劇評(宝塚歌劇支局)『激情−ホセとカルメン−』

 柚希礼音(ゆずき・れおん)さん、夢咲(ゆめさき)ねねさんを中心とした星組全国ツアー公演、ミュージカル・プレイ「激情−ホセとカルメン−」(柴田侑宏氏作、謝珠栄氏演出)とグラン・ファンタジー「BOLERO−ある愛−」(草野旦氏作、演出)が梅田芸術劇場メインホールでの大阪公演で千秋楽を迎えた。

 「激情−ホセとカルメン−」は、1999年に、姿月(しづき)あさとさん花總(はなふさ)まりさん和央(わお)ようかさん、湖月(こづき)わたるさんら宙組で上演され、芸術祭演劇部門優秀賞を受賞した作品の11年ぶりの再演。メリメ原作の「カルメン」をもとに、ドン・ホセを中心に彼の半生をドラマチックに描いている。オペラではホセがカルメンを刺し殺すところで終わるが、そのあとホセが逃亡の末、捕まり銃殺されるまでを描いている。また原作者メリメをナレーターとして登場させるのもこの作品の特徴。

 「スカーレット・ピンパーネル」のショーヴラン「ハプスブルクの宝剣」のエリヤーフーと熱血漢だが屈折した影のある男がよく似合う柚希さんにとって、ホセは格好の役どころ。現に前半、カルメンに翻弄されて、上官を殺害、軍隊を脱走するあたりまでの感情のおもむくままに直情的に行動するあたりはなかなか感じがでていた。
 しかし欲を言えば、後半、カルメンの心が離れていきカルメンを殺害してしまうあたりがいまいち物足りない。ホセがもっとぼろぼろにならないとこの物語自体が成立しないと思うのだが、宝塚版のホセは最後まで理性を失わないのである。柚希自身は好演しているので何の罪もないが、ぼろぼろになる柚希も見たかったと思う。

 カルメンの夢咲さんは文字通り体当たりの熱演。柄の悪い下品な感じを出すのにかなり苦労したようだが、なかなか堂に入っていた。純白のドレス姿でのセクシーなフラメンコ(蘭このみ氏振付)も初演の花總さんに勝るとも劣らない華やかだった。

 メリメと盗賊団の首領ガルシアの2役に扮した涼紫央(すずみ・しお)さんは、持ち前のクールさとクリアなセリフでドラマ全体の要となり、2人をがっちりサポート。一方、闘牛士エスカミリオ役の夢乃聖夏(ゆめの・せいか)さんは、若くハツラツとして、赤いマントのさばき方などお見事だったが、カルメンがホセを捨てて飛び込むほどの役としての訴求力は感じられなかった。登場しただけで周囲を圧倒する華のようなものがほしい。

 ホセの許婚ミカエラ妃咲(ひさき)せあらさん。自然体でありながらきっちりと計算された演技はこの人ならでは。安心してみていられる数少ない娘役だ。

 一方「BOLERO」は、正月に大劇場で上演されたものの縮小版。柚希さんと夢咲さんのコンビの場面はそのままで、凰稀(おうき)かなめさんの部分に主に涼さんが入り、涼さんのところに夢乃さんといった感じ。ボレロのシーンは柚希さんと涼さんが絡んだ。

 柚希さん、涼さんともに大阪市出身(共に市天王寺高校)とあって随所に大阪弁のアドリブが入り、柚希さん以下楽しんでいる感じがありありだった。

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