クロロピクリンって何?

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正式名 塩化ピクリン  別名 クロルピクリン クロールピクリン クロロピクリン
塩化ピクリン(えんか—)・IUPAC名トリクロロニトロメタンは化学式 Cl3CNO2 で表される、炭素と塩素と窒素と酸素からなる化合物。

 当初は毒ガスとして開発されたが、1918年に燻蒸剤(農薬の一種)として有用であることが判明した。燻蒸剤としての主な目的は蓄えられた穀物の処理にあった。また、殺菌・殺虫剤(商品名:クロルピクリンなど)として土壌燻蒸剤として利用されることもある。

 窒息性毒ガスとしても比較的有名であり、第一次世界大戦中にはホスゲンとともに使用されたがその毒性はホスゲンに比して低かった。また目に対しても強烈な刺激作用を持ち、催涙ガス的な作用がある ことでも知られている。

 性質=常温ではいくぶん粘性のある無色の液体である。蒸気は空気より重く、その相対蒸気密度は 5.7 である。衝撃または熱を加えることにより爆発する可能性があること、光や熱などで分解して塩化水素や窒素酸化物など有毒な気体を生じることから、取り扱いには注意を要する。

 読売新聞から引用。

 深夜の救命救急センターが、パニックに陥った。熊本赤十字病院熊本市)で5月21日、農薬クロルピクリンを飲んで搬送された農業男性(34)の嘔吐(おうと)物から塩素系有毒ガスが発生し、患者や医師ら54人が次々に体調不良を訴えた。

 病院によると、男性が母親(60)らに付き添われ、救命救急センターに運ばれたのは21日午後10時50分ごろ。約10分後、救急副部長の高村政志医師(48)が処置室で、苦しそうな表情を見せる男性の胃を洗浄するため、口から管を差し込んで吸引を行ったところ、突然、吐いた。約40平方メートルの室内に刺激臭が立ちこめ、患者らがせきこみ出し、「患者を外に避難させろ」などという声が上がり、騒然となったという。

 重症になった72歳の女性は、男性のベッドから約10メートル付近にいて室内に充満した有毒ガスを吸い込んだ。居合わせた医師や患者は外へ逃げ出した。

 高村医師は意識が遠のき倒れそうになりながら一時処置室を出た。すぐに治療に戻ろうしたが、強烈な刺激臭に阻まれたといい、「塩素をきつくしたようなにおいで、息ができず目も開けられなかった」と振り返った。

 男性の母親は処置室で男性のそばから離れようとせず、病院職員の制止を振り切り、「何とか助けて下さい」と泣き叫んだが、引きずり出されるように避難させられた。

 東京新聞を引用する。

 5月21日午後11時ごろ、熊本市長嶺南2丁目の熊本赤十字病院救命救急センターで、農薬のクロロピクリンを飲んで自殺を図り搬送された熊本県合志市の農業の男性(34)が診察中に嘔吐し、農薬が気化した塩素系の有毒ガスが発生した。患者や職員ら54人が治療を受け、うち入院予定だった女性患者(72)が肺炎の症状を悪化させ重症となった。男性は死亡した。

 54人の内訳は、救急外来の患者らが23人、病院の職員が31人。重症となった女性以外にも、男性の母親ら9人が息苦しさなどを訴え、同病院に入院したり、別の病院に運ばれた。残る44人は治療後、帰宅したという。

 病院の説明によると、医師が男性の胃の内容物を約一リットル吸引したところ嘔吐し、気化したクロロピクリンがセンター内に充満したとみられるという。同病院は医師や職員らを緊急に呼び出し、救護に当たった。

 クロロピクリンは刺激臭のある揮発性が高い液体で、殺虫剤や土壌薫蒸などに使われ、劇物に指定されている。大量に吸い込むと呼吸困難に陥るという。

 病院は男性がクロロピクリンを飲んだ可能性があることを把握していたが、専門知識を持った医師らがおらず、防毒マスクを着けるなどの措置を取らずに治療した。病院側は記者会見で「同様の被害が出ないよう、今後対応を検討したい」と述べた。

 
 熊本赤十字病院救命救急センターの診療再開のお知らせ(HPより)

 テレビ等で報道されておりますように、平成20年5月21日22時50分頃、農薬を飲んで自殺を図った患者さんが救急車にて搬入され、治療中に患者さんの嘔吐物から強い塩素系のガスが発生し、来院していた患者さん及び職員含め計54名が体調不良を訴えるなど、多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

 なお、閉鎖しておりました救命救急センターは、消防隊により除染作業が行われ、その後、建物内や機器類の清掃を行い、安全を確認致しましたので、22日12時より通常通り診療を再開致しております。