さかせがわ猫丸さんの ステージレビュー 「霧矢大夢が渾身の「スカピン」熱唱 宝塚月組公演開幕」

 

 月組公演「THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)」が、4月16日、宝塚大劇場で初日を迎えました。霧矢大夢(きりや・ひろむ)さんと蒼乃夕妃(あおの・ゆき)さんの新トップお披露目、そして第96期生初舞台公演です。

   
   第96期生「口上」(初舞台生が初舞台の時にする挨拶)      

 
 ブロードウェイでも人気を呼んだ原作を小池修一郎氏が潤色・演出、音楽はフランク・ワイルドホーン氏が務め、2008年に星組で初演され大好評を博しています。私も初めて観た時は「エリザベート」以来の衝撃で、思わず複数回観に行ってしまったほどハマりました。今回、主役のスカーレット・ピンパーネルを演じるのは、前回の安蘭けい(あらん・けい)さんに負けず劣らずの歌唱力を誇る霧矢さんですから、まさに「相手にとって不足なし」です。再演と言うのは、記憶に残る初演とどうしても比べてしまうもの。自然とハードルが高くなる中、月組メンバーはどう演じてくれるのでしょうか。


 時は18世紀末。パリには革命の嵐が吹き荒れ、ロベスピエール越乃リュウ/こしの・りゅう)率いるジャコバン党の恐怖政治によって貴族が次々と処刑されている。だが彼らを救い出すヒーローがいた。スカーレット・ピンパーネルと名乗る謎の男が無実の貴族を次々と国外へ逃がし、街中の話題をさらっていたのだ。革命政府のショーヴラン(龍真咲/りゅう・まさき、明日海りお/あすみ・りお、役替わり)は、その男の正体をつかもうと躍起になっていた。

 幕開けは、群集によるギロチンのシーンという衝撃的なオープニング。重厚なコーラスが本格的なミュージカルを予感させます。荷台を引く貧しい年寄りたちが警官に呼び止められますが、この年寄りが実はスカーレット・ピンパーネルことパーシー・ブレイクニー。これがいきなり本物のおじいさん風で、さすが芝居巧者の霧矢さんです。そして朗々と歌う「ひとかけらの勇気」、名曲です。まだ安蘭さんの歌声が耳に残っているだけに、若干の違和感をおぼえてしまうのですが、どっこい、この印象があとで大きく変わっていきます。


 パーシーと敵対するショーヴランは役替わりで、初日は龍さんが務めます。アイドル風のルックスで、まだ若々しさの残る彼女ながら、粘着系の演技でがんばっていました。蒼乃さんは大人っぽくてとても美しく、大女優の風格ばっちり。さすがに緊張からかマルグリットの強さだけが全面に出ていましたが、これは徐々に変わっていくでしょうね。初のトップ娘役とは思えないなかなかの舞台度胸でした。ロベスピエールを演じる越乃さんもイメージぴったり、立てた前髪がやけにキュートです。

 劇場では花型女優マルグリットが最後の舞台を務めていた。これからイギリス紳士パーシーと結婚してイギリスへ渡るのだ。だが革命政府への批判を口にしたため、ショーヴランに公演を中断させられる。ショーヴランはかつての恋人マルグリットに、公演再開と引き換えに反共和派のサン・シール侯爵の居場所を教えるよう迫った。

 婚礼の日、パーシーはサン・シール侯爵が処刑されたことを聞くが、なんとその原因はマルグリットの密告だという。マルグリットへの懐疑と愛の狭間に揺れながらも、パーシーは革命政府に立ち向い王太子を救うことを決意、仲間にピンパーネル団として共に闘ってほしいと告白する。


 ショーヴランが中心となる「マダム・ギロチン」のナンバーは、民衆の怒りと血に飢えた魂を表現し、赤い照明に輝くギロチンのシーンが迫力満点です。一方、パーシーの呼びかけでピンパーネル団の結束が固まり、正義の船が徐々に組みあがりながら出帆するシーンは、観ているこちらも鳥肌が立つほど高揚。その後もピンパーネル団の胸がすく活躍、相手を信じられない気持ちと愛に揺れるパーシーとマルグリットの複雑な表情、ショーヴランの怒りをぶつける銀橋の熱唱など、絶妙な演出と音楽に「クーッ、これぞミュージカルの醍醐味」と何度もこぶしを握ってしまいます。

 霧矢さんは圧巻です。安蘭さんとは違った≪霧矢大夢のパーシー≫を見事に作り上げていました。特に謎のベルギー人スパイ・グラパンの2役には、わかっていても見破れないほど。前作でも話題になったパーシーの愉快なアドリブも、大阪人・霧矢さんの腕の見せ所となるかもしれません。 
    

左がグラパン役の安蘭けいさん

 そして歌いあげられる名曲の数々が心地よく、♪もう揺らがない この愛だけはあー♪ と渾身で熱唱されると、美声のミストシャワーが劇場を覆い尽くし、圧倒されて体が椅子にのめりこみそうな感覚に包まれます。これぞ本当に歌の上手い人だけが体感させてくれる、ナマの舞台ならではの醍醐味でしょう。

 ピンパーネル団の活躍も見逃せません。青樹泉(あおき・いずみ)さんと星条海斗(せいじょう・かいと)さんを筆頭に、それぞれの持ち味を出しながら勇敢に戦う男達を魅力たっぷりに魅せますし、プリンス・オブ・ウェールズの桐生園加(きりゅう・そのか)さんも、お茶目な皇太子を演じて笑いを誘います。ショーヴランとマルグリットの弟アルマンは役替わりなので、明日海さんのショーヴランも楽しみです。

 あっと驚くどんでん返しで、痛快にカタルシスが得られるエンディング。もちろん男役群舞やデュエットダンスもあるショーがついて、見終わった後の満足感が「演劇っていい!」と改めて実感させてくれました。私を完膚なきまでに叩きのめし、霧矢さんの魅力を全開にした「スカーレット・ピンパーネル」…名作です。


さかせがわ猫丸さんについて → 100319 劇評(ステージレビュー)「Je Chante(ジュ シャント)−終わりなき喝采−」より

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サンスポ100417より

 霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん、蒼乃夕妃(あおの・ゆき)さんのトップコンビお披露目公演となる新生月組の「THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット・ピンパーネル)」(小池修一郎氏潤色・演出)が4月16日、宝塚大劇場で開幕した(5月17日まで)。
 
 原作はイギリスの作家、バロネス・オルツィの冒険活劇で、1997年に米ブロードウェーでミュージカル化(フランク・ワイルドホーン作曲、ナン・ナイトン脚本)。2008年には宝塚歌劇のためにワイルドホーンが新たに「ひとかけらの勇気」という主題歌を提供し、宝塚独自の装置・衣装・振付で星組が初演。高い評価を得たヒット作の再演となる。

 今回は、主演のイギリス貴族、パーシー・ブレイクニーの霧矢さんに対し、敵役となるフランス革命政府の公安委員、ショーヴランを、龍真咲さんと明日海りおさんがダブルキャストで演じるのも話題。また、宝塚音楽学校を卒業した第96期初舞台生38人が、春恒例の初々しい口上とラインダンスを披露する。


 まず黒紋付に緑の袴(はかま)というタカラジェンヌの正装に身を包んだ初舞台生が並び、3人ずつが日替わりで口上を述べる。次いで幕が上がると、そこはギロチン台が不気味に光る18世紀末のパリ。フランス革命で王政は廃止され、怒りを爆発させた民衆は貴族を次々に断頭台に送るという革命の嵐が吹き荒れていた。

 そんな中、死刑宣告をされた貴族たちを国外へ逃亡させるスカーレット・ピンパーネルと名乗るなぞの男が現れる。その正体は義憤にかられたイギリス貴族のパーシー(霧矢さん)だった。コメディー・フランセーズ劇場の花形女優マルグリット(蒼乃)は、パーシーと結婚するために今夜の舞台を最後にパリを去る。公安委員ショーヴラン(初日は龍さん)は、マルグリットとはかつて共に闘った同志だったが、今はスカーレット・ピンパーネルを捕まえるのに躍起で、マルグリットを脅し、協力させようとする。

 パーシーはマルグリットと結婚式を挙げるが、スカーレット・ピンパーネルの協力者だった侯爵が殺されたことで、居場所を知っていたマルグリットに不信感を抱き、2人の仲はギクシャクし始める。パーシーは友人たちに自分の正体を打ち明け、彼らの協力を得て、フランス国王の遺児、ルイ・シャルル殿下を救出するため、フランスへと船出する。マルグリットの弟アルマン(初日は明日海さん。龍さんとの役替わり)も仲間入りするが、ショーヴランに捕らわれてしまう。

 シャルル殿下やアルマンを救うためパリに乗り込んだスカーレット・ピンパーネルの仲間たち(青樹泉さん、星条海斗:せいじょう・かいとさんほか)。パーシーはベルギー人スパイ、グラパンに姿を変え、ジャコバン党の指導者ロベスピエール越乃リュウさん)に近づき、ショーヴランらを攪乱(かくらん)する。

 パリへ戻ったマルグリットもひょんなことからパーシーこそがスカーレット・ピンパーネルだと確信するが、ショーヴランに捕らわれる。ついに正体を明かしたパーシーが、ショーヴランと1対1の対決を制して、すべての真実を明らかにする。その解決法が実に爽快(そうかい)だ。

 フィナーレは歌う紳士(龍さん、明日海さんの役替わり)で始まり、赤い花をイメージした衣装で踊る初舞台生のロケットへ。大階段で歌う霧矢さんと淑女たちの踊りから、サーベルを手にした男役たちの勇壮な群舞に変わり、霧矢さんと蒼乃さんがしなやかなデュエットダンスを披露。羽咲まなさんのエトワールでパレードとなり、

最後に霧矢さんが、ひとりだけ大きな羽根を背負って大階段を降りる。
 東京宝塚劇場公演は6月4日〜7月4日。

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