沖縄の人に申し訳ない気持ち


 沖縄タイムス 社説 辺野古回帰]怒 怒 怒 怒 怒・・・ 2010年5月24日

 

 米軍普天間飛行場の問題で、鳩山由紀夫首相は移設先を名護市辺野古に決めたと表明した。「辺野古回帰」という最悪の結末だ。地元理解を得るよう努力するというが、沖縄の心をもてあそんだ為政者を信頼できるだろうか。

 わずか7時間の訪問は日米合意前のアリバイづくりにも見える。鳩山首相が県庁で仲井真弘多知事と面談中、県議会議員らは議会棟前で座り込みした。市民団体の抗議が響き、「怒」と書かれたプラカードが沿道を埋めた。

 こうした地元の訴えに耳を傾けない鳩山内閣のやり方は前政権よりもたちが悪い。

 日米両政府が大筋合意した結果だけを地元に放り投げるのが民主党のやり方ならば、いっそのこと政権公約に掲げた「地域主権」を重要政策から降ろすべきだ。それとも沖縄は別枠、とでも言うのか。

 選挙で「最低でも県外」と公約したことを、党代表の発言にすぎないと言い訳し、普天間の新たな移設先を「ゼロベースで探す」と言いながら、県外の可能性を本気で検討した形跡はない。

 そもそも現行案の微修正が実現可能な解決策だと本気で考えているのだろうか。

 日米両政府は28日にも合意文書を発表する予定らしいが、米国は「政治的に持続可能」な決着を求めている。海外に多くの基地を持つ米国は地域住民が反対する軍事施設が政治的に脆弱(ぜいじゃく)であることを熟知しているはずだ。

 「なぜ沖縄に」の問いに答えることもなく、「やはり辺野古で」と言い出す鳩山首相にはあきれるばかりだ。

 普天間問題をめぐる国内論議は、本質論よりも政局ばかりが注目され、異様な雰囲気に包まれている。

 鳩山首相は「昨今の朝鮮半島情勢から分かるように東アジアの安保環境に不確実性がある」とし、海兵隊を含む在日米軍の抑止力を強調した。

 それをもって沖縄の過重負担を正当化するには無理がある。米軍は戦時に数十万の兵力を空輸で投入できるため、日本のどこに海兵隊を置いても運用に支障はない。

 しかも在沖海兵隊はアフガン、イラン派兵などで不在が多い。2005年から昨年まで年間延べ3千〜4千人を派兵している。残る部隊もアジアを遠征しており、タイで共同訓練があった今年2月から4月まで普天間飛行場はがら空きだった。鳩山首相が「学べば学ぶほど」と語った抑止力はいったい何だったのか。

 海兵隊を知るほどに県外・国外移転の可能性が見えてくるはずだ。

 国土面積のわずか0・6%の沖縄なら海兵隊配備が可能で、本土では無理、というのはあまりに理不尽だ。どこも反対だから―という国内事情を抑止論で覆い隠す手口にはもううんざりだ。

 政権交代はこの国にとって歴史的転機であるはずだ。外交・安保も新たなアプローチがあるだろうと期待を寄せていた。それが裏切られ「怒」が高まる沖縄で米軍基地はこれまで以上に脆弱化することを政府は認識すべきだ。

 日米同盟は沖縄をめぐり一層混迷するだろう。