被告が「被告」を裁く? 『STAP細胞論文』


朝日新聞(社説)「STAP論文 理研の責任は重い」
2014年4月2日05時00分

 理化学研究所は幕引きを急いでいるのではないか。そんな疑念をぬぐえない。

 多くの疑問点がふきだしている新万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文について、理研の調査委員会はきのう、筆頭著者の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーに「捏造(ねつぞう)」と「改ざん」という研究不正があったとする最終報告書を公表した。


 これに対し、小保方氏は「承服できない。不服申し立てをする」とのコメントを発表した。調査委は論文全体を精査してはいない。6項目にしぼり、ミスを超える不正の有無を判断しただけである。また、小保方氏本人は否定している。不正と決めつける十分な根拠があるのか、見方はわかれそうだ。


 理研は報告書を受けて、小保方氏らへの処分や再発防止策の検討に進む方針だ。しかし、全容を解明せずに、実のある再発防止策が打ち出せるとはとうてい思えない。


 国は今月、研究開発を先導する特定国立研究開発法人を指定する方針だった。理研はその最有力候補だった。それをにらんで結論を急いだ面はないか。

 そして、責任を小保方氏個人に集中させていないか。共著者のベテラン研究者らは何をし、何をしなかったのか。実験やデータ、試料の管理のどこに問題があったか――。

 理研は内部調査で済ますのでなく、第三者に調査を委ねて結果を公表すべきだ。それなくして信頼は取り戻せないだろう。

 科学は、研究者が個人の責任で学術誌に論文を投稿するなどし、他の研究者の批判にさらされることで前進してきた。研究者が所属する研究機関の役割はさほど目立たなかった。

 だが、厳しい国際競争を背景に多額の研究予算がつぎ込まれる現在、大学や研究所などは新たな役割を果たさなければならなくなってきた。


 研究者や研究の「質の保証」である。

 不正の認定以前に、小保方氏の実験ノートが3年間で2冊しかなかったとか、画像切り張りを問題と認識していなかったといった事態は、およそ研究者の常識からは考えられない。博士号を与えた大学や指導的研究者として迎えた理研は、組織としての責任を免れない。


 指導的立場の共著者が実験ノートをひと目見ていれば、今回の問題は防げたのではないか。高血圧薬など臨床研究をめぐる不正発覚に引き続き、基礎研究でも失態が明るみに出た。研究の質を確かなものにする取り組みが急務である。


読売新聞が一部補足 小保方さんのコメント

 調査委員会の調査報告書(3月31日付け)を受け取りました。驚きと憤りの気持ちでいっぱいです。特に、研究不正と認定された2点については、理化学研究所の規程で「研究不正」の対象外となる「悪意のない間違い」であるにもかかわらず、改ざん、ねつ造と決めつけられたことは、とても承服できません。近日中に、理化学研究所に不服申立をします。


 このままでは、あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず、到底容認できません。


 ◆レーン3の挿入〈画像の切り張り〉について

 Figure1i〈論文中の遺伝子解析の画像〉から得られる結果は、元データをそのまま掲載した場合に得られる結果と何も変わりません。そもそも、改ざんをするメリットは何もなく、改ざんの意図を持って、1iを作成する必要は全くありませんでした。見やすい写真を示したいという考えから1iを掲載したにすぎません。


 ◆画像取り違え〈博士論文と酷似の画像使用〉について

 私は、論文1〈STAP細胞の作製方法を示した論文〉に掲載した画像が、酸処理による実験で得られた真正な画像であると認識して掲載したもので、単純なミスであり、不正の目的も悪意もありませんでした。


 真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められています。したがって、画像データをねつ造する必要はありません。

 そもそも、この画像取り違えについては、外部から一切指摘のない時点で、私が自ら点検する中でミスを発見し、ネイチャーと調査委員会に報告したものです。


 なお、上記2点を含め、論文中の不適切な記載と画像については、すでにすべて訂正を行い、平成26年3月9日、執筆者全員から、ネイチャーに対して訂正論文を提出しています。  以上 


毎日新聞 2014年04月02日 東京朝刊

 「承服できません」−−。新たな万能細胞「STAP細胞」の論文不正問題で、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダー(30)の代理人の弁護士が1日、小保方氏が調査委員会の最終報告書を受け取った時の様子などを明らかにした。憤りの表情を浮かべたといい、同意したとされる論文撤回についても「本人にその意向はない」と明かした。今月9日までに、調査結果に対する不服を申し立てるとしている。【畠山哲郎】


 代理人の三木秀夫弁護士(58)が大阪市内の事務所で、報道各社の取材に応じた。三木弁護士によると、小保方氏は先月31日、神戸市内の理研の施設で、担当理事から最終報告を受け取り、三木弁護士らとともに説明を受けたという。概要を聞くうちにみるみる顔が白くなり、「承服できません」と反論したという。三木弁護士は「驚きと、怒りと、憤りの感情が見て取れた」と振り返る。


 論文撤回を巡っては、先月14日にあった中間報告の記者会見で、竹市雅俊センター長が「撤回を提案すると、小保方さんは心身ともに疲れ切った状態で、うなずくという感じだった。それで了承したと判断した」と説明した。しかし、三木弁護士は「本人に撤回の意向はない。STAP細胞の発見については疑いがないと考えている」と否定した。


 STAP細胞の作製が再現できないとの指摘が相次いでいることについては、「結果が出るまでに半年、1年かかるものを、なぜすぐにできないと言うのか」と不満を述べているという。


 小保方氏は今年1月末、英科学誌ネイチャーに論文を発表した際に毎日新聞などの取材に応じたのを最後に、報道各社の取材を断っている。三木弁護士によると、現在、ストレスから体調を崩し、「精神的にも不安定で、感情がすぐ高ぶる状態」。関係者が常に付き添い、事実上、仕事を休んでいる。

 ただ、小保方氏が自ら説明するため、記者会見の開催も検討しているという。

 幹細胞に詳しい八代嘉美(やしろ・よしみ)・京都大特定准教授が1日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、理化学研究所の調査委員会がSTAP細胞の論文の画像が捏造ねつぞうされたと発表したことについて、「一方的に糾弾される側だった小保方(晴子)さんにも言いたいことがあると思う。直接(表に)出て、弁明する機会が与えられるべきだ」と述べた。

毎日新聞 2014年04月02日 05時30分(最終更新 04月02日 08時40分)

 「研究者(著者)が慎重にすべての生データを検証するという当然発揮すべき研究のチェック機能が果たされていなかった」。新しい万能細胞として大きな注目を集めたSTAP細胞論文について、理化学研究所の調査委員会は1日、画像に捏造(ねつぞう)などがあったと認定し、小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダー(30)だけではなく共著者らの責任に言及した。


 不正の舞台となった理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)で、新たな万能細胞と脚光を浴びることになった「STAP細胞」の研究が始まったのは2010年7月。だが、詳細を知る人は発表までわずかだった。CDB創設にかかわった研究者は「すごい仕事があるとは聞いていたが、研究所内でも極秘で進められていた。論文を見て『これだったのか』と(思った)」。科学史上に名を刻む不正論文が世に送り出された背景には、「極秘プロジェクト」という異例の経緯があった。


 小保方氏が、CDBでSTAP細胞の研究に取り組み始めた頃、かっぽう着姿で実験する姿は見られていたが、研究内容を知る人は限られていた。13年3月に研究ユニットリーダーとして採用されても、研究所内の定例セミナーで、発表することはなかった。セミナーは、論文発表前に研究の矛盾点や課題を指摘し合う重要な場であり、若手研究者にとって避けて通れない鍛錬の場だ。


 ある理研研究者は「セミナーに一度も出ないのは極めて異例。(競争の激しい)幹細胞分野で隠したい側面があったかもしれないが、結果として不幸なことになってしまった」と話す。


 11年に博士号をとったばかりでリーダーとなった小保方氏の助言者に、笹井芳樹・副センター長と丹羽仁史プロジェクトリーダーというベテラン研究者がついたことが、秘密主義を加速させたとみられる。


 あるCDB研究者は「秘密主義は笹井先生の方針だった」と指摘する。「極秘にするのが笹井先生のやり方。共同研究者にすら自分のデータを渡さない。その悪い面が出てしまった」。笹井副センター長は、日本を代表する再生医学研究者。研究資金も多く、英科学誌ネイチャーなど一流科学誌に毎年のように論文が掲載される実力者で、表立った批判は少なかった。


 科学者には友情とか連帯とかがないのか?疑問に思う。論文の共同著者でハーバード大学医学大学院のチャールズ・バカンティ教授以外に小保方さんを誰も擁護しない。むしろ、自分の担当は正しくて、小保方の実験がおかしい?などと「卑怯」なことを平気で発表する。

 小保方さんが全面的に正しい訳ではないが、はやる心で成果を追究する気持ちは分かる。やはり理研が慎重に再実験をするべきだった。


 【ニューヨーク時事】新万能細胞「STAP(スタップ)細胞」論文に捏造(ねつぞう)や改ざんがあったと結論付けた理化学研究所の調査委員会の最終報告について、論文の共著者であるハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授は1日声明を出した。

論文作成で「過失」や「誤った判断」があったと調査で断定されたとした上で「これらの過失が(論文の)科学的内容や結論に影響するとは思わない」と説明。論文を撤回すべきでないとの考えを改めて強調した。(2014/04/02-09:25)


 
朝日新聞デジタル4/2 

実在するのか――検証1年がかり 細胞の作製、再現難航

 STAP細胞は論文に不正が認定され、存在を裏付ける科学的根拠が崩れた。ただし、論文にかかわった理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)の研究者たちは、酸に漬けるなどの刺激で万能細胞ができるという「STAP現象」が、捏造(ねつぞう)だったと考えているわけではない。


 小保方氏は「発見自体が捏造だと誤解されかねない」と反論。共著者であるCDBの笹井芳樹副センター長は、改ざんや捏造とされたデータを除いても、STAP現象が存在すると考えないと、実験過程で観察された様々な現象を説明するのが難しい、とするコメントを発表した。


 一方、外部の研究者からは「STAP細胞の存在は科学的には不明。理研は責任を持って検証して欲しい」(吉村昭彦・慶応大教授)という声が強まっている。


 理研は1日、STAP現象の有無を「ゼロから検証する」と発表した。CDBが1年かけて取り組む。内部の研究者が存在の有無の目星をつけ、第三者に検証してもらうことを目指す。


 幹細胞に詳しい大阪大の仲野徹教授は「検証は簡単ではないだろう」とみる。


 最初のハードルはSTAP細胞の作製だ。論文発表後、論文通りに実験してもつくれないとの指摘が研究者から出ていた。当初は「弱酸性の液に漬けるだけでできる」と簡単さが強調されたが、「職人芸のようなノウハウが必要なようだ」と竹市雅俊CDBセンター長も認める。


 もう一つのハードルは、できた細胞が本当に体の様々な細胞に変化する能力を持っているかどうかを動物で確かめる実験だ。マウスの受精卵にその細胞を移植し、胎児の様々な細胞に変化することを確認する。特殊な技術が必要で、この実験ができるのは共著者の若山照彦山梨大教授ら国内でも限られている。


 若山教授は、STAP細胞からできたとされる細胞のうち、残っているものの遺伝子解析を第三者に依頼している。これらの細胞は小保方氏から渡されていた。元々の細胞の種類など、検証に役立つ情報が得られると期待されている。

 STAP細胞が確認できなかった場合、万能性を示したとされる細胞は何だったのか。仲野教授は、(1)体内にあった万能細胞が酸性の環境を生き残った(2)分裂を始めたばかりの受精卵が混入したか、故意にまぜられた(3)受精卵から作る万能細胞の「ES細胞」が混入したか故意にまぜられた、という可能性が考えられるという。


外部調査が必要

 日本分子生物学会理事長の大隅典子東北大教授(神経発生学)の話 理研は六つの点を調査しているが、おかしいと思える疑問点はほかにも複数ある。外部の人のみで構成する委員会が調査し、論文が正しいか調べる必要があるはずだ。今回の特異な事例だけで、すぐに日本の科学技術に大きな影響があるとは思わないが、科学に対する信頼を失わせた。背景に、大学院の研究倫理体制の不備や過度な業績至上主義がある。


倫理教育足りぬ

 羽田貴史・東北大教授(高等教育論)の話 問題の遠因は、学生時代に十分に研究倫理の訓練をしていないことだ。指導教員も体系的な訓練を受けていない。研究倫理教育は世界中で義務化される方向にあり、日本でも研究のルールとして定着させる必要がある。不正防止でも、全国的な経験を共有する米国のような仕組みがない。「危ない」と思っても突っ走ってしまう。


毎日新聞

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)は、全国9カ所に散らばる理研の研究エリアの中でも「理想的な研究所」として知られる。若手や女性の研究リーダーを積極的に採用し、有名科学誌に数多くの論文が発表されてきた。中でも、研究室間の風通しの良さが特徴だ。CDB出身で、若手登用の「成功例」とも言われる斎藤通紀・京都大教授は「いろんな分野の人とオープンに議論でき、共同研究もしやすい」と語る。だが、STAP細胞研究は例外だった。


 小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダー(30)は2010年、若山照彦・CDBチームリーダー(当時、現山梨大教授)の研究室の客員研究員としてCDBにやってきた。11年末、若山教授が、小保方氏が作製した細胞を使い、万能性証明の決め手となる全身にSTAP細胞由来の細胞が散らばるマウス(キメラマウス)作りに成功したとなると、CDBの幹部は色めき立った。「これは面白い」


 iPS細胞に代わりうる新たな万能細胞の登場であれば、ノーベル賞級の衝撃を与える可能性を秘める。CDBは、この研究の将来性を見込んで小保方氏を研究ユニットリーダーに採用するなど、特別な位置付けのプロジェクトになっていった。別の共著者は振り返る。「小保方氏がCDBへ行ってから、研究に関する情報が入らなくなった」

 さらに、研究チーム内でも、研究内容やデータを議論する機会が少なかったとみられる。発表されたSTAP細胞の論文2本には14人の研究者が名を連ねるが、中には論文の実験や解析に全くかかわっていない「共著者」がいたことが、取材で明らかになった。


 その研究者は「自分はSTAP細胞研究には携わっていず、論文中のデータにも一切貢献はしていない。草稿も見ていない。共著者の一人に頼まれて(論文投稿に必要な著者としての)サインをした」と明かす。疑惑だらけの論文になってしまった今、後悔する。「(サインを)迷うべきだったかもしれない」


 「オープンな議論」が売りだったはずのCDBの共著者らは、ずさんな論文を見逃した経緯について取材に応じていない。再生医療に詳しい研究者は「若手研究者を育てるため、論文の原稿を仕上げる部分は協力していたものの、データのチェックが十分でなかった可能性がある」と話す。


 研究倫理に詳しい御園生誠・東京大名誉教授は「共同研究者は当然、生データをベースに議論すべきだし、それを怠ったとすれば問題だ。不正行為に直接手を出していなくても、指導的立場にあったシニアの研究者たちの責任は、小保方さんと同等以上に重い」と話す。【須田桃子、斎藤広子、八田浩輔】