明日 虞美人ー新たなる伝説ー観てきます。


 わたしにとって宝塚大劇場で観る最後の桜乃彩音(さくらの・あやね)さんになります。同時に、愛純もえり=あいずみ・もえり 2002年入団第88期生 娘役=さんと 花織千桜=はなおり・ちさ=2006年入団第92期生 娘役=さんが退団します。 
  2009年7月11日 『桜乃彩音さんの誕生日です。


木村信司氏(脚本・演出) 宝塚プログラムより引用。

 白井銭造氏作・演出の『虞美人』は、1951年に初演された戦後宝塚の大ヒット作です。当時、舞台には本物の馬が登場し、主題歌「赤いけしの花」は

赤い花びら 恋のいろ 燃ゆる心の 虞美人草 咲けば散るもの 枯れるもの なぜに咲くのか 美しく 命みじかく 咲く花の 風にさびしや 虞美人草 はかなき夢に あこがれて 今も咲くのか 赤い花 かえらぬ夢よ 今いちど 虞よ虞よ君を 如何に 虞よ虞よ君を 如何に 

 今なお、宝塚歌劇では折りにふれ歌い継がれています。これほどの大ヒット作が、どうして再演されないのだろう。それをずっと訝(いぶか)しく感じていました。そして理由はおそらく馬にあるのでは、と思っていました。本物の馬を舞台に登場させるのは、今となっては飼育の問題もあり、ほとんど不可能です。馬が不可能なら、再演もできない。・…でも、本当にそうなのでしようか。

 そこで白井先生の脚本と、原作「項羽と劉邦」を調べたところ、素晴らしいのは馬ではなく、作品そのものであると分かってきました。京劇「覇王別姫(はおうべっき)」の題材でもある、覇王・項羽と虞美人の別れの物語が儚(はかな)く、美しく、素敵なのは言うまでもありません。項羽と劉邦、二人の英雄の戦いも魅力的です。

 そこに男装の麗人である桃娘(とうじょ)のファンタジーが加わっている。少女マンガ「リボンの騎士」のサファイア、「ベルサイユのばら」のオスカルから遡(さかのぼ)ること幾年(いくとせ)、宝塚ファンタジーの原型を見る思いでした。さらには范増、韓信張良など、そもそもの原典「史記」ならではの、多彩な人物たちが登場し、壮大な中国歴史ロマンを展開しています。

 馬が大切なのではなく、作品にこそ魅力があった。これが、自分なりに調査を終えた結論でした。「虞美人」という題名に対して、どうか感慨を述べさせてください。この傑作を新たにミュージカル化すべく、脚本を書き進めながら、ある疑問を抱えていました。いま自分が書いているのは「虞美人」ではなく、「項羽と劉邦」ではないのか。題名と内容に隔たりがあるのではないか。疑間が解けたのは、物語を最後まで書き終えたときです。

 項羽劉邦の物語は、実は戦乱の時代ならではの殺し合い、騙し合いの世界です。男性的とでも言いましようか。そうした殺伐とした物語を救っているのが、女性的な価値観でした。虞美人のみならず、温かく、柔らかく、慈悲に満ちた世界です。女性的というより、観音の許しなのかもしれません。宝塚歌劇で上演するにあたり、どうしても題名は「虞美人」でなくてはならない。そう感じたとき、白井先生の言葉を聞いた気がしました。

 「だからこそ僕は、虞美人と名付けたんだよ」先人は容易に越えられないようです。真飛聖さん、この公演を最後に退団する桜乃彩音さんを始めとする花組とともに、遺された偉大な業績に、少しでも近づけるよう努めます。

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