歌劇評(朝日新聞) 「再会」 凰稀(おうき)かなめさんは「月」


2009年10月26日 日刊スポーツ記者・土谷美樹氏。

 星組の準トップスター・凰稀(おうき)かなめさんが、ミュージカル「再会」(11月5日まで全国ツアー)でコメディーに挑戦中だ。トップスター柚希礼音(ゆずき・れおん)さん、彩海早矢(あやみ・はや)さんとのアップテンポなセリフのやりとりは絶妙で、客席も大ウケだ。雪組から異動してきてまだ半年。その間にはケガも乗り越えた。今やすっかり組に溶け込み、トップコンビ柚希さん&夢咲(ゆめさき)ねねさんとの華やかなスリーショットは見る者のため息を誘う。組替え後初の全国ツアーへの意気込みと、激動の半年を振り返ってもらった。


 
アップテンポなセリフ、絶妙の間。最後のどんでん返しも加わって、コメディータッチのミュージカルに連日、客席も大いに沸いている。

 「再会」は1999年、専科スター轟悠(とどろき・ゆう)さんが雪組トップスター時代に初演され、2002年に再演。今回が3度目の上演となる人気作で、何よりも軽妙なセリフのやりとりが魅力だ。「チエさん(柚希)と(同期=2000年入団 第86期生=の)彩海と私の3人が親友役なんですけど、学年も近いし、普段のコミュニケーションの雰囲気が舞台に出れば、と思っています」。

 
 凰稀さんにとっては今回が2度目の全国ツアー。本拠地や東京公演など“タカラヅカ慣れ”しているファンとは違うリアクションが刺激になるらしく「お客さんの反応がホントにおもしろい。客席に降りたりするとウワッーってなってくれるし。私たちにとっても普段味わえない感覚があって楽しい」と笑った。


 今年はいろんな事があった。雪組から組替えでやってきたのはわずか半年前。しかも、一足飛びに2番手スターとして迎え入れられた。その間、左足小指を骨折。大劇場公演への「休演」も頭をよぎるなど波瀾(はらん)万丈の2009年だった。


 「もちろん、10年間いた雪組を離れるのは寂しかったけれど、実は自分の中で色々悩んでいた時期でもあったんです。自分自身“何かを変えなきゃ”ってもがいていたというのか“もっとこうしたいのに何でできないんだろう?”“何かを壊せたらもっと良くなるんじゃないか”って

 そこには下級生のころから注目を浴びてきた優等生ゆえの苦悩が見え隠れする。「いつも“うまくやらなきゃ”ってどこかで思っていたかも知れません。他の人の目が気になって、そういう自分がイヤになっていた。でも、星組にきたら“いいじゃん、けいこで失敗しても”って思えるようになってきた」。組替えを経験したことで、凰稀は自分の中の見えない『何か』を打ち破っていた。


 しかも、星組最初の大劇場公演を前に左足小指を骨折した。初日までわずか3週間。誰もが「休演やむなし」と思っていた。新トップ柚希のお披露目公演、自分にとっても“星組デビュー”の大事な舞台。どうしても出たかった。凰稀さんは周囲も驚くほど入念なリハビリとケタ外れの精神力で初日に間に合わせたのだ。

 「自分のしんどさより今となったら“折れてようが何しようが、何でもできるんだな”って思いました(笑)」。舞台が終わるころには何倍もの逞しさを備えていた。


 173センチの長身に抜群のスタイル。172センチの柚希さん、164センチの夢咲さんとの3ショットは華やかで迫力満点だ。「チエさんは1つ上のあこがれの上級生。すごい好きだったし、今コンビを組んでいるのが不思議なくらい。チエさんは太陽みたいなワイルドさで、私は真逆。あえて言うなら月かな? でもその真逆さが舞台にいい風に出せればいいですね」。そう言ってクールに笑う表情が印象的だ。「太陽と」。新しい星組には無限の可能性が広がっている。


 星組全国ツアー公演 公演期間:2009年10月7日(水)〜11月5日(木) ミュージカル・プレイ『再会』作・演出/石田昌也氏。併演はショー『ソウル・オブ・シバ!!』−夢のシューズを履いた舞神− 作・演出/藤井大介氏。
 
 10月7日〜10月8日 梅田芸術劇場メインホール(大阪府)/ 10月10日〜10月12日 神奈川県民ホール(神奈川県)/ 10月15日 ホクト文化ホール長野県県民文化会館)/