ファンにとっての『宝塚』4


宝塚というユートピア川崎賢子(かわさき・けんこ)氏著より引用。(アマゾンで買いました。大変良い本です)
   

宝塚というユートピア (岩波新書)

宝塚というユートピア (岩波新書)

 「はじめに」の項で、2002年5月25日、日本演劇学会は大会シンポジウム「宝塚歌劇を考える」を開催したときのことを記載している。『パネリストは植田紳爾氏(当時宝塚歌劇団理事長、2004年に退任、現在は宝塚劇団特別顧問)、出雲綾(いずも・あや)さん(当時宝塚歌劇団宙組組長、後に専科、月組組長、娘役(女役)、1983年入団、2008年退団)、近藤瑞男氏(共立女子大学教授)、司会は鈴木国男氏(共立女子大学助教授)であった。その中で、出雲綾さんは出演者の立場から「舞台を見ていただく観客の方がどう評価してくださるかということに関しては、いい、悪いという評価はごらんになった方の自由なことだと思うんです。もし悪いという評価がありましたら、それは私たちの反省点でもあり、次の課題として頑張っていかなければいけない点だなと思いますが、まだ一度もごらんになったことがない方が悪く評価されると、一度見てから言っていただきたいなと思うことは多々あります(笑)」と発言した。』

 出雲綾さん(公式HP)の母親は宝塚歌劇団卒業生の白菊八千代さん(第41期生)、その影響で幼少から宝塚歌劇に親しみ、小学校高学年時代から宝塚コドモアテネ宝塚音楽学校が少女の健全育成を目的にその設備と講師陣を活用して、声楽・バレエ・日本舞踊のレッスンを行う日曜教室)に通っています。このシンポジウム当時で研19であり、宝塚を愛しており劇団員としても優れている。(私も何度も出雲綾さんを観て立派な舞台人だと思う)

 現在(2002年)、宝塚歌劇団は広く一般の演劇愛好者や男性客にひらかれた舞台づくりに心を砕いているようだ。近年はむしろ本拠地の阪神地区よりも東京地区の方が観客動員が多く、東京宝塚劇場はほぼ満席状態がつづいている。劇場も演劇関係者も集中し、競争の激しい東京の演劇界で成果をあげている。もともと宝塚にかざらず日本の劇場には女性客が多いけれども、舞台芸術に幅広く触れている見巧者のあいだには、男女間わず、宝塚の技術と表現にいちもく置くひとびとがいる。舞台のどこにいても輝ける舞台人になりたいと口にする演技者たちの熱意や緊張感など、プロ意識に感ずるひとびともいる。きらびやかな装置や衣裳、それ以上に大劇場であれば80名にもおよぶ出演者のエネルギー、ハードで運動量の多いパフォーマンスに、圧倒されたり力づけられたりすること、女たちの物語に癒されたりすることが、宝塚的「娯楽」である。

 4月5日の観劇(宝塚大劇場雪組公演 舞踊パフォーマンス『風の錦絵』作・演出/石田昌也氏。併演は宝塚アドベンチャー・ロマン『ZORRO 仮面のメサイア』作・演出/谷正純氏。)は、12列の最上手だったので、上手の花道は近くてよく見えました。『風の錦絵』では下級生が両花道で踊るシーンがあり、たぶん観客の99%以上は舞台中央のトップスターやスターを注視しているにもかかわらず、下級生は各々のパートを全力で決して手を抜くことがない。毎回、どの公演でも誰一人もさぼっている者がいない。これは本当に感動ものである。世間の偏見(「学芸会みたい」のような)とは違う世界であるのだが、1度も観た事のない人にかぎって毛嫌いする。

 
   写真は上手花道

 

シンポジウムは、鈴木国男氏の次の言葉で締めくくられた。『宝塚は演劇です。我々演劇研究に携わっているものですから、演劇としての宝塚歌劇を見ましょう。みんなが観ると自分の座席が取りにくくなるからあれですけれども(笑)これはファンとして、観客としても競争しなければならない。いい観客になる競争かもしれませんし、研究者としても、専門ではないかもしれないけれども、演劇の視野の中で、これから宝塚歌劇をどういうふうに考えていくのかということは一人ひとり問いかけてみたいなと思っております』

 川崎賢子氏は「(宝塚には)観る者を変える力」があると語る。『気恥ずかしいけれど機会があれば劇場に足をはこびたいと、男性に相談を持ちかけられることがしばしばある。敷居が高いからこそあえて宝塚観劇に挑戦するサブカルチャー志向の者もいる。日本文化に関心の高い海外からの客人にモダニズム以降の日本のパフォーマンスを紹介するには、宝塚がいちばんだという声も聞く。舞台芸術はなにごとも百間は一見に如かずの世界だが、とくに宝塚は、そうである。
 彼女(出雲綾さん)にかぎらず、団員ひとりひとりの舞台にかける熱意、真摯であること、舞台人としての誇りは、一度でも舞台を観た者であれば強く印象づけられるはずだ。
 研究者に愛を語らせ、ファンに批評を語らせ、観る者をなにか他の者に変えてしまうような力が、宝塚にはある。宝塚を観ずに人生を終ることは、多少なりとも舞台に関心を持つのであれば、はかりしれない損失としかいいようがないのである。』

 私も最初は違和感があったけれど、1度で「宝塚」の虜(とりこ)になっていた。その魅力は1度舞台を観ないとわからないだろう。人数は少ないが男性ファンもいるので、敷居が高いと思い込んでいる人もどうぞと勧めたい。<<

  
   写真の奥は下手花道 中央は「銀橋(ぎんきょう)」 座席はSS席およびS席