劇評 (プレシャスより)「ソルフェリーノの夜明け」と「Carnevale 睡夢」

 赤十字社を創設したアンリー・デュナンの半生を描いた雪組ミュージカル「ソルフェリーノの夜明け」(3月8日まで)は、タカラヅカらしからぬ骨太で戦争の悲惨さも描く大河ミュージカルだ。9月の次回作で退団することを決めたトップスター水夏希(みず・なつき)さん愛原実花(あいはら・みか)さんにとっては“ラス前”の大事な公演。水は「男女の愛を超えた人間愛を描いた作品。男役というよりデュナンという人間をしっかり演じたい」とタカラジェンヌ、男役トップという枠組みを超え、役者としてのプライドをのぞかせ熱演を繰り広げている。


 トップスター水さんの衣装が血に染まり、顔も泥で汚れている。死体の山を縫って歩き、兵隊役の多くも衣装が血で染まる。男役スターの早霧(さぎり)せいなさんでさえ、顔の半分を包帯で覆っての出演だ。赤十字創設者、アンリー・デュナンが悲惨な戦場に出くわし、負傷者を救おうと必死に闘う姿を描く「ソルフェリーノ−」。美しく、華やかさがお約束のタカラヅカからすれば歴史的な作品の誕生と言える。


 「明るく楽しい場面は無いに等しいですよね、ロマンスもないし。でも男女の愛を超えた人間愛が広がっています。だから、タカラヅカの男役というより私はアンリー・デュナンという実在の人間を真の意味で演じたい、と思いました。タカラヅカにいると現実から離れて生きることができるけれど、今回はそれじゃダメだと思いました」。水さんも相当の覚悟で臨んでいる。

 
 演出の植田紳爾氏は華やかな「ベルサイユのばら」の生みの親。しかし、植田氏は「こういうテーマを描くのに、戦争の悲惨さに目を背けてはいけない、と思ったんです。華やかで美しくなければタカラヅカじゃない、と思う方もたくさんいらっしゃるだろうけれどそういう時代ではないし、逃げるべきじゃない」と熱弁をふるう。


 その熱い思いに出演陣もこたえクライマックス、敵も味方も一緒になって「アヴェマリア」を歌う場面では客席からすすり泣く声も聞かれる。「偽善でなく演じられたら」と願っていた水さんの渾身(こんしん)の演技が客席に届いた証拠だろう。

 
 一転、ショー「Carnevale 睡夢」は華やかで見どころも満載。必見は水さんが「いつ以来だろう? 相当前ですよ」と話すほど、貴重な娘役への変身だ。わずか1場面だが「仰天するのではなく、美しい女性に化けられたらな、と(笑)。大女が出てきますので(笑)大いに盛り上がっていただきたい。シリアスなミュージカルと派手で華やかなショー。1公演で2度おいしいですよ」と冗談を交えながらPRした。

 水さんと愛原さんは先月、相次いで次回公演での退団を発表した。タカラヅカでのゴール地点を決めた2人にとっては“ラス前”となる公演。「今までも精いっぱい命をかけてやってきたので、最後の最後まで悔い無きよう、仲間たちとでき得る限りの最高の作品を作りたい」。そんな決意が、この舞台からも伝わってくる。


産経新聞20100115より

 宝塚歌劇団雪組トップスターの水夏希(みず・なつき)さんが1月15日午前、大阪市内のホテルで記者会見を開き、9月に退団することを発表した。

 この日の水さんは自分らしく、かっこよく」と黒ずくめの服装で登場。

        

 
 退団を決意した経緯について、「主演になって3作目ぐらいから、あと何作目かには、と考えるようになった」と話し、特に思い出深い作品に「ベルサイユのばら」を挙げ、「いろんな役をやらせていただいた。ベルばらなくして今の私はありません」と語った。


 退団後については未定といい、「心を込めて残りの舞台をつとめさせていただきますので、どうかよろしくお願いします」と会見を締めくくった。

 水さんは千葉市出身で平成5(1993)年初舞台(月組「グランドホテル」/「BROADWAY BOYS」)。19(2007)年2月、中日劇場公演『星影の人/Joyful!!II』から雪組トップスターをつとめてきた。退団公演(ミュージカル『ロジェ』作・演出/正塚晴彦氏)は宝塚大劇場公演が6月25日〜7月26日、東京宝塚劇場公演が8月13日〜9月12日。