和田采配を批判する前に スカウトマンはどうなの? 阪神


阪急阪神ホールディングスの定時株主総会が13日、大阪北区の梅田芸術劇場で開かれ、2人の株主から交流戦不調の阪神タイガースに対する辛らつな質問と意見が飛び出す事態が起きた。阪神タイガースは、前期に比べて26.1%増加となる約142億円の営業利益を出したエンターテイメント・コミュニケーション事業の中で、中核となる優良企業。映像を使った業務報告では、昨年の交流戦、西武戦でのマートンサヨナラホームランの映像、ルーキー、藤浪晋太郎のピッチングの様子などが流され、グッズの販売や飲食などが好評だったことが報告された。阪急阪神ホールディングス株主総会での質疑応答は、主に電鉄事業に関するものだが、例年、注目度の高いタイガースに関する質問や意見が、ひとつは飛び出す。だが、今回は、議事進行の早い段階でタイガースに関する辛らつな質問、意見が2人から出された。

一人目は、Gパン姿の30代と、おぼしき男性。「外国から帰ってきて、全然、活躍せえへん人がいますな。株主総会に合わせたかのように2軍に落としましたが、問題は、その和田監督です。選手を信頼していると福留を出し続けてきましたが、それなら、ずっと出し続ければいい。本当に選手を信頼しているのか、采配にわけがわかりませんのや。普通にやっていたら勝てるもんを、わけのわからんことをやって負けてくれる。どうか『難しいことせんでよろしいから普通にやるように』と監督に言っておいてください。まあ(和田監督の)続投はないとは思います。普通に、このままいったらクビやと思いますが、やるなら本気でやれと言っておいてください」。

会場は笑いと拍手に包まれた。株主が指摘したのは、打率が1割台でありながら、周囲の批判にも耳を傾けずに、ずっと起用を続けてきた福留孝介を突然、この10日になって2軍に落とした件。和田監督の説明にも説得力はなく、かつて株主総会では働かぬ高額年俸選手が「不良債権」と叩かれた過去があっただけに、株主総会前に落としたのではないかという疑念も生まれていた。株主は、そのあたりの事情を知った上で、あえて、その福留のケースを引き合いに出して、和田監督に対する厳しい采配批判を行った。

交流戦に入ってからは、負けが込み、最大「9」あった貯金は「2」となって貯金生活も風前の灯。株主の怒りが、和田采配に向かうのも当然かもしれない。回答は、角和夫会長に指名されて南信男・球団社長が壇上に立った。「どうしても、負けがこむと誰が悪い、これが悪いという声が出ます。とくに監督の采配であったり、ベンチワークばかりがクローズアップされてしまいます。実際、ベンチで負けた試合もあろうかとも思いますが、それだけでなく、いろんな問題が重なりあってのもの。選手起用などについては、監督の一番の専権事項ですから、私たちは監督を信頼していきたいと考えております。どうか、ご理解のほどをお願いします。また監督人事に関してのご意見をいただきましたが、シーズン中ですから、この場での回答は控えさせてもらいます。まだペナントレースは、半分以上あります、これから夏場にかけて取り返していくと期待しております。どうかよろしくお願いします」。

南社長が前を向いてそう回答すると、場内からは拍手が起きた。フロントトップが株主を前に「ベンチで負けた試合もある」と断言するのも異例の事態。フロントの和田監督に対する評価が揺れ動いていることを表しているようだ。また、この株主はドラフトに関する苦言も呈していた。「株主総会の召集通知書を今回、カラーにしたりと、無駄使いが多いですわ。タイガースにしてもドラフトの1位選手に1億円を超える契約金を払っていますが、はずれ1位にも同額はおかしい。はずれなんやから、半額とか、5000万円とか……になりまへんか。無駄使いはやめて、そんなんするなら負債の返済にあててください」。

具体名は出さなかったが、暗に示唆したのは、去年のドラフトで大瀬良大地をくじで外し、はずれ1位で指名した左腕の岩貞祐太のことだ。阪神は岩貞と契約金1億円プラス出来高5000万円という最高額で契約したようだが、広島でローテーションに入った大瀬良に比べて、岩貞は、キャンプで故障を発生させて、まだ1試合も1軍登板をしていない。株主が「はずれは半額にせえ」と、無茶な意見を口にするのはわからないでもない。

2人目の質問者は、「江夏豊以来、40年以上の阪神ファン」と名乗った男性の株主。和田監督の采配批判の次は、「メジャー凱旋選手などの外部からの補強に頼らず、自前の選手を育てるチーム作りをしていくべきだ」という正論を持って球団フロント批判を繰り広げた。

阪神のチーム作りに忸怩たる思いをしています。大リーグで使われなくなった選手を巨額な費用で買いあさる。その選手が金額に応じた活躍もしない。そういう高額な選手との交渉では、出場数などの密約があるのでしょうか。もし、それがあるとするならば若い選手の出場機会がなくなって残念です。西岡に代わった上本が素晴らしい活躍をしています。スカウトが卓越した目で取ったのでしょう。パのソフトバンクオリックスでは、名も無き選手が次々と活躍しています。今、掛布雅之さんが2軍で教えられていますが、掛布さんでも、今の時代の阪神ならば(出場機会を与えられずに)活躍していなかったのではありませんか。ぜひ自前の選手を育てて欲しいのです。お金で強くするというのでは、青少年に与える影響も悪く、第一、親御さんが、こういう球団に選手を任せられなくなります。スカウトを信頼して、強いタイガース、競り合いに強いタイガースを、日ハムの藤井さん(元社長)が、地道にチームを作りをしたように作っていただきたい。それでなければ、本当に変えなければならないのは、フロントの方々ではないかという気持ちにならざるをえない。金でチームを作るのは、やめていただきたい」

昨年オフに、掛布雅之氏を阪神のDCに招いた際、南社長は、その理由として、生え抜きを内側から育てなければならないというビジョンを口にしたが、株主やファンからすれば、その姿が、今シーズンの阪神からは見えないのである。野手では、梅野や緒方らの若手が出てきてはいるが、“掛布チルドレン”と呼ばれた伊藤隼太森田一成は一度も1軍に呼ばれていない。一方で、外から優勝請負人として来た福留が、打率1割台で、その場所に居座っていれば、株主が「なぜ自前で選手を育てないのか」と苛立ちを覚えるにも当然だ。しかし、1軍は優勝争いが宿命づけられている。フロントとしては、多少出費してでも優勝争いのできる戦力を整えるのは、これもまた当然の仕事。


再び答弁に立った南社長は「チーム作りに自前の選手育てろ!というご意見をいただきました。(チーム作りの)王道は、ドラフトで取った選手を根気よく育ててレギュラーにすることです。それは十二分に認識しています。フロント、ファーム、現場共に共通認識があります」と、まずは、その意見に頷いた。「根気強く育てろ!という意見を、いろんな方々からいただきますが、勝負で負けると、監督が悪い、コーチは何をしている、フロントが悪いと、お叱りを受けます。勝負と育成のバランスに頭を悩ませるものですが、1軍は、勝負を捨ててまで育てるというスタンスでは戦えません。難しいですが、勝ちながら育てることです。若手が競争に打ち勝って、自分の力でレギュラーを取ることが必要です。そういう競争が生まれるとチーム全体の力にもなります。外国人、FA、メジャー帰りの選手という高額な選手のやみくもな補強は、いたしません。より慎重に検討して戦力を整えていきますので、ご理解をください」。

南社長の答えは正直だ。つまり、若手育成をチームの課題にしているが、勝負に勝つための補強戦略を捨てるわけにはいかないというフロントが永遠に抱える命題である。株主総会での株主の意見が、今後の阪神タイガースの人事や戦略に大きな影響を与えることはないが、ファンを代表する声としての重みはある。おそらくフロントにすれば、自分たちの理想とファンの考えに、そう相違のないことを認識したのであろう。

だが、そういう理想を実行、実現するのは簡単なことではない。南社長は、現場介入を避けることを質疑の中で明言したが、株主の言った「わけのわからん采配」が、今後も目立つようであれば、和田監督の采配に対して、なんらかのアクションを起こさねばならないだろう。

(文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)