月組 新人公演 劇評(宝塚歌劇支局より)「ラスト プレイ〜祈りのように〜」


 

 期待のホープ、明日海りおさん主演による月組公演、ミュージカル「ラスト プレイ〜祈りのように〜」(正筭晴彦作、演出)の新人公演(稲葉大地担当)が、このほど宝塚大劇場で上演された。

 月組トップ、瀬奈じゅんさんのサヨナラとなった今回の公演。すべては瀬奈さんのために書かれたオリジナルであり瀬奈独特のフィーリングや男役の円熟味という意味では到底かなわないが、明日海が演じたアリステアも若さゆえの苦悩や焦燥感などが身体からにじみでてなかなか見応えがあった。このクラスの男役では歌唱、演技、ルックスと一際抜きんでた存在であることが、今回の公演でも照明された。

 明日海さんのアリステアは、孤児院でピアノの英才教育を受け、コンクールでその期待の重圧におしつぶされてしまう発端の少年時代のナイーブな雰囲気がよくでていたと思う。

 相手役のムーア(本役・霧矢大夢さん)に抜擢された研2の珠城りょうさんは、実力はあるし素直な演技で懸命に演じているが、さすがに荷が重かったか。本公演では演技巧者、霧矢さんが演じている役とあって、格好だけで見せられる役ではなく、腹芸が必要な難役。霧矢さんのうまさが改めて証明される結果となったようだ。次回の挑戦に期待したい。

 娘役はムーアの愛人エスメラルダ(城咲あいさん)を蘭乃はなさん、アリステアの幼なじみヘレナ(羽桜しずくさん)を愛風ゆめさん、アリステアの看護婦アイリーン(憧花ゆりのさん)を彩星りおんさんが演じた。役としてはどれも同じくらいの比重だが、蘭乃さんが華やかな雰囲気をうまくだし、愛風さんは清楚さで、彩星さんは闊達なセリフ回しが印象に残った。

 グラハム(未沙のえるさん)の宇月颯さん、エルネスト(越乃リュウさん)の美翔かずきさんがワキ固めにまわり、クリストファー(龍真咲さん)は研4の煌月爽矢さんが扮した、名前の通りさわやかな個性で舞台に清涼感を振りまいた。ただ美形の美翔さんにヒゲはややもったいなかった。

 遼河はるひさんが演じたジークムントは紫門ゆりやさん、相棒のヴィクトール(桐生園加さん)には貴千碧さんが扮し、本役のコンビ同様コミカルなところを見せたが、もう少し弾んでほしかった。

 ローレンス(青樹泉さん)の鳳月杏さんはよく感じがでていたが手下のピエトロ(光月るうさん)がうまく外して笑わせた。

 全体的には出演者全員が正筭演出独特の自然体のセリフ回しをクリアして、うまくまとまっていたが、明日海さん以外の出演者に華がなかったのがちょっと気になった。明日海さんはこれで新人公演卒業だが、次回からの新人公演は誰が主演を務めるのか注目したい。