日本代表敗戦の因は ? W杯
日本、コートジボワールに逆転負け。ドログバ投入後、崩された左サイド。
Number Web6月16日(月)9時1分配信
日本が“チーム・ドログバ”の前に屈した。ブラジルW杯グループリーグ初戦。日本はコートジボワールに1-2の逆転負けを喫し、黒星発進となった。
立ち上がりは相手の出方を窺った。アルベルト・ザッケローニ監督は相手の4-2-1-3システムに対し、前線の選手がプレッシャーをかけて高い位置でボールを奪うように指示したが、なかなかはまらない。
長友佑都がその理由を説明する。
「前線から相手のDFラインではめていくことを話していたのだけど、相手のボランチ2枚がセンターバックの方に降りていて、ボール回しを積極的にやっていたことで、はまらなかった」
雨が降ったり止んだりの落ち着かない天候。ピッチは重かったが、それに連動するかのように、日本は動きが重かった。単純に体が重かったのか、緊張していたのか、プレッシャーなのか。とにかく、試合の入り方が良くなかった。
ボールを支配するはずが、逆に支配されてしまった日本。
「ラインも全体的に低かったし、相手にボールを回され、全員体力を消耗させられた。前からはめていこうとしていたのだけど、なかなかはまらず、ボールの奪いどころがなかった」
長友がこう語るように、日本のボール保持率はわずか42%。コートジボワールにボールを支配されては苦しい。
それでも前半は耐えた。我慢を強いられる展開になっていた時間帯には、自陣深くで香川真司が体を張ってエリア内へのパスを防ぎ、相手CKの際には本田圭佑が地面に倒れこみながらヘディングでクリアした。
4年前のW杯を彷彿とさせる、本田の先制点。
嫌な流れが瞬間的に消えたのは、前半12分、スタジアムに大雨が降り始めた時だった。前半15分、日本はこの試合で初めて左サイドバックの長友佑都がオーバーラップ。香川とのパス交換から左CKを得た。
本田のCKをニアの岡崎慎司が頭でそらしたボールは香川の前に転がりそうだったが、寸前で相手が処理。ビッグチャンスはその直後にやってきた。
スローインから香川のパスを受けた長友がドリブルで中央に切れ込み、ペナルティエリア内に駆け上がった本田へパス。本田はパーフェクトな右足トラップで相手DFのマークを緩ませ、左足を振り抜いた。
豪快なシュート。日本に先制点をもたらした本田は左手人差し指で何度も自分を指しながら、一目散にベンチへ向かった。
デジャビュだった。2010年6月14日、南アフリカW杯グループリーグ初戦のカメルーン戦。前半39分に先制点を挙げた本田は、ゴールを決めると控え選手が立ち上がって待つベンチへと走った。
4年後の夜も同じ。本田はベンチの輪に飛び込み、歓喜を分かち合った。本田は前回大会の第3戦デンマーク戦でも直接FKからゴールを決めており、これでW杯通算3得点。日本人歴代トップに立った。
1点リードも、半信半疑のまま時間が過ぎ……。
しかし、良い時間帯は長く続かなかった。その後、20分にも内田篤人の惜しいシュートがあったものの、どうにもリズムをつかめない。
1点リードしながらも半信半疑のまま時間が進んでいた中、悪夢の時が訪れる。後半17分、1点を追うコートジボワールが、MFセレイに替えてFWドログバをピッチに送り込んだ時だ。わき起こる歓声。明らかに、スタジアム全体の空気が変わった。
日本が立て続けに失点したのはドログバが入った直後だった。19分、ボニーのゴールで同点とされると、21分にはジェルビーニョに決められ、わずか3分間で逆転されてしまった。
ショックだったのは2失点とも同じ形だったことだ。相手の右サイドからオーリエにクロスを上げられてヘディングでの失点。あの時、いったい何が起きていたのか――吉田麻也が振り返る。
「ドログバが入って2トップ気味になり、クロスに対して中の枚数が単純に増えた。そこでのマークのズレが出てしまった。ドログバが入ってきたことでシンプルに蹴ってくることが増えたというのもある」
細かい部分の詰めが、もっともっと必要!
オーリエをフリーにさせたことも反省すべき点だ。吉田は「ミーティングでも両サイドバックがクロスをどんどん上げてくるという話はしていたのだが、ボールホルダーへのプレッシャー、僕のポジショニング、中のマーク。ひとつひとつのズレが失点につながった」と唇を噛んだ。
自身のサイドを破られた長友はこう言う。「相手の両サイドバックはウイングみたいな位置にいたので、真司も引っ張り出されて、サイドで数的不利になるときが多かった。相手のサッカーにはまった」
日本は1-2と逆転された直後、大迫勇也に替えて大久保嘉人を、終盤には香川に替えて柿谷曜一朗を送り込んだが、ともに見せ場を作るまでは至らなかった。ピッチに立っただけでチームをガラリと変えてしまったドログバが余計に輝いて見えた。
5回連続5度目のW杯。選手たちは「日本サッカーのスタイルを世界に示すための大会」という意気込みでブラジルのピッチに立っている。この思いに関し、23人のブレはない。
ただ、コートジボワール戦で見せつけられたことは、細かい部分の詰めをもっとしていかなければいけないという明白な事実だ。
攻守の意思疎通は足りているのか。
ピッチで見せる気迫はこれで十分なのか。
内容と結果の両方を自分たちに求めている、ハードル設定の高い大会。初戦に敗れたのは痛いが、ここでひるんでいる場合ではない。
第2戦で対戦するギリシャはコロンビアとの初戦を0-3で落としており、こちらも後がない状況だ。サバイバルとなる一戦へ向け、日本代表は短時間での修正が迫られる。
(「ブラジルW杯通信」矢内由美子 = 文)