宝塚歌劇支局より『ロジェ』

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 水夏希(みず・なつき)さん、愛原実花(あいはら・みか)さんの雪組トップコンビのダブルサヨナラ公演となるミュージカル「ロジェ」(正塚晴彦(まさつか・はるひこ)氏作、演出)ショー「ロック・オン!」(三木章雄氏作、演出)が宝塚大劇場で開幕した。

 水さんは、トップスターに就任してから正義感溢れる青年とか甘い二枚目といった役が続き、本来のクールでニヒルな男役というのは「マリポーサの花」のネロくらい(「カラマーゾフの兄弟」のドミトリーも別の意味でよかった)だといっていいと思うのだが、ようやく退団公演でそれらしい役に巡り会えたのはラッキーだった。水さんにはやはりスーツ姿がよく似合う。ただ、サヨナラ公演ということでか正塚氏にしてはエンディングがやや甘く感傷的にすぎ、全体に一貫しなかった嫌いは残った。

 幼いころ見知らぬ男によって家族の命を奪われた男の24年間に及ぶ復讐のドラマだ。舞台はまず第二次世界大戦末期、激しい戦闘を映し出したモノクロのドキュメントフィルムから始まる。そこへ何者かに一家が惨殺される凄惨な光景がシルエットで浮かびあがる。いまどきの大劇場公演には珍しい出だしだ。

 24年後、生き残ったロジェ()は、パリでインターポールの刑事となり、家族殺しの犯人を追っていた。プロローグのエンジ色のスーツを着た水を中心にしたシャープな群舞が目を射る。この場面があるだけでオーケーといった感じだ。捜査の過程でシュミットというナチス戦犯が犯人であることが判明。同じ境遇のレア(愛原実花)らと潜伏先のブエノスアイレスに赴く。ここまでにロジェに協力するパリ市警の刑事リオン(音月桂)ロジェの育ての親バシュレ(未沙のえる)ロジェの同僚マキシム(沙央くらま)ら主要な人物が紹介される。

 設定に新味はないが、復讐だけに生きた男が、やっと見つけた犯人を前にして何をしたか。舞台はこれがテーマとなる。苦い結末だが、決して暗くはない。ロジェの決断が退団していく水自身の決断とだぶるあたりが心憎い。ただ、このあたりが甘く感傷的になったというところでもある。水さんらしい、もっとクールに突き放したラストが見たかったという気持ちもないではない。

 愛原さんの成長、そして次期トップ、音月桂(おとづき・けい)さん の安定感はさらに増した。出番は少ないが、戦犯組織のボディガード、クラウス役を演じた早霧(さぎり)せいなさんが甘さを抑えたクールさで新境地。マキシムの沙央(さお)くらまさんも軽妙なやりとりが暗くなりがちな舞台を救った。