TAKARAZUKA NEWS 劇評 『リラの壁の囚人たち』 (宝塚歌劇支局 薮下哲司氏)

 

 星組の人気男役スター、凰稀(おうき)かなめさん主演バウ・ミュージカル「リラの壁の囚人たち」(小原弘稔氏作、中村一徳氏演出)が宝塚バウホールで開幕した。
 
 「リラの壁の囚人たち」は1988年に涼風真世(すずかぜ・まよ)さんを中心とした月組で上演され、好評だった作品の22年ぶりの再演。
 

 舞台は1960年。イギリス人将校エド(凰稀)が、パリの下町のとある袋小路を訪れるところから始まる。そこで昔なじみのマリー(音波(おとは)みのり:第90期生)と再会したことをきっかけに、戦時中、ここで起こった出来事を回想するという展開。

 エドの冒頭のソロとレジスタンスの戦闘でエドが負傷する場面をダンスで再現したのが今回のオリジナル。それとフィナーレ以外はほぼ初演通りに展開する。

 時は1944年。レジスタンス活動のためにフランスに潜入していたエドが負傷を負い、ここへ逃げてくる。住民たちは彼を匿(かくま)うことを拒否するが地回りの警官モラン(美城(みしろ)れん:第83期生)が引き受ける。彼にはポーラ(白華(しらはな)れみ:第89期生)という娘がおり、エドと彼女はほどなく恋に落ちる。しかし、ポーラには負傷兵で車いす生活の婚約者ジョルジュ(紅(くれない)ゆずる:第88期生)がいた。

 
 初演はエド涼風真世さん。ポーラは朝凪鈴(あさなぎ・りん)さん、ジョルジュが久世星佳(くぜ・せいか)さん、モランは未沙(みさ)のえるさん。ほかにも汝鳥伶(なとり・れい)さん、星原美沙緒(ほしはら・みさお)さん、邦(くに)なつきさん(現在は専科)そしてエドレジスタンス仲間で轟悠(とどろき・ゆう)さんと天海祐希(あまみ・ゆうき)さんが出演するといういま考えると超豪華キャストだった。


 濃密な演劇的空間でくり広げられる心理ミュージカルで、出演者のアンサンブルが命ともいうべき舞台。今回は比較的若手メンバーでの上演となったが、凰稀さんを中心に予想以上のまとまりをみせた。

 凰稀さんは、冒頭の登場シーンでヒゲをつけたが、これがよく似合い、渋いことこのうえない。歌唱も声に張りがでてきた。「風と共に去りぬ」のバトラー役が似合いそうだ。回想のエドは、宝塚の二枚目ならではの謎めいて影があり、立っているだけで見せるという、受けの芝居の多い難役だが、凰稀さんにはこういう役は逆にぴったりはまった。

 白華れみさんは花組から組替え後初舞台。都会的で知的な役が似合う彼女にもポーラはぴったりで、星組での初陣を飾った。凰稀さんとの相性もいい。

 ジョルジュの紅さんは、ずっと車いすでの芝居。いらついた感情の表現がやや行きすぎ。これは演出の計算違いか。紅さん自身は熱演だが、これだけわめき散らすと舞台の空気が変わってしまう。もっとクールな方が哀しみが出たと思う。

 ほかにはモラン役の美城れんさんの巧みさ、小悪党ジャン役の壱城(いちじょう)あずささんの嫌みにならないさっぱりした演技に感心。ナチス将校ハイマン役の美弥(みや)るりかさんは、逆にもう少し威圧感のある嫌みな役作りでもよかったかと。ハイマンの愛人役マリーは、実はこの舞台で一番重要な役どころ。音波さんはこれまであまり大きな役で見たことがなかったが、ここへきて実力を発揮。恋に揺れる女性の心情をはかなくも強く表現した。

 レジスタンス仲間の一人、麻央侑希(まおう・ゆうき:第93期生)さんはスター性抜群だが、もう少し身体を絞ってほしい。

 参考日記=2010年05月07日 劇評 さかせがわ猫丸さん 「リラの壁の囚人たち」


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