年末なので 宝塚の重鎮? 鳳蘭さん

 舞台は1928年のパリ。スポットライトきらめくレヴュー小屋。物語は元憲兵大尉・甘粕正彦がパリの街角にあるレヴュー小屋に迷い込むところから始まる。謎のベールに包まれた歴史的人物、甘粕は、無政府主義者大杉栄暗殺事件の責任を一身に負い服役。その後、パリへ渡り諜報員紛いの仕事をしながら悶々とした日々を送っていたが、諜報活動の失敗から追われる身となる。レヴュー小屋に逃げ込んだ甘粕は、日本からレヴューを学びに来る手筈になっていた、ある日本人と間違われる。その日本人こそ、宝塚にレヴューを持ち帰った白井鐵造であった。白井と思い込まれた甘粕にとって、レヴュー小屋は絶好の潜伏場所となる。エリート軍人として歩んでいた道をはずれ、挫折感から半ば世捨て人のような心境になっていた彼の心を揺るがしたのが、一人の踊り子ドリイであった。しかし彼女は甘粕が暗殺に加担した大杉栄のパリ時代の愛人だったと知り心を痛める。
ある日、どうしてそんな明るく振舞い、舞台で踊っていられるのか、と甘粕がたずねると、ドリイは「人々に勇気や救いを与えられるレヴューの舞台に立っていられることが私の誇り」と微笑んだ。
そんな彼女に、甘粕は希望の光りを見る。そしてレヴューは国境を越えていく…。

●構成・演出 : 大野拓史
●キャスト : 鳳蘭麻路さき湖月わたる彩輝なお星奈優里、福井貴一
瑠菜まり、苑宮令奈、雪路かほ、陽色萌、汐夏ゆりさ、南海まり

【キャスト変更のお知らせ】
このたび、「レザネ・フォール」出演者の水月舞が、
怪我のため降板することとなりました。代わって、雪路かほが出演いたします。
●公演日程 : 《東京厚生年金会館》 2009年 11/21(土)〜22(日)
《大阪:梅田芸術劇場メインホール》12/14(月)15(火)

 宝塚歌劇支局より引用。
鳳蘭を中心とするタカラジェンヌOGによるミュージカル・レビュー「レザネ・フォール」(大野拓史作、演出)が、東京、博多、名古屋を巡演、大阪・梅田芸術劇場メインホールの公演で千秋楽を迎えた。今回はこの公演の模様を中心に報告しよう。

 鳳を中心としたOG公演といえば「狸御殿」シリーズが記憶に新しいが、今回はそのパリ版といった雰囲気のレビュー。

 1928年のパリ。とあるレビュー劇場に福井貴一扮する元憲兵大尉、甘粕が潜入、彼を日本の宝塚少女歌劇団からやってきた若き日の白井鐵造氏と勘違いしたマダムや踊り子たちがくり広げる悲喜劇が「すみれの花咲くころ」などおなじみのシャンソンの名曲を散りばめて展開する。マダムが鳳、男役のスターが麻路さき、その妹が彩輝なおプリマドンナ星奈優里、劇場の精霊が湖月わたるといった元星組を中心にしたメンバー。甘粕が好意を寄せる踊り子のドリーに南海まりが扮している。

 パリのレビュー劇場の話に甘粕や大杉栄といったレビューにふさわしくない人物の名前が登場、いったい誰の作だろうとプログラムを見ると大野氏。おもわず納得の苦笑い。それにしてもお話部分のこの寒さはどうだろう。まともに筋を追う気力すら失せるほど。

 一転、レビューシーンになると鳳以下、トップをはったスターが4人そろうとさすがの華やかさ。麻路のおおらかな明るさ、彩輝のコケティッシュさ、湖月のダイナミックなパワー、星奈の芯の強さと4人4様の魅力はいずれも健在。ただ話部分とレビューの切り替えが甘くていささか気の抜けたサイダーを飲んでいるような歯がゆさが残る。

 しかし、話が終わってフィナーレに入り、鳳のワンマンショーが始まると空気は一変。たった一人で大劇場の舞台と客席は見事ひとつになった。ひとえにエンターテナー鳳の力だ。鳳の今年の活躍はめざましく「雨の夏、30人のジュリエットが還ってきた」「ココ・シャネル」「屋根の上のヴァイオリン弾き」とまさに女優賞もの。とはいえレビューはやはり水を得た魚のよう。この多才ぶりは日本の宝といってもいいだろう。

 次女で文学座に所属している荘田由紀が、来年3月、東京・俳優座劇場で上演される「女の一生」(森本薫作、江守徹演出)で故杉村春子さんの当たり役、布引けい役に抜擢されるというビッグニュースも飛び込んできた。鳳の類い希なDNAを彼女が別の形で受けついでくれそうな予感がして、楽しみなことである。