネルソンと妻ファニーの連れ子ジョサイヤ(愛月ひかる=あいづき・ひかる:2007年入団)ネルソンを狙うオーレリー(蓮水ゆうや=はすみ・ゆうや:2002年入団)らが微妙にストーリーに絡み、ナポリ王国の民衆反乱の場面まであって1時間半の作品にしてはやたらに登場人物が多く欲張りすぎの感じ。全体的には、わりとうまくさばいているので混乱はしないが、それぞれの描き方がどうしても浅くなり、主人公2人も含めてせっかくの人物像の面白みが出なかったのが惜しい。これからはネタばれになるが、ラストはネルソン戦死の場面で終わった方が宝塚的だったような気がする。映画でネルソン戦死の報を聞いたエマが放心状態で倒れ込む場面が素晴らしかっただけに、舞台のラストシーンはいまひとつ盛り上がりに欠いた。そのあとの復活のエンディングはこれぞ宝塚であるだけに惜しかった。
大空さん、野々さんは「カサブランカ」に次いでの不倫カップルだったが、これが似合う不思議な宝塚のトップコンビ。実力派のなせる技だろう。特に野々さんの成長ぶりが頼もしい。これで退団の花影さんもずいぶん大人のムードがだせるようになった。しかし、初々しい娘役もまだまだいけるだけに退団は惜しい。
男役陣は蘭寿さんの存在感がひとまわり大きくなったのと北翔さんが相変わらずの手堅さ。悠未(ゆうみ)ひろやさん十輝(とき)いりすさんは軍服姿がとにかくかっこいい。若手はネルソンを信奉するトム役の凪七瑠海(なぎな・るみ)さんがやはりハツラツとして目が離せない。あとジョゼッピーナの純矢(じゅんや)ちとせさんが彼女ならではの役どころを生き生きと演じていたのが目を引いた。
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