責任とはなんだろう? 司法の限界が露呈

 107名の犠牲をだした重大事故に対して、裁判所が下した判決が「無罪」。
 確かに法を杓子定規であてはめると導きだされる結論はこれなのかも知れない。
 でも、これでは個人がおかした犯罪は問えるが、組織がおかした犯罪は問えないことに
 なりはしないだろうか?
 「想定外」「予測不可能」どこかで聞いた言葉です。知らなかった?
 そんな訳はないでしょ。スピードアップのために、緩やかなカーブを
 急カーブにしたのは誰ですか?被告がその責任者ではないですか。
 
 法的にATS=自動列車停止装置(じどうれっしゃていしそうち、ATS: Automatic Train Stop)
 は、鉄道での衝突防止や過速度防止の安全装置(=自動列車保安装置と呼ぶ)の日本での分類の1つ。
 列車や軌道車両が停止信号を越えて進行しようとした場合に警報を与えたり、列車のブレーキを
 自動的に動作させて停止させ、衝突や脱線などの事故を防ぐ装置である=の設置が
 義務づけられていなかったから、それで107名が死んでも仕方ない。

 そう思える判決です。法を守る番人とすれば満足かも?この裁判が裁判員裁判
 あれば違う判決になっていたかも知れません。
 なにも人民裁判魔女裁判にかけようと主張しているのではない。まして、被告に
 「死刑」を求めているのではない。禁固3年というものだ。もちろん身体を拘束
 されるのだから苦痛・不自由だろうが、107名の人生を断ち切った「重み」
 を感じる期間としては長くはないだろう。

 それにしても、この無罪は「反面教師」として、司法の転換点になる可能性が
 ある。この事故の責任は被告ひとりの責任ではないが、その時の責任者だった
 ことも間違いではない。だれかが懲罰的責任をとるとすれば被告もその一人で
 あると感じる。
 


参考

JR福知山線脱線:前社長無罪判決 「トップの責任どこに」 家族失い「納得できない」

 「被告人は無罪」。審判が下ると傍聴席の遺族らは顔をこわばらせ、法廷は重苦しい空気に包まれた。JR尼崎脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長、山崎正夫被告(68)に対し、神戸地裁が11日に言い渡した無罪判決。遺族からは深いため息が漏れ、山崎被告は表情を少しだけ緩めた。同罪で強制起訴された歴代3社長の公判が今後始まるが、遺族の中には「山崎被告が無罪なら、3社長の刑事責任も難しい」との声もあり、被害者感情と司法判断の落差に落胆が広がった。
 兵庫県西宮市の会社経営、山本武(たける)さん(62)はいつものように、妻淑子(よしこ)さん(当時51歳)の写真と死亡診断書をバッグにしのばせて神戸地裁に入った。無罪判決に「納得できない。他に言うことはありません」と無念さをにじませた。
 毎回公判を傍聴してきた山本さんは、ストレス性の血便に苦しみ、昨年9月30日の弁護側最終弁論の直後には2度目の入院をした。最終弁論で「曲線への自動列車停止装置(ATS)の設置は乗客の不快感などを防ぐためで、脱線事故を防止する目的ではない」という弁護側の主張を聞き、何度も首をひねった。「法廷で『何でやねん』と思っても、声に出せない。こんなことが公判の度にあり、心身の負担になっていた」と言う。
 山崎前社長が有罪になれば、歴代3社長の責任も追及しやすくなると期待していた。だが結果はその逆だった。山本さんは判決理由の朗読を、裁判長をじっと見つめながら聞いていた。
 結婚を控えていた長女(当時28歳)を失った福岡県の女性(62)は11日早朝、自宅の仏壇に手を合わせた後、約4時間かけて神戸地裁に着いた。判決の朗読中には長女の顔が浮かんだ。傍聴席ではハンカチで目頭を押さえ、声を漏らして泣いた。
 長女は25歳の時、美容師を目指して大阪へ。2両目に乗車し、婚約者と共に命を落とした。今は一緒の墓で眠る。夫も事故から約3年後、病気で亡くなった。夫は生前、「なぜ娘は死んだのか」と繰り返し口にしていた。
 だが、山崎前社長をはじめJR西の関係者は法廷で、一様に現場カーブの危険性を認識していなかったと主張した。安全対策のトップの鉄道本部長だった山崎前社長。女性は「多くの犠牲が出たのに、なぜ無罪なのか。知らないと言えば許されるのか。このまま、泣き寝入りはしたくない」と、怒りを押し殺すように語った。
 妻博子さん(当時54歳)を亡くした兵庫県尼崎市の会社員、山田冨士雄さん(61)は、「法廷で本音を言わない山崎前社長を追い詰めきれず、『やはり無罪か』と思った。これが今の司法の限界。むなしい気持ちでいっぱいです」と話した。
 山田さんは事故以来、月一度の墓参りを欠かさない。山崎前社長と一緒に行ったこともある。「人の命を預かっているのだから、判断を過って現場カーブにATSを設置しなかった責任は取ってほしかった。検察は控訴するだろうから、裁判を最後まで見届けるのが遺族の役目だと思う」と、表情を硬くした。【生野由佳、山田毅、加藤美穂子】
 ◇引き続き全力で安全対策を推進 社長がコメント
 JR西日本佐々木隆之社長は「弊社は判決(の内容)にかかわらず、この事故に責任を負っており、引き続き、被害に遭われた方々への対応と安全対策の推進に全力を尽くしてまいります」とのコメントを発表した。また社員に向けても、「重大な事故を引き起こしたことを会社として深く反省し、私自身が先頭に立って被害者への対応をはじめ、さらなる安全対策の充実、企業風土の変革に取り組んでいく」とするメッセージを出した。業務用掲示板に張り出す。大阪市北区の同社広報部では午前10時すぎ、テレビで山崎被告無罪のテロップが流れると、「無罪か」とのつぶやきが漏れた。
 ◇「捜査は適正」−−兵庫県
 一方、兵庫県警の田中登士広報課長は「判決文は見ていないが、捜査は適正に行われたものと承知している」とコメントした。
 ◇表情少し緩ませ−−山崎前社長
 山崎前社長は黒のスーツに紺色のネクタイ姿で入廷。傍聴席に一礼し、被告席に座った。午前10時、岡田信裁判長が開廷を告げると、背筋と両腕を伸ばし、硬い表情で証言台の前に立った。
 裁判は10年12月に始まった。山崎前社長は刑事責任を否定し続け、傍聴席から批判を浴びても、淡々と自説を主張してきた。一方、昨年の被告人質問では、検察の取り調べについて「検事に耐えられない言葉を言われ、起訴するぞとののしられた」と強い調子で批判する場面もあった。
 27回の公判を経て、迎えた判決の日。岡田裁判長が主文を読み上げた。「被告人は無罪」。その瞬間、山崎前社長は一礼し、それまでこわばっていた表情を少し緩ませた。
 判決の言い渡しは午後0時半過ぎに終わったが、山崎前社長は傍聴席に目を向けることなく、うつむきがちに退廷した。【村上正、米山淳】

毎日新聞 2012年1月11日 西部夕刊