『A-“R”ex』−如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか−

 作・演出/荻田浩一氏。 出演アレックス瀬奈じゅん(せな・じゅん)さん。  ニケ(勝利の女神 彩乃かなみ(あやの・かなみ 1997年入団 花組宙組→2004年月組娘役トップスター 2008年7月退団)さん。  ディオニュソス(酒と豊穣の神) 霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん。  オリンピアス(アレックスの母)矢代鴻(やしろ・こう 1968年入団男役→雪組 娘役に転向→専科 2008年1月14日のこの公演を最後に宝塚歌劇団を退団)さん。  フィリッポス(アレックスの父)/ダリウス(ペルシャ王)萬あきら(ばん・あきら 専科)さん。  アテナ(戦いの女神): 出雲綾(いずも・あや 1983年入団 星組宙組→専科→2006年月組組長→2008年7月退団・娘役)さん。  アリストテレス(アレックスの家庭教師)北嶋麻実(きたじま・あさみ 1991年入団→2008年7月退団・男役)さん。  タイス(ギリシャの歌姫)音姫すなお(おとき・すなお)さん。  ヴァルシネ(愛妾) : 天野ほたる(あまの・ほたる)さん。  ヘファイスティオン(アレックスの部下で友人)龍真咲(りゅう・まさき)さん。  セレウコス(アレックスの部下)綾月せり(あやづき・せり)さん。  クレオパトラ(アレックスの妹) 麻華りんか(あさはな・りんか 2002年入団→2008年1月14日のこの公演を最後に宝塚歌劇団を退団・娘役)さん。  スタテイラ(ペルシャ王女)白華れみ(しらはな・れみ 2008年1月花組へ異動・娘役)さん。  アンティゴノス(アレックスの部下): 響れおな(ひびき・れおな)さん。  カッサンドロス(アレックスの部下)貴千碧(たかち・あお)さん。  宝塚歌劇団月組13名・専科2名。

解 説
 歴史に名高いマケドニアの王・アレクサンダー3世の短くも烈しい生涯を、時にコミカルに時にシュールに、ポップでシニカルな音楽に乗せて描くショー・ミュージカル。
舞台は、ミュージカル『アレクサンダー大王の物語』のリハーサル風景として進められ、主人公・アレクサンダー大王は、そこでは、親しみを込め、またはアイロニカルに「アレックス」と呼ばれる。

物 語
紀元前356年、ペルシアとの戦争に疲弊したギリシア世界。
辺境の地マケドニアの王子として生まれたアレックスは、混迷するギリシアを統一しようとしていた父王が頓死し、決断を迫られる事となる。
即ち、父の後を継いで戦争を続けるか、否か。
そして、そこには様々な人々、もしくは神々の思惑があった。
例えば、母オリンピア。父王の存命中には、夫と対立して戦争を批判していたものの途端に掌を返したように、息子の栄光と帝国の繁栄の為に戦争を推奨する。
または、女神アテナ。ギリシア世界の盟主たる都市国家アテナイの守護神たる彼女はもう一方の盟主国スパルタの守護神ポセイドンと結託して、今まで顧みることのなかった辺境マケドニアの王子を、ギリシア世界復権の旗頭にしようと企んでいる。女神は、思い悩むアレックスの前に、自らの使いを差し向ける。
アテナの使者、彼女こそ、勝利の女神ニケ。アレックスはニケと恋に落ち、彼女が指し示す道を進もうと決意する。だが、その道のりこそ、凄惨で苛烈な戦線に他ならず二度と故郷に戻ることのない遠征の始まりだった。
誰もが、彼を戦場へと駆り立てる。
 彼は迷うことなく、戦地に赴くようになる。
 エジプト、ペルシア、インド。彼の旅は止め処なく、果てしない。



06/21 21:00 A-“R”ex −如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか−(東特・千秋楽) アレクサンダー大王の生涯を、時にコミカルに時にシュールに、ポップでシニカルな音楽に乗せて描く。'08年月組/東特・千秋楽/出演:瀬奈じゅんさん、彩乃かなみさん 他(166分)
2008年1月7日(月)〜1月14日(月) 東京特別公演(日本青年館大ホール)

宝塚歌劇支局071221」より引用。

 瀬奈じゅんさんを中心とした月組選抜メンバーによる「A”R”ex〜いかにして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか〜」(荻田浩一氏作、演出)が梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されている。☆2007年12月14日(金)〜12月26日(水)☆

  世界史に名高いマケドニアアレクサンダー大王を題材に、その短くも激しい生涯を、芝居仕立てで描いた荻田氏らしい意欲作。幕が上がると舞台上に三々五々、登場人物が集まり、やおら芝居が始まる。1970年代に流行した迷彩服のような衣装を着た瀬奈さん扮する青年が、アレクサンダー役。

  内容的には、サブタイトルにあるように、なぜアレクサンダーは東へ東へと戦いに駆り立てられていったのかという事実を検証しながら、自由に生きているように見えた主人公が実はがんじがらめで、自由を勝ち得るとは死を意味することだったという話。

  宝塚のショーミュージカルとしては、やや理屈っぽくて、楽しいとはお世辞にもいえない。かといって感動作かどうかといわれても、なかなか辛いものがある。

  瀬奈さんは迷彩服以外に軍服などいろんな衣装に早変わりして、かっこいいところをふんだんに見せるので、ファンとしては大満足かも。

  相手役の彩乃かなみさんは戦いの神ニケ。戦うことが運命だと、常に戦場のアレクサンダーの前につきまとう。難役を手堅い演技で表現したのはさすが。

  アレクサンダーの生き方に疑問をはさみむ酒神ディオニュソスに扮する霧矢大夢さんも、明晰なセリフと歌で、この難解な舞台をサポートする。

  この3人と進行役ともいうべきアテナイ役の出雲綾さんの抜きんでた実力があって、舞台はなんとか成立している。これに忘れてはならないのが、この公演がサヨナラとなる専科の矢代鴻さんのビートの効いた歌唱。これが最後と思うとやはり聞き逃せない。

  若手では龍真咲さんが部下の役で出ており、これといった見せ場はないが、立ち姿の美しさが際だった。

  当初予定されていたフィナーレのショーが時間の関係でカットされたので、エンディングにやや消化不良感が残る。宝塚は新劇ではないのだから、ラストくらいは華やかに締め括ってほしい。(薮下哲司氏)