DVD「ドレスデン、運命の日」

 ドイツ東部ザクセン州にあるドレスデンは、エルベ川のほとりにバロック建築が立ち並ぶ美しい町。ツヴィンガー城、ゼンパーオペラ、フラウエン教会など素晴らしい建築物が集まり、それらが見られるエルベ川沿いの景観は、現在世界遺産に登録されています。

 この文化溢れる美しい町は、1945年2月13日、連合軍の大空爆を受けます。これにより町の4分の3が破壊。空爆は2日間にわたって行われ、ドレスデンのありとあらゆる建築物が崩壊し、町は廃墟と化しました。当時の写真を見ると、文字通り「廃墟」状態のドレスデンの町に言葉を失います。長い年月をかけて建てられた歴史ある建築物の数々が、一瞬にして破壊されたドレスデンの大空襲。犠牲者の数は2万人以上。映画ではこの空爆の凄まじさ、その中で逃げ惑い命を落としていく人々、生き延びた人々が廃墟と化した町を目の当たりにして呆然と立ち尽くす様子などが、壮大なスケールで生々しく描かれています。

ドレスデン -運命の日- [DVD]

ドレスデン -運命の日- [DVD]

 ドレスデン空襲(爆撃)はドイツにとって大きな戦争の悲劇だったにも関わらず、これまでドラマや映画の題材になったことはありませんでした。ドイツは戦後ずっと、加害者としての立場で戦争と向き合ってきたのです。そのため、ユダヤ人大虐殺や独裁者ヒトラーに関する作品は数多く制作されてきました。そして戦後60年という歳月を経て、ドイツはようやく別の視点からも戦争に取り組み始めています。

 「なぜ今、“ドレスデン”なのか?」との問いに、この映画のプロデューサーは次のように答えています。「今まで語られなかった歴史の事実を、戦争を経験した世代が生きているうちに作品化したかった。」またリヒター監督は、「戦争を知らない若い世代に戦争のむごさ、一瞬にして全てを失うというのがどういうことなのか伝えたかった。若いときに見たインパクトのあるものは、頭の片隅にいつまでも残っていると思うから。」と言っています。

 ただし『ドレスデン、運命の日』は被害者のみの視点からではなく、ドイツ・イギリス双方からの視点で描かれた映画。リヒター監督の「戦争とは無意味なもの」という強い反戦メッセージが込められています。

映画の中では、この空襲で崩壊し、11年間の再建工事を経て2005年に甦ったフラウエン教会も登場します。イギリスから「和解の印」として贈られた塔の十字架が立つ、美しいフラウエン教会。瓦礫の山から元の姿に戻った教会を見ていると、こみ上げてくるものがあります。


 2005年に美しく甦ったフラウエン教会

 ドレスデン爆撃(ドレスデンばくげき、英:Bombing of Dresden)とは、第二次世界大戦末期の1945年2月13日から14日にかけてアメリカ軍とイギリス軍がドイツ東部の都市ドレスデンに対して実施した無差別爆撃を指す。

【DATA】『ドレスデン、運命の日』 (原題:DRESDEN)
2007年4月21日(土)公開 監督:ローラント・ズゾ・リヒター  プロデューサー:ニコ・ホフマン 脚本:シュテファン・コルディッツ
<キャスト>
アンナ……フェリツィタス・ヴォル
ロバート……ジョン・ライト
アレクサンダー……ベンヤミン・サドラー

2006年度作品/ドイツ映画/ドイツ語/150分 後援:ドイツ連邦共和国大使館、ドイツ観光局
配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:アステア

 出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 1945年2月13日の空襲はイギリス軍とアメリカ軍とでともに行う予定だったが、ヨーロッパ上空の気象状況のためアメリカ軍機は離陸できなかった。2月13日の夕方から、合計796機のランカスター爆撃機と9機のデハビランド・モスキートが、計1,478t の爆弾(榴弾、high-explosive)と1,182t の焼夷弾を搭載し二波に分かれて14日未明までに出撃した。13日午後10時14分頃(現地時間)、イギリス空軍のランカスター爆撃機244機がドレスデン上空に到着し低空から目標を目掛けて大量の焼夷弾を投下。2分以内に1機を除くすべての爆撃機から全弾が市街に投下された。残る1機は10時22分に全弾を投下し終えた。おびただしい爆雲が上空に立ち上がった中で、爆撃機隊はさらに800t の爆弾を投下したが、これは目標が見えない中成功したとはいえなかった。

 3時間後、第二波攻撃が行われた。2月14日午前1時21分から1時45分の間に、ランカスター529機が8群に分かれ、高空からパスファインダーに従って1,800t もの大量の爆弾を投下。この2回の攻撃でイギリス軍は6機のランカスターを失い、さらに2機が帰還中に墜落した。

第三波攻撃は同日昼過ぎの12時17分から12時30分に行われた。アメリカ陸軍航空隊のB-17が771t もの大量の爆弾を駅周辺を目掛けて投下。さらに護衛についてきたマスタング戦闘機が路上を狙って機銃掃射をし、混乱に拍車をかけた。この時、ドレスデン市街は火災旋風に次々飲み込まれ、多くの市民が逃げ惑っていたところへ機銃掃射が行われたとも言われるが、ドイツ軍と英米軍の戦闘機同士の空中戦による射撃が機銃掃射と思われたという反論もある。

 アメリカ軍は翌2月15日にも466t の爆弾を投下した。一連の爆撃で英空軍の投下した爆弾、焼夷弾は合計すると2,978t 、アメリカ陸軍航空隊のそれは783t に及んだ。数波に渡る爆撃を行ったのは、爆撃の後で市民が片付けのために地上に出てきたところを狙ってのものであった。

 ドレスデン爆撃は基本的な爆撃手法に基づくもので、大量の榴弾で屋根を吹き飛ばして建物内部の木材をむき出しにし、その後に焼夷弾を落として建物を発火させ、さらに榴弾を落として消火活動を妨げようという意図からなっていた。こうした基本的な爆撃手法はドレスデンでは特に効果的だった。爆撃の結果、最高で1,500℃もの高温に達する火災旋風が治まることなく燃え続けた。市街広域で発火すると、その上空の大気は非常に高温になり急速に上昇する。そこへ冷たい大気が外部から地表に押し寄せ、地表の人々は火にまかれる結果となった。

 13日夜から15日にかけての爆撃の後、アメリカ軍によってあと二回の爆撃が行われた。3月2日には406機のB-17が940t の榴弾と141t の焼夷弾を投下し、4月17日には580機のB-17が1,554t の榴弾と165t の焼夷弾を投下した。

パスファインダー
 パスファインダーのパスとは、獣道のことで、パスファインダーとは『獣道を見通す者』つまりハンティングの案内人のこと。これが転じて『爆撃先導機』のことを言う。爆撃隊を爆撃目標へ誘導し、信号弾などを投下して爆撃隊に目標を示すのが役割。敵地へ先頭を切って突入し、爆撃隊に目標を示すからには、腕っこきの搭乗員を揃えた爆撃機でなければパスファインダーは勤まらない。

 ローラント・ズゾ・リヒター監督は、空襲がどれほど凄まじいものだったか、戦災とは実際どのようなものだったのかを、この映画で可能な限りリアルに伝えたかったと言います。そのため大がかりなセットを作って大火災を実際に起こし、爆撃の録音を大音量で流し、役者、スタッフ共、身体と精神の限界のところまで挑戦したそうです。体の髄まで響き渡る爆撃音は本当に恐怖の念を呼び起こし、みな足がガクガクして少し気分が悪くなりさえしたそう。そんな本格的なセットの中、俳優たちはもはや演技をしているというより、究極の状態を体感し自然に反応していたと監督は振り返ります。