劇評(プレシャス!宝塚より)「虞美人」桜乃彩音さんのサヨナラ公演


 タカラヅカの往年の名作「虞美人」が36年ぶりによみがえった。中国の史実「項羽と劉邦」をベースに壮大なミュージカルとしてリメークされ、花組トップスター真飛聖(まとぶ・せい)さんが悲劇の名将・項羽を熱演。真飛さんは「タカラヅカの財産である名作に出させていただくのはありがたいけれど、今の自分たちにできる虞美人を作り上げたい」と意気込んでいる。2年間、真飛さんとコンビを組んできた娘役トップ桜乃彩音(さくらの・あやね)さんにとってはこれが最後の作品項羽に添い遂げる愚美人をはかなくもかれんに演じ、有終の美にふさわしい舞台に仕上がった。

 

 ゴージャスな衣装に派手な剣舞。大きなフラッグを振っての戦闘シーンは迫力満点で、出演者そろってのコーラスは観客の心をグッと捕らえる力強さがある。壮大な中国の歴史ロマン。タカラヅカの名作中の名作が36年の時を超え、鮮やかによみがえった。

       中央=劉邦壮一帆:そうかずほ

 初演は1951(昭26)年。項羽春日野八千代(かすがの・やちよ)さんが演じた。再演、再々演と続き鳳蘭(おおとり・らん)さん、安奈淳(あんな・じゅん)さんも演じてきた

写真:鳳蘭さん
   


しかし、真飛さんは「劇団の財産である作品に出させていただくのは大変ありがたい」と前置きしながらも「リメークしたものですし、今タカラヅカに在籍している者たちが、今の『虞美人』を見せることに集中したい。台本を頂いて、自分が感じたものに仕上げたい」と強調する。

 「ベルサイユのばら」「ME AND MY GIRL」「メランコリック・ジゴロ」…。彼女は再演モノに出演することも多いが、いつも以前のDVDはあまり見ないという。「じっくり見ちゃうと、そのイメージがつきすぎて、今の私がやる意味がなくなってしまうから」と、自分の感性を大事にする。「名作だということにあまりとらわれず、今新たにやる意味を考えながら、新たな伝説を作りたい」と力強く宣言した。

 今も歌い継がれる主題歌「赤いけしの花」はそのままだが、曲数は劇的に増えた。真飛さんの一番のお気に入りは「花は花」という新曲。

 (項羽)誓おう / あなたに花は花よ / あるがままやすらかに愛するように / どんなときも信じていると (項羽・虞美人)生きよう / あなたと / 鳥は鳥よ / 空高く / ともに舞う翼のように / なにものにも捕われない /  誰も / なにも / 信じられない / この世界だからこそ / 生きよう / あなたと / あなたと

 虞美人との愛を誓うシーンやクライマックスで披露し「前奏を聴くだけで“ウッ”ってこみ上げてくるものがあるんです。壮大なスケールで旋律がものすごくきれい」とゾッコンだ。

 今公演にはもうひとつ、大きな意味がある。08年から2年間、真飛の相手役を務めてきた娘役トップ・桜乃さんのサヨナラ公演でもあるのだ。真飛さんは「ようやく舞台で隣にいて楽に芝居ができるようになったので、彼女が退団するのは寂しい。でも誰しもいつかは来るものでしょ? 虞美人の真っすぐさや、いちずな部分は彼女にすごく合っていると思うし、そういう彼女を最後に隣で見られるのは幸せです」と最上級の賛辞を送る。

 クライマックス、足手まといになることを嫌い、項羽の前で自ら命を絶つ虞美人のけなげは桜乃さんの素顔と重なり胸を打つものがある。「心にウソがない、潔い男」と項羽にほれ込む真飛さんと桜乃さん。2人が寄り添う姿を見られるのも今回が最後。役と素顔が交錯する2人の熱演は見逃せない。(日刊スポーツ記者・土谷美樹氏)

 ◆「虞美人」 紀元前3世紀。国家統一を果たした秦の始皇帝が亡くなり、各地で群雄が割拠していた。秦に国を滅ぼされた楚(そ)の項羽真飛さん)は「いつか天下を取る」と野望の炎を燃やしていた。そばには必ず虞美人(桜乃さん)が伴い、2人のきずなは固いものだった。
 一方、沛(はい)県にも天下を狙う人物がいた。その劉邦壮一帆:そうかずほ)は酒と女を好み、自然と人を引きつける魅力のある男だった。なぜか気が合った2人は義兄弟の契りを結ぶ。
 やがて項羽は秦を攻めるべく北へ、劉邦は西に向かう。目指すのは共に秦の都。真っ先に都に入った者が、その地の王となることが約束されていた。激戦を制し軍を進める項羽に対し、劉邦は無駄な戦いを避け、阻む者を懐柔しながら進軍。果たして都に先に入ったのは劉邦だった。やがて2人は覇権を賭け激しく争うことになる。宝塚大劇場で4月12日(今日楽日)まで上演。

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