ファンにとっての『宝塚』5

 記憶力が悪いのか、舞台上の生徒さんの顔の判別が出来ない(ところが周囲に聞いてみると皆そうらしい)。このあたりでくじける方もいるかも知れない。「劇場」(これは難しい)、「スカイ・ステージ」(1回見ただけでは難しいが最初の登場の際に名前が出るのが救い=私の場合はDVDに録画にしてみます)、雑誌「歌劇」「公演プログラム」などで顔と名前を一致させるという日々の努力も必要です。
 さて、私が1番好きな「宝塚」はフィナーレ(エトワール・パレード含む)です。究極的には、どんな悲劇のドラマで終わっても(1本立て)このフィナーレは全くの別物。華やかで躍動的で、観客の方も手拍子・拍手で応える。セリフのない者に対しても万雷の拍手が送られる。最後のトップスターには最高最大の拍手があるのは当然だが、劇やレビューで顕著に実力を発揮したスターには惜しみない絶賛の拍手が起こる。短い時間に興奮した気持ちが昇華し、そして平安な心もちで家路につけるのである。
<<

  



「宝塚というユートピア」176〜177頁引用。
お約束のフィナーレ 

 宝塚大劇場作品のフィナーレは、26段の電飾きらめく大階段を用いる場面となる。ステップの踏幅僅か20数センチという大階段を縦横に駆使してステップを踏む群舞あり、NYのロックフェラーセンターにあるラジオシティ・ミュージックホールのものにちなんで、「ロケット」と呼ばれるラインダンスあり、男役・娘役トップスターコンビによるデュエットダンスあり。最後には、「シャンシャン」と呼ばれる鈴や光り物が仕込まれた持ち道具を手に振り、出演者がつぎつぎと降りて観客に挨拶する。スターになればなるほど、背負う羽根は大きくなる。
 大階段は1927(昭和2)年『モン・パリ』で16段の階段がしつらえられたのが最初。またオーケストラボックスと客席の間を仕切る形のエプロンステージは「銀橋(ぎんきょう)」と呼ばれ、これは羽根とともに白井鐵造氏が導入したといわれるもので、「銀橋」をわたることはスターのあかしである。フィナーレの大階段でショーの主題歌をうたう歌姫をエトワールと呼ぶ。どうしても男役スターに光があたりがちな宝塚で、エトワールをつとめるのは多くの場合歌唱力で鳴らす娘役である。エトワールが大階段を降りると、下級生から上級生へ、そしてスターの順に降り、観客に挨拶する。これをパレードという。スター・システムの序列が示される場面だ。スターになればなるほど、登場は一人で、順番は後になり、パレードの一番最後に一番大きな羽根を背負って、もっともきらびやかな衣裳を身にまとって降りてくるのが、その組の男役トップスターである。

 宝塚のドラマは、ショーであればなおのこと、どんな時代どんな場所に設定されていようと、設定された時空のリアリズムを離脱して、どこにもない場所盆―トピア)をめざす。流れるメロディー、奏でられる土地固有の楽器、ダンスのステップ、ファッションなどいずれも歴史的文化的な考証は、強烈な宝塚流アレンジをほどこされて、やはりどこにもない場所のものになる。アレンジの力は宝塚というジャンルの圧力でもある。1920年代、30年代『モン・パリ』『パリゼット』などのレヴューの時代とは違い、西洋への憧れや、西洋の視座から非西洋世界を眺めるオリエンタリズムのまなざしの内化などという心性が色あせた現代に、それでもなお、どこにもない場所をめざそうとするのはなぜだろう。どこにもない場所を経由して、離脱する前とは違う、ささやかに癒され浄化された内なる〈私〉にたどりつくためだろうか。

 白井鐵造(しらい・てつぞう、1900年4月6日〜1983年12月22日)氏は、宝塚歌劇団の演出家。静岡県生まれ。本名:白井虎太郎氏。「すみれの花咲く頃」の訳詞やでも知られる。また数は少ないが『虞美人』(長与善郎原作の小説「項羽と劉邦」より。宝塚初の一本立て作品)やオペレッタ『三つのワルツ』(オスカー・シュトラウス作曲作品の潤色・演出)の傑作も残している。妻は宝塚のスターだった沖津浪子(おきつ・なみこ=1920年入学・入団※ 第8期生)さん。
 また歌劇団生徒への指導・ダメだしの厳しさも歌劇団史において柴田侑宏と一、二を争うそれであったことが知られている。白井氏の指導を受けた松あきら(まつ・あきら)さんも「白井先生はたった一つのセリフでも納得がいかなければ、たったその一部分だけに半日こってり絞るくらい厳しかった」とインタビューで答えている。

 ※宝塚歌劇団宝塚音楽学校が分離していないので入学=入団となる。(歴史のことを書き出すと膨大な量になる(いずれ本格的に行いたいと思うが)ので関心のある方は こちら を見てください。すごく参考になります)

 大階段(おおかいだん)=舞台上に設置される階段。舞台奥に縦に置いてあるものが、自動制御によって前にせり出してくる。 段数 26段 / 前幅 14.6m / 後幅 10.3m / 高さ 4.29m / 1段の幅 24cm  フィナーレで全生徒がこの大階段を下りてきて挨拶をするのは、宝塚のシンボル。