雨降る中で 宝塚観てきました。


 

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赤十字誕生を描く、宝塚「ソルフェリーノの夜明け」開幕2010年2月6日
文・さかせがわ猫丸さん 写真・岸隆子さん

 赤十字思想誕生150周年・雪組公演「ソルフェリーノの夜明け」―アンリー・デュナンの生涯―が、2月5日、宝塚大劇場で初日を迎えました。主演の水夏希(みず・なつき)さんが演じるアンリー・デュナンは、赤十字を創設し、第1回ノーベル平和賞も受賞された実在の人物。情熱と人間愛にあふれた彼を通して平和の尊さを描く作品とのこと、恋愛ものとはまた違った見どころが楽しみです。

 そしてこの公演で、2番手の彩吹真央(あやぶき・まお)さんが退団します。透き通る歌声がまるで高級スパのように癒しを与えてくれる、堂々の実力派だっただけに残念でなりません。ジェンヌさんが卒業する寂しさも宝塚が持つ味の一つとはいえ、やっぱり悲しいもの。私も最後の男役姿をしっかり目に焼き付けておこうと思います。


 戦争が舞台の話なので身を引き締めて臨みましたが、オープニングはなんと意表をつくベルばら調でした。昔ながらの歌劇といったショーから始まるのですが、この独特の世界がまたイイ。時にはハードボイルド、時にはブロードウェイミュージカルと、公演によって全然違う色を見せてもらえるのが宝塚の面白さですものね。ちなみに男役の群舞は、エリザベートフィナーレ・ベルばら風味といった感じです。


 物語は1859年。第二次イタリア独立戦争は激化し、オーストリア軍・イタリア軍フランス軍ともに死傷者が続出。戦場を通りかかった旅行者デュナンは、悲惨な光景に衝撃を受けた。教会は野戦病院と化し、負傷者があふれている。だが幼い頃、両親をオーストリア軍に虐殺された過去から、看護婦のアンリエットはオーストリア兵の手当てを拒否していた。「命に敵も味方もない」と主張するデュナンに、イタリア軍師団長ファンティと参謀長ポルリノも厳しく責めたてる。

 勇気あるデュナンに、水さんはとてもよく似合っています。命の大切さを粘り強く語り、身を投げうって負傷者を手当てする姿はカッコよすぎてたまりません。しかも二晩寝ずに働いていたという無精ひげが、さりげなく男らしいのも要チェックです。


 そして、デュナンとともに、敵味方の別け隔てなく傷病者の手当をする医師エクトールを演じるのが彩吹さん。彩吹さんは白衣と眼鏡がステキで誠実な役柄を熱演。そして銀橋で歌う曲が「雪のように 花のように」。雪組花組で活躍してきた彼女のために書かれたのが明らかで、思わず泣けました。


 アンリエットは娘役トップの愛原実花(あいはら・みか)さんイタリア軍のポルリノは音月桂(おとづき・けい)さんが演じます。その上司ファンティは、この公演で退団する未来優希(みらい・ゆうき)さん。ダイナミックな歌手で、芝居にショーに、欠かせない存在でした。今回もたっぷりと聴かせてくれますので、耳と胸に刻んでおかねばなりません。


 デュナンは医師エクトールに、兵士たちの治療を手伝うと申し出た。そうして教会の裏では心ある者たちによってオーストリア兵も助けられていたが、ファンティらに見つかってしまう。さらにオーストリア兵ハンデルが脱走を企てたことも発覚し、その責任をとってオーストリア軍の将軍は銃殺されることとなった。日々、戦況は悪化し、教会はすでに受け入れの限界を超えている。見かねたデュナンは、それまで誰も考えなかった提案をする――。

 オーストリア兵ハンデルを演じる緒月遠麻(おづき・とおま)さんが光っていました。熱い演技とルックスの濃さで、これからが楽しみです。


 命の尊さに敵も味方もないと、終始一貫して訴え続けるデュナン。その勇気と信念が今日の赤十字を築いたという、歴史の重さを感じます。これこそ幅広い年代の方に観ていただきたい作品だと思いました。主題歌の「ソルフェリーノの夜明けが、十字を赤く染める」というフレーズが何度も出てくるので、帰りには思わず口ずさんでしまうかも。


 続いてショーは「Carnevale(カルネヴァーレ) 睡夢(すいむ)」―水面に浮かぶ風景―。これまでバウホールなどを手がけてきた若手演出家・稲葉太地さんの大劇場デビュー作品となります。カルネヴァーレというのはヴェネツィアのカーニバルのことで、リオの激しさと違い、クラシカルで幻想的なお祭りだそうです。色とりどりの衣装に、男女はみな仮面。カーニバルらしい華やかな展開なのに、どこか夢の中にいるような不思議な感覚もして、なかなか斬新なショーでした。

 水さんがわっかのドレスで登場する場面もあります。仮面で顔を隠しているのですが、声でわかるのでぜひ注目を。そして一瞬にして黒燕尾になり、迎える紳士たちと踊るのですが、あまり観たことがないスピード感あるダンスで、ここが一番の見どころ。未来さんの熱唱も堪能できますし、彩吹さんがみんなに見送られるシーンや、黒燕尾の水さんと銀橋ですれ違うなど、サヨナラ的演出もあります。とにかく全面的にダンスが良くて、またいいショー作家さんが一人生まれたなと思わせてくれる作品でした。


 このところ特に寒い日が続きますが、宝塚を観た後はおなかの中からあったかくなります。芝居で人間愛に打たれ、ショーの華やかさで高揚し、今回もポカポカしながら劇場をあとにしました。