劇評(ステージレビュー)「Je Chante(ジュ シャント)−終わりなき喝采−」より


 わたしは何度も「さかせがわ猫丸」氏の劇評を取り上げていますが、彼女はわたしもそうだが、生徒に「さん」と「ふりがな」をつけます。これは物書きとしては「字数」の関係から、情報量が少なくなるのでマイナス要因ですが、マイナスを補って余るほど「さかせがわ猫丸」氏の文章には宝塚への愛情があると思います。


◇20100211 雨降る中で 宝塚観てきました。
◇20100112 BUND/NEON 上海」−深緋(こきあけ)の嘆きの河(コキュートス)− 劇評(さかせがわ猫丸さん がんばれ)

文・さかせがわ猫丸氏 写真・岸隆子氏

 宙組公演「Je Chante(ジュ シャント)−終わりなき喝采−」が、3月18日、バウホールで初日を迎えました。主役のシャルルを演じるのは、凪七瑠海(なぎな・るうみ)さん。2009年の月組公演「エリザベート」で、タイトルロールのエリザベート役に大抜擢され、大きな話題を呼びましたが、今回は本来の男役に戻って初めて中央に立ちます。それだけにどんな舞台となるのか、注目度も半端ではありませんね。凪七さんの相手役ジジは、娘役としても完成されてきた演技派・花影アリス(はなかげ・ありす)さんが演じます。20世紀フランスを代表する歌手かつ偉大な詩人だったシャルル・トレネを題材とした作品で、作・演出はこの公演がバウホールデビューとなる原田諒さん。フレッシュさ満点の舞台となりそうです。


 1930年、パリの撮影所では、レビュースターのミスタンゲット(美穂圭子/みほ・けいこ)の傲慢なふるまいに、監督やスタッフは右往左往していた。機嫌を取りながらやっと撮影が始まったその時、小道具によってドレスが汚れてしまい、彼女は大激怒。係のシャルルに責任が押し付けられるが、付き人ジジの機転でその場が救われた。


 その夜、シャルルは友人のジョニー(鳳樹いち/ほうじゅ・いち さん)に誘われクラブを訪れたが、楽しみにしていたライブが突然中止になってしまう。そこで酔った客にからまれた2人が、なぜか即興でライブを披露することに。ところがこれが大いに受けてしまったのだ。


 凪七さんは顔がものすごく小さくて、スタイル抜群。思わず自分と同じ人間かと不思議になるほどの8等身、いや10等身位ありそう? 顔にはまだ幼さが残るものの、その可愛らしさが彼女にとって武器になるかも! ふわふわパーマをかけたヘアスタイルもキュートで、シャルルの明るいキャラクターにぴったりとはまっていました。エリザベートという大役を経験したおかげか、舞台度胸もなかなかのもの、堂々とした演技っぷりです。

 シャルルが友人のジョニーとともに、歌い踊るシーンがとにかく楽しい! 鳳樹さんも芸達者のようで、2人のやりとりは観ているだけで、こちらも思わず顔がほころんできます。専科の美穂圭子さんもさすがの貫録で、レビュースターらしく美声を響かせながら舞台を引き締めます。

 クラブから朝帰りの途中、シャルルは偶然ジジと再会、降り出した雨をのがれるため2人は店先で雨宿りをした。次第にうちとける2人だったが、そこへミスタンゲットが現れ、叱責されてしまう。後日、シャルルは突然、撮影現場で解雇を言い渡された。ジジとの仲を快く思わないミスタンゲットのせいだろう。失意のシャルルだったが、そこへプロデューサーなる人物が現れ、シャルルとジョニーにデビューの話を持ちかけてきた。あっという間にスターダムにのし上がる2人。だが無情にもシャルルの元へ、徴兵令状が届く。


 凪七さん花影さんカップルは、2人ともスリムで並んだ姿もよく似合っています。雨宿りのシーンでは少し長めの会話がはずむのですが、これがとてもさわやかで初々しい。そして毎回しつこくてごめんなさいですが、またもや言わずにいられない宙組の素晴らしいコーラス。なぜこんなにも重厚かつ透き通っていて美しいのでしょうか。何か特別な仕組みでもあるのかと、今回も激しく感動してしまいました。宙組の舞台を観に行く時は、絶対に「コーラス」も期待して間違いなしです。

 兵役が終わりパリにもどったシャルルは、再び舞台に立つようすすめられた。今、話題の新しいレビュースターとの共演も用意されているという。そしてそのスターこそ、美しく変身したジジだった。だが再会に驚くシャルルの目の前を、ナチスドイツのゲオルグ春風弥里/はるかぜ・みさと さん)に肩を抱かれ、彼女は通り過ぎて行ってしまう――。


 1幕までは明るいストーリーでしたが、2幕からはガラリとムードが変わります。迫害されるユダヤ人・ジジの苦しみなどを描き、花影さんの演技力が光るところ。冷酷なドイツ軍人を演じる春風さんの、ジジへのむくわれない愛を歌いあげるのも見どころです。

 芝居の後に少しだけつくショーでは、本格的な黒燕尾群舞とデュエットダンスも見られます。ストーリーもわかりやすく、劇中歌が宝塚のショーでもおなじみのものですから、その点でも気持ちよく物語に入っていけるのではないでしょうか。とにかく徹底して、流れる空気が「さわやか」。若い人たちで作るフレッシュさいっぱいの舞台は、春の季節にふさわしく、ほほえましくてあったか〜い気分に浸らせてもらえました。

◆ミュージカル「Je Chante(ジュ シャント)−終わりなき喝采−」
《宝塚バウホール公演》2010年3月18日(木)〜2010年3月29日(月)