芸能界の 奴隷制度


朝日新聞

公正取引委員会有識者会議が15日に公表した「フリーランス」の働き方についての調査報告書。タレントと芸能事務所との関係についても、独占禁止法違反にあたる可能性がある事例が数々存在することが明らかにされた。


 芸能事務所からの独立や移籍を巡るトラブルは繰り返し起きてきた。近年では、SMAPやのん(本名・能年玲奈)さんらのケースが社会問題に。


 公表された事務所などへの聞き取り結果には、様々な形でタレントを縛ろうとする様子が浮かぶ。

 「移籍しようとした事務所に圧力をかけたり、芸名を使用させなかったりして、移籍を妨害した」

 「事務所を辞めた芸能人の悪評を流布してテレビ局などとの契約成立を妨害した」

 「契約を更新しない意思表示をした芸能人に対し、翻意させるため、契約期間中にもかかわらず、報酬の支払いを遅延したり、その芸能人の仕事を受けない場合がある」

 「契約期間延長交渉時に、実績を踏まえ報酬額アップを交渉されても、育成投資コストの回収が終わっていないことを理由に協議に十分応じなかった」


 公取委はこれらが独禁法に抵触するかに踏み込まなかったが、「報告書の考え方を元にすると、問題になる場合がある」と説明した。

 報告書は一方で、事務所側が育成のための投資を回収する必要があることに一定の理解を示した。


 芸能関係の訴訟を多く手がける河西邦剛弁護士によると、移籍制限は、契約書に書かれていても、裁判で争えば民法の規定などで無効になることが多いという。ただ、裁判には数年かかることが多く、その間の活動に大きな支障が出てしまうのが実態だ。

 昨年11月、所属していた芸能事務所に対し、契約の無効確認や芸名の継続使用などを求める訴訟を起こした元アイドルグループの女性が取材に応じた。事務所の支援態勢に不満があり、やめたいと申し出ると「やめたら活動できなくする」「全力でつぶす」などと言われた、という。

 20代の元メンバーは「20歳までの年齢制限があるオーディションもある。10代が活躍する中で、年齢的な焦りがある。早く活動したい」と話す。


 芸能界は変わるのか。公取委の報告書は基本的な考え方にとどめ、業界の自主的な取り組みを求めた。


 芸能事務所など100社超が加盟する日本音楽事業者協会音事協)は15日、契約書のひな型を見直すことを発表した。ひな型には芸能人との契約期間が終わっても事務所側の判断で一度は契約を更新できる規定が盛り込まれており、公取委の聞き取りでも明らかになっていた。中井秀範専務理事は、「特に育成中のタレントの場合、短期間で契約が終わるのは双方にとってよくないので盛り込まれていた」と説明し、見直しの対象とすると述べた。


 音事協は昨年秋、弁護士や内部の理事で作る研究会を立ち上げ検討を重ねてきたといい、今年度中に基本的な方向性を示す方針だ。(滝沢文那)


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