ME AND MY GIRL 評3

ヅカ★ナビ(2009年7月24日)より。

 スター中心主義のタカラヅカでは、スターに合わせて作品が選ばれ、ひたすらスターがカッコ良くみえるように脚本も改変され、演出もなされるのがお約束。
 でも、このお約束に従わない作品が2つだけある。ひとつが、現在東京宝塚劇場月組が上演中の「エリザベート」、そしてもうひとつが「ME AND MY GIRL」である。

 「エリザベート」はウィーン発、「ME AND MY GIRL」はロンドン発、いずれも海外ミュージカルという共通点があり、タカラヅカでも何度か再演されている。
 もちろん、最後にフィーナーレが加わるなど、タカラヅカ版ならではの改変は加えられているものの、タカラヅカ版では脚本、演出ともに毎回ほとんど同じパターンで上演されている。

 つまり、「エリザベート」と「ミー&マイガール」に限っては、スターに役を合わせるのではなく、スターが役に合わせる、というわけだ。だが、そこにスターの個性が滲み出る。同じ役を演じるスターごとの比較が、観る側にとっての大きな楽しみでもある。

 2009年7月4日〜7月20日まで、梅田芸術劇場にて上演された、花組「ME AND MY GIRL」。
 この作品、5組すべてで上演されたことのある「エリザベート」と違い、これまで5度の上演がいずれも月組だった。ミー&マイガールといえば月組」というイメージが強かっただけに、初の花組ミー&マイガールは如何に?というところも注目のツボだった。

 主演の真飛聖(まとぶ・せい)さんのキャラの影響だろうか。花組バージョンは、これまで以上に「ホットなミー&マイガール」であったように思う。

      


 月組バージョンの歴代の主人公ビルはいずれも、サラリとお洒落に演じられてきた印象が強い。対する真飛聖さんのビルは、ロンドンの下町っ子らしいコミカルな場面と、サリーを想う真面目な場面との落差が激しい、情の深いビルである。
 とにかくサリーのことが可愛くて可愛くて仕方なくって、その気持ちが隠し切れない。それだけに、サリー(桜乃彩音(さくらの・あやね)さん)との場面もいっそうラブラブで、みていて微笑ましいカップルであった。

 ジョン卿、ジャッキー、ジェラルドの3役を、壮一帆(そう・かずほ)さん、愛音羽麗(あいね・はれい)さん、朝夏まなと(あさか・まなと)さんの3人が役替わりで演じるというのも、今回のみどころ。
 私が観たのは2009年7月20日千穐楽、ジョン卿が愛音羽麗さん、ジャッキーが壮一帆さん、ジェラルドが朝夏まなとさんという配役パターンであった。

 「太王四神記」では悪の権化の大長老を、主演作の「オグリ」では伝説のイイ男オグリをそれぞれ好演した壮一帆さんが、貴族のじゃじゃ馬娘ジャッキーを演じる。お芝居で「女役」を演じるのは初めてだそうである。
 いっぽうの愛音羽麗さんは、「太王四神記」ではヒロインの妹役のスジニを、「外伝ベルサイユのばら」ではオスカル役を演じている。それが今回は生粋のイギリス紳士ジョン卿である。聞けばこちらは、お芝居で「髭をつける」のが初めてとか。

 いったいどうなることやら?と、想像もつかなかったのだが、いざ舞台を観れば、「なるほど、こういう配役もありか!」と驚かされる。
 壮一帆さんのジャッキーは、「女役」ということを意識し過ぎず、のびのびと演じていて、すごいインパクト。劇中では「働くなんてまっぴらゴメンよ」なんていっているが、あのジャッキーなら起業しても十分やっていけそうである。
 愛音羽麗さんのジョン卿。こちらは男役としてのキャリアを存分に生かした、温かく慈愛溢れる紳士であった。髭もまったく違和感なく似合っていた。

 同じ作品でも、演じる人によってこうも変わるものかと、また、意外な配役が役者の新たな可能性を開いてくれることもあるのだと、今回の「ミー&マイガール」で、舞台というものの奥深さを改めて思ったのである。

 大阪のみ、たった15日間という公演。コミカルな小芝居や小道具使いが多く、アドリブを効かせられる余地も多いこの作品にとってはあまりに短い。出演者の息も合い、ようやくノッてきたようなところで千穐楽を迎えてしまったのが、少々残念だ。
 願わくばまたいつか、東京でも、この花組バージョンのより練れた「ミー&マイガール」を観てみたいものである。

1987年月組 1995年月組 1996年月組 2008年月組 2008年月組
★①1987年11月13日(金)〜12月20日(日)月組宝塚大劇場公演・1988年03月03日(木)〜03月30日(水)月組東京宝塚劇場公演 ビル:剣幸(つるぎ・みゆき)さん (涼風真世(すずかぜ・まよ)さん) サリー:こだま愛(こだま・あい)さん ◇宝塚大劇場の1987年12月5(土)・12(土)・19日(土)の11時公演に於いて、涼風さんがビル、剣さんがジャッキーという役替わり公演が行われた。