沖縄をみつめよう5


 沖縄タイムスより 2010年5月16日 09時59分
在沖海兵隊の抑止力とは 政府、明確な説明なし 海外演習・派兵で不在も

 鳩山由紀夫首相は5月4日に来県した際、米軍普天間飛行場の県外・国外移設について「抑止力という観点から難しい」と述べ、衆院選前に掲げた「最低でも県外」の発言を翻した。ただ、在沖米海兵隊の「抑止力」が具体的に何を指すのか、明確な説明はない。むしろ運用を見ると、海外演習や中東への派兵などで基地を不在にするケースも目立つ。沖縄駐留の実態は「抑止力」として不可欠か。


戦車なく軽装備

 米海兵隊を組織する三つの「海兵遠征軍」のうち、唯一、米本土以外に配備されている「第3海兵遠征軍(3MEF)」(司令部・キャンプ・コートニー)。

 歩兵・砲兵部隊の第3海兵師団(同)、ヘリや輸送機などの第1海兵航空団(司令部・キャンプ瑞慶覽)などで構成され、沖縄には、在日米海兵隊の86・3%が集中している。

 主戦力となる海兵師団は、ほかの遠征軍に比べ、歩兵・砲兵の部隊が少なく、戦車を持たない軽装備だ。

 一方、「海兵遠征軍のミニチュア版」として司令部、空・陸の戦闘部隊などが連携し、紛争や災害などの緊急事態に対応する第31海兵遠征部隊(31MEU)の役割が重視されることが多い。

 こうした役割を踏まえ、長島昭久防衛政務官は5月13日の参院外交防衛委員会で、「海兵隊は抑止力を形成する重要な要素」と強調しつつも、「海兵隊に頼らなければ日本は守れないのか、これはまた別の議論だ」と明言を避けた。

 沖縄の海兵隊が「敵」に攻撃をためらわせる「抑止」として欠かせない存在なのか、またそれが沖縄駐留でなければならないのか。政府も明確な答えを持ち合わせていない。


「対テロ」に重点

 在沖米海兵隊の兵員数は1988年の約2万2000人をピークに減少。ここ数年では約1万2000〜1万6000人の間で増減し、2009年9月末現在では1万4958人。

 一方、米国は米同時多発テロ以降、アフガニスタンイラクでの「テロとの戦い」を主張し、日本からも毎年多くの海兵隊が派遣されている。

 ジェームズ・コンウェイ海兵隊総司令官が米議会に提出した「2010年米会計年度基本戦略」によると、120日間中東などへ派遣された海兵隊員は02年10月時点で4845人だったが、10年1月には10万760人に上った。海兵隊が「対テロ」に重点を置いて展開している状況が分かる。

 また、31MEUは、普天間飛行場のヘリ部隊と共に海外での多国間演習に頻繁に参加。同飛行場の動きを監視している宜野湾市基地渉外課によると、今年2月にタイで6カ国合同演習があった時は、同飛行場に残ったのは2機のCH46中型輸送ヘリだけ。

 同課は「輸送ヘリがたった2機で『抑止力』と言われても市民に説明がつかない」としている。


再編全体に影響

 5月末までに決着できなかったらどのような影響が出るのか―。

 5月13日の参院外交防衛委員会佐藤正久氏(自民)の質問に、岡田克也外相は「(普天間移設とパッケージで日米合意した)8千人の海兵隊のグアム移転、(嘉手納以南の)米軍基地返還が、実はできなくなるかもしれないというリスクがある」と語った。

 米下院は、今月19日に予定する11会計年度国防権限法案に関する軍事委員会採決で、グアム移転経費を政府原案のまま可決する方針。だが、今後、上下本会議の採決など多くの修正機会を残しており、秋ごろの国防予算の最終決定までは予断を許さない状況だ。

 県民が期待した「県外移設」を断念した上に、すでに合意している「負担軽減」にまで影響を及ぼしかねない事態へと発展させた鳩山政権。今後も関係首長らの反発は強まり、混迷が続くと予想される。