劇評(プレシャス!宝塚)『熱血派・新生月組トップの誕生 宝塚月組・霧矢大夢』


記憶のある月組トップスターは榛名由梨(はるな・ゆり:1973年10月31日〜1982年8月31日)さんからで、それから大地真央(だいち・まお:1982年9月1日〜1985年8月31日)さん、剣幸(つるぎ・みゆき:1985年9月1日〜1990年12月26日)さん、涼風真世(すずかぜ・まよ:1990年12月27日〜1993年7月31日)さん、天海祐希(あまみ・ゆうき:1993年8月1日〜1995年12月26日)さん、久世星佳(くぜ・せいか:1995年12月27日〜1997年4月30日)さん、真琴つばさ(まこと・つばさ:1997年5月1日〜2001年7月1日)さん、紫吹淳(しぶき・じゅん:2001年7月2日〜2004年3月21日)さん、彩輝直(あやき・なお2004年3月22日〜2005年5月22日)さん、瀬奈じゅん(せな・じゅん:2005年5月23日〜2009年12月27日)さん、霧矢大夢(きりや・ひろむ2009年12月28日〜)さんと続きます。


 新トップスター霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん率いる新生月組が話題のミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」(宝塚大劇場:5月17日まで)で船出した。08年星組で大ヒットしたものの再演で、当時安蘭(あらん)けいさんが演じたスーパーヒーロー・パーシーを霧矢さんが個性たっぷりに、自分色に仕上げた。「リーダーシップをとって作品をぐいぐい引っ張りたい」とトップとしての自覚も十分。生まれ変わった組に「舞台人として意識が高い組になって欲しい。だからこそ、私が一番その“情熱”を持ち続けたい」と力説。役柄同様、熱血派・新トップスターの誕生だ。

   


 ずばぬけた歌唱力で、霧矢・パーシーが幕開きから客席をぐいぐい引き込んでいく。普段は「ちょっと間抜け」なイギリス貴族も、裏に回れば強きをくじき弱きを助けるスーパーヒーロー。その変わり身の妙を劇団随一の演技力で見せ、安蘭・パーシーとはひと味違うヒーローに仕上げた。「見てくださる方に“あっ霧矢さんのパーシーになってるな”って思ってくだされば」と願っていた通り、霧矢さんらしい快活なヒーロー像だ。

    


 同作は08年6月、安蘭けいさん率いる星組で上演されたミュージカル。美しいナンバーの数々や笑いの要素もたっぷり含めたストーリー展開が話題を呼び大ヒットした。しかし、わずか2年での再演は星組のイメージも強く残る。霧矢さんも「再演ものの苦しみは、イチから作る作品とは違う苦しみがあって、最初は手放しで喜ぶことはできなかったんです。あれだけ評価を得た作品を、さて新生月組がどれだけできるんだろうか? と。だから最初は不安半分、期待半分でした」と正直に振り返る。


 しかし、苦労した分、得るモノも大きい。「最初に大きなハードルが来た方が、みんながグッと力を付けていけると思うし、今後のためにはこの作品がお披露目でよかったと思う」と自信を見せた。


 彼女自身、大きなハードルを乗り越えてのトップスター就任だ。94年に首席で卒業し、その後も順調にキャリアを重ねていった。しかし03年、突然悲劇が襲う。膠原(こうげん)病を患い舞台を休まざるを得なくなったのだ。


 「病気をしたことは本当に大きなヤマでした。だけど、それを乗り越えた時、具体的な目標より『本当に舞台を楽しくできたらいいわ』と思えたんです。当たり前のことが当たり前にできることの素晴らしさがあって、新しい舞台の度に自分の情熱をすごく注げるようになった。で、結果がこういう形(トップスター)になったんだと思えるんです

 
 注目の作品で力強く発進した新生月組。霧矢さんは最後にこう加えた。「どういう組にしたいか? って言われると言葉にするのは難しい。でも、舞台をやっていく上で私が一番強く思っているのはベタだけど情熱を持つこと。役に集中して追求し続けること。だから組子にも舞台人として、そういう意識の高い組になって欲しい。そのためには、自分が一番そうであり、成長し続ける姿を見せたい」。トップに立ってもまだまだ貪欲(どんよく)な姿勢を崩さない。これからの成長もますます楽しみだ。

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