白羽ゆりさんロングインタビュー


 ―やはり、トップスターのファンの皆さんは、トップコンビとして常に素敵でいて欲しいという思いがとても強いですからね。


 だけど、決して男役さんだけのためにいるわけではない、娘役自身も磨かれなきゃいけないし、輝いていなきゃいけないんですよ。
 宝塚の娘役って、とても華やかで非現実的な存在としてとらえられがちですが、そこには意外に厳しい現実があって、でも、決して逃げることなく、向き合っていきたいと思っていました。それは歌劇団とも向き合いたいし、自分のファンの方とも向き合いたいですし、相手役さんとも向き合いたいし、男役さんのファンの方とも向き合いたいし、雪組ファンも宝塚ファンの方も…苦しい部分も、正直あります。だけど、それでも好きな世界だから、歯をくいしばって自分を磨く。そこはもう、難しいですけど、踏ん張りどころです(笑)。

 表向きは可憐で美しくなくてはいけないですし、最高のパートナーでなくてはいけない。それと現実の厳しさと。その両方があるというのは、宝塚全体にもつながるんですよね。ふたを開けたらすごく厳しい世界ですから。

 「私たち、こんなに厳しい生活を送っているんです」ということは、お客さまに知っていただかなくていいと思うんです。ただ、その厳しさが世の中の人にとって何かの学びになるのであれば、広く世の中に宝塚の厳しさが取り上げられるのは面白いのかもしれません。でも、舞台はあくまで、「華やかでキレイね〜」というので、十分じゃないかって思いますね。

 ―ふだん私たちは「華やかできれいな娘役さん」と思って客席からみていますけど、その陰にパワフルさというか、たくましさがあるのですね。

 娘役はとくに、たくましくないと無理だと思います。抜擢が早いですし、ライバルがすごく多い世界のなかで抜きん出ていくためには…自分でいうのも何ですけど、少しパワフルさが必要な気がします。でも、そのたくましさが前面に出てしまうとダメなんですよね。だから、見えないところでの、たくましさや芯の強さが、必要かなって思いますね。

 でないと、ゆらぐんですよ、すごく。ファンの方の間にも、生徒内でも、いろんな意見、いろんな評価がありますから。ただ、自分は何故ここにいて、何をやりたくて、この世界に入ったのかということを、決して忘れないようにしていたから、がんばれたのだと思います。
 
 でも、宝塚の娘役に限らず、女性って決して弱くないですし、特に今の日本の女性はとても素敵だと思うんですね。お仕事をがんばってらっしゃる方が多いですし。それに、強いといっても、ただ強いわけではないと思うんですよ。たとえば、お母さんなんて、子どもを守るというところで、はかりしれない強さを持っていますし。いろんな意味での強さがあるということは、決して見失いたくはないなって。

 それは、宝塚で娘役として、いろんな役を経験して学んだからこそ、思うことなんです。私自身がいろんな経験をしているわけじゃないんですけども、たとえば、エリザベートマリー・アントワネットといった「母親」の役をしたときに感じた心って、私のなかに残ってるんですよ。

 ―役を通じて、すごくたくさんの人生を経験されている…。  

 そうなんですよ。だから、やがて自分が結婚して子どもが生まれたときまで、あのときの気持ちは絶対に忘れたくないなと思います。私、「白羽ゆり」としての引き出しなんて、そんなにないのに、いろんな役をさせていただいたおかげで、気がついたら、本名の自分の引き出しにも、いつの間にか色んなものが入ってたみたいな(笑)。一回の人生で、いろんな人生を経験したような気持ちになれるところが、すごく面白いですね。
 
 ―しかも、「王妃さま」とか、とても特別な人生ばかり。  

 特別すぎて、どこまで戻っていいのかわからなくなるときもあるんですけど(笑)。ただ、女性ってキレイなものが好きですから、美しい人だといわれているエリザベートには誰しもが興味を持つと思うんですよね。そんな彼女が、現代の女性と同じように嫁姑問題で悩んだりする。コスチューム物なのに現代の感性に近くて、「そうなんだよね〜」と共感できる部分が多いから、「エリザベート」って人気があるのかなと思います。