エリザベート

5月26日の「エリザベート」へ

朝日新聞「ステージレビュー」(ライター・さかせがわ猫丸さん

 今や名実共に宝塚歌劇団の財産となった『エリザベート』。構成・演出・楽曲の素晴らしさは、何度観ても同じ場面で感動してしまうほど名作です。5月22日に初日を迎えた今回は、7度目の上演となりますが、演じる人・組によって色が変わるので、毎回隅々まで見逃せません。そのため全場面歌えて「我こそはエリザベートフリーク」を自称される方も少なくないでしょう。私もその一人です。

 月組での公演は2度目。主演の瀬奈じゅん(せな・じゅん)さんは、前回、男役ながらエリザベート役を演じ、当時の彼女の立場もあいまって、鬼気迫る孤高の演技が高く評価されました。花組時代にはルキーニを、そして今回はついにトートで、前代未聞の主要3役制覇を達成します。

 注目のトートウイッグカラーは赤。編みこみがキュートな銀髪に混ざります。衣装もフリルやキラキラがほとんどないシンプルでシャープなのがお似合いで、「最後のダンス」や「独立運動」ではキレのあるダンスが光るのはさすが瀬奈さん。歌も素直で伸びのある歌唱になっていて、安心して浸ることができます。楽曲の微妙なメロディーラインや、「ミルク」の歌い上げるところなど、細かい部分が初期のバージョンに戻っているのも個人的には嬉しい点でした。ただ「ミルク」で銀橋に並ぶ演出は変わらずで、トートは机に立ち上がって群衆を扇動して欲しいなあと、ちょっと独り言…。

 そして今回、もう一つ話題をさらっているのが、エリザベート役の凪七瑠海(なぎな・るうみ)さん宙組の若手男役でまだまだ未知数、それだけに注目度は100%でした。肖像画から少女のシシィが飛び出し、「鳥のように自由に空を賭け…」澄んだ声が劇場に響く最初のシーンは、まさに固唾を呑む一瞬です。小さな顔に抜群のスタイル、ぱっちりした瞳が印象的で、舞台度胸も抜群! 若さは感じられるものの、芯の強さと綺麗な声がなかなかの好印象でした。

 フランツ・ヨーゼフは霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん。さすがの安定感で、特にシシィの寝室で「開けておくれ」の熱唱は、しびれるほどに色気たっぷりです。皇太后ゾフィーを演じる城咲あい(しろさき・あい)さんは美貌と怖さが満開で、意外にもしっかりハマっています。ルキーニの龍真咲(りゅう・まさき)さんも若さ弾けて奮闘。ルドルフの役代わりは遼河はるひ(りょうが・はるひ)さんで長身。トートとの「闇が広がる」ダンスが工夫されているのに思わず感心してしまいました。いつもは専科さんが演じるシシィのパパ、マックス公爵を越乃リュウ(こしの・りゅう)さんがダンディに演じるのもみどころ。桐生園加(きりゅう・そのか)さんは黒天使のリーダーとしてなんとソロ場面もあり、スペシャルに輝いて見えました。マダム・ヴォルフの妖艶さが私にとって非常に理想的で思わずプログラムを探したら、写真が扮装でない程若い人だったので驚きました。沢希理寿(さわき・りず 2003年入団第89期生 男役)さん、注目です。

 フィナーレでは「愛と死の輪舞曲」を歌う霧矢さんの衣装が華やかで、耳も目も幸せな気分になり、ロケットのあと幕が上がると、大階段で娘役に囲まれた瀬奈さん。黒いアスコットタイに白黒のジャケット、髪をひとつにまとめて一人踊る姿は、もしかして今日一番のカッコよさかも?と、思わずトキめきました。『エリザベート』名物・男役群舞も健在です。黒燕尾以外ではこれを踊りこなしてこそ一人前の男役と一人勝手に思っているので、今回も観られて嬉しいです。最後は瀬奈さんと凪七さんのデュエットダンス、華麗なリフトもお目にかかれました。

 あっという間の濃密な3時間、とにかくあちこち観るのに忙しく、それでもしっかりと確立された『エリザベート』の世界にどっぷり浸らせてもらえるこの幸せ! 瀬奈さんのトートは初日と言うことでまだあっさりめではありましたが、これから独特の色をつけて、どんな風に進化していくのかとても楽しみです。きっとみなさんも<自分だけのツボ>をたくさん発見されることでしょうね。
(公演直前に行われる「通し舞台稽古」を取材しています)
     

☆2009年5月22日(金)〜6月22日(月) 月組宝塚大劇場公演 三井住友VISAミュージカルエリザベート』−愛と死の輪舞(ロンド)− 脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ氏。 音楽/シルヴェスター・リーヴァイ氏。 オリジナル・プロダクション/ウィーン劇場協会。 潤色・演出/小池修一郎氏。 ☆2009年7月10日(金)〜8月9日(日) 月組東京宝塚劇場公演。 トート=瀬奈じゅんさん明日海りお=あすみ・りお=さん) エリザベート凪七瑠海さん羽桜しずく=はざくら・しずく=さん) フランツ・ヨーゼフ=霧矢大夢さん紫門ゆりや=しもん・ゆりや=さん) ルイジ・ルキーニ=龍真咲さん宇月颯=うづき・はやて=さん) ルドルフ=遼河はるひさん・青樹泉=あおき・いずみ=さん・明日海りおさん煌月爽矢=あきづき・さや 2006年入団=さん)  ( )は新人公演。☆2009年6月9日(火)18:00開演 月組宝塚大劇場新人公演 エリザベート