劇評(宝塚プレシャスより)『トラファルガー』


 日刊スポーツ記者・土谷美樹氏
隻腕の英雄、イギリス海軍の名将・ネルソンを演じる大空祐飛(中央)。自分の境遇に重ね合わせ「不器用な部分がすごく共感できる」とゾッコンだ(撮影・宮崎幸一)

 

 華やかなタカラヅカに新たなヒーロー像が誕生した。開幕したばかりの宙組ミュージカル「トラファルガー」(6月21日まで)は、ナポレオンを破った英国海軍の英雄、ネルソン提督の半生を描いた壮大な物語。隻腕に眼帯、ヒロイン・エマ(野々すみ花:のの・すみかさん)との不倫愛を貫き、その不器用な生き方はこれまでのタカラヅカにはなかった主演像だ。しかし、その人間臭さと愚直さがファンの心を捕らえて離さない。トップスター大空祐飛(おおぞら・ゆうひ)さんも傷を負っていることでドラマを深め、恋愛の切なさを深め、プラスに働いてくれたらいい。彼の人間的な部分は演じがい満点です」と胸を張った。

 大空さんが自らはもちろん、タカラヅカにとっても新境地といえる主演像を生み出した。

 不倫愛を貫き、戦いで右腕と右目の視力を失ったイギリス海軍の英雄ネルソン。タカラヅカでは、これまで踏み込むことのなかった新たなヒーロー像だ。大空さんもその点には随分気を使った。「不倫と言えば不倫ですが(前回公演の)『カサブランカ』だってそうですし純粋にステキなラブストーリー。見た感じも眼帯は一瞬ですし、腕も途中からそういうことになるんですね。ただ、タカラヅカのトップが隻腕というのも珍しいし、一方でタカラヅカにとっては大事な軍服モノだから見せ方はかなり研究しました」と話す。

 大空さん演じるネルソン提督は18世紀末、フランスの英雄・ナポレオンとも互角に渡り合った英国の実在人物。ローレンス・オリビエ&ビビアン・リー映画「美女ありき」にもなった題材だ。どこか無愛想でクール、不器用な生き方で最後までエマを男らしく守る様子が客席をグッと捕らえて離さない。大空も「彼の不器用な部分と自分自身が重なって、演じていてすごく共感を覚えます」とほれ込んだ。トップスターと海軍の名将、自ら「スロースターター」と分析する「不器用さ」も重ね合わせ、役に反映させた。

 大空さんは花組から組替えでやって来て、トップに就任した当時のことも振り返りながら今回の役を分析した。「あの時、私はいきなり来た船長だったけれども、自分の中では“新しい船出だな”って思いましたし、当時はどうやって組のみんなと通じ合っていこうか…を考えていた」と複雑だった胸中を明かした。

 その上で「いつだって海が静かなわけではないでしょ? 風が強い時もあれば嵐の時もあるけれど、そういう時にどう自分が判断していくか…。ネルソンが背負っていたのはもちろん、私なんかでは及ばないもっと大きなモノだけど、その辺をキッカケに役を作っていきました」と明かした。

 組替えを経てトップになり大劇場では2作目。今や違和感はどこにもない。「初めてだった博多座公演(昨年8月)のことを思うと組の仲間とのコミュニケーションも全然違いますし、自分自身も随分落ち着いてきました。だからやるべき事はきちんとやって、自分の中のゆとり、遊びの部分をショーで生かせたら最高」と笑顔を浮かべていた。

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