劇評(宝塚歌劇支局より) 「紫子(ゆかりこ)−とりかえばや異聞−」

 霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん、蒼乃夕妃(あおの・ゆき)さんの月組新トップコンビによる披露公演、ミュージカル・ロマン「紫子(ゆかりこ)−とりかえばや異聞−」(柴田侑宏氏脚本、大野拓史氏演出)とファンタスティックショー「Heat on Beat!」(三木章雄氏作、演出)が、名古屋・中日劇場で開幕した。

 まず「紫子−」は、1987年に峰さを理(みね・さおり)さん時代の星組で上演され、再演希望の高かった名作。なんと23年ぶりの再演となる。

 平安末期の作者不詳の「とりかえばや物語」を戦国時代に置き換えた木原敏江氏のマンガ「とりかえばや異聞」の舞台化で、病に倒れた双子の兄の替え玉となった男勝りの妹、紫子が兄の志と国を守るために必死に生きようとする姿を描いたドラマチックな物語。波瀾万丈の展開は今見ても十分面白い。

 女性に生まれながら男のように育てられたといえば、思い出すのは「ベルばら」のオスカル。紫子はまさに和製オスカルといった趣で、主人公が女性というところがまず新鮮。霧矢さんは兄、碧王(みどりお)と2役で、その早替わりも見せ場となっている。

 若衆姿の紫子(霧矢さん)が、客席から登場。浪人の風吹(青樹泉=あおき・いずみ=さん)と出会い、風吹が紫子の美貌に強く惹かれるプロローグがあって、まずは華やかな日舞絵巻が展開。続いて、とある遊女屋の場面へ。父が急死、病身の母を養うために遊女屋に籍を置いていた紫子は、ある日、客をとることになる。客にきたのが風吹。紫子が女性だったことに驚くがその若竹のような魅力にひかれ、紫子も女ごころにめざめて、二人は恋に落ちる。

 そんなとき、紫子の双子の兄で国の主君である碧王(みどりお)が病で倒れ、替え玉になってほしいと使者が現れる。紫子は、碧王が回復するまでという条件で城にあがるが、碧王の刺客として城に現れたのは風吹であった。

 紫子、風吹そして碧王の許嫁として替え玉の紫子と婚礼を挙げる舞鶴姫(蒼乃夕妃さん)主君の身代わりである紫子に思いを寄せる家臣の定嗣(明日海りお=あすみ・りお=さん)と人間関係がよく練られており、まさに和製「ベルばら」というにふさわしい。婚礼初夜に紫子は、恋人の風吹を送り込み、その苦悩を歌とダンスで表現した「紫子の乱れ」は今回もみどころのひとつ。

 霧矢さんは、高めの発声による口跡のいいセリフと豊かな歌唱力でそして歯切れのいい日舞で、申し分のない好演。スタッフに入った峰さを理さんの的確な指導も忘れてはならない。

 風吹の青樹さんは、遊び人的な雰囲気はでているが、もう少し不良っぽい男っぽさが出ればさらによくなるだろう。

 明日海さんの定嗣役は、辛抱役ではあるが典型的な宝塚の二枚目役で、明日海の個性にはぴったり。ラストのクライマックスでの切なさはなかなかだった。

 一方、舞鶴姫の蒼乃さんは、紫子が女性と知りながら婚礼を受け入れる複雑な心境を、繊細に的確に演じ、実力派ぶりをみせつけた。

 ラストの戦のシーンも含めて、かなりスケールの大きなストーリーで、中日劇場サイズではややもったいない感じ。大劇場での再演が望まれる。