劇評(宝塚歌劇支局より)「コインブラ物語」

 

 専科の男役スター、轟悠(とどろき・ゆう)さんの1年半ぶりの主演舞台となる星組公演、宝徐ュミュージカル・プレイ「コインブラ物語」(小林公平氏作、酒井澄夫氏監修、演出)が大阪・シアター・ドラマシティで開幕した。


 ポルトガルの古都コインブラに伝わるポルトガル王家最大の悲劇「ペドロとイネスの物語」に感動した小林氏が、時代を大航海時代に移し、内容も自由に脚色して書き下ろしたコスチュームプレイ。

 もともとの伝説は、ポルトガルの王子ペドロが隣国のコンスタンサ姫と政略結婚させられるが、姫の侍女イネスに心を奪われ子供までもうけてしまう。父王はそれを知って激怒し、イネスを部下に殺害させる。やがて王位に就いたペドロは、その事実を知り、手を下した犯人を捕らえて処刑、自分が死んだらイネスと一緒に葬ることを遺言するというもの。ポルトガルでは日本でいう「忠臣蔵」のように誰でも知っている物語だという。


 小林氏が脚色した宝塚版は、イネスはポルトガル王家の女官で、ペドロがコンスタンサに出会う前にすでに2人は恋仲になっているという設定。一方、コンスタンサにもカストロ王国の近衛隊長ビメンタという恋人がおり、ペドロとコンスタンサは偽装結婚の形をとる。父王はそれを快く思わず、イネスを手下に殺害させようと画策するが、たまたまイネスの実家を襲ったイネスそっくりの盗賊の娘を間違って殺してしまう。ペドロはイネスが死んだとばかり思い、嘆き悲しむがイネスが生きていると知り…。 轟さんが「登場人物に悪人が一人もいないんです。(小林)校長先生のお人柄がうかがえるご本ですね」と話しているように、どろどろとした史実とは違ったストイックなストーリー展開。演出の酒井氏は、これを典型的な宝塚西洋絵巻物として創り上げており、全体的にやや古めかしい作りだが、フィナーレも含めて宝塚を見たという安心感のようなものは味わえる。


 轟はもちろんペドロ。王子として個人の幸せに生きるか、国のために生きるか、究極の選択に悩む青年を、轟ならではの直情的なさわやかな演技で巧みに表現した。

 一方、イネスと間違って殺される盗賊の娘ミランダを蒼乃夕妃が2役で扮している。月組の新トップ、霧矢大夢の相手役として組替えが決まっており、これが星組最後の舞台となるが、さすがに上り坂の魅力にあふれて輝いている。イネスの清楚で柔らかな物腰もいいが、ミランダの野性味たっぷりの奔放な感じがさらに魅力的。これからの活躍が楽しみだ。


 ビメンタ役は涼紫央。「ベルばら」全国ツアーのオスカルの延長線上にあるりりしい二枚目役。涼にはこういった役がよく似合う。相手役のコンスタンサは優香りこ。これまであまり大きな役で見た印象はないが、プリンセスらしい品もあり、演技も確か。


 夢乃聖夏、紅ゆずる、美弥るりか、真風涼帆と星組が誇る若手有望株が大挙ワキを固めているのも楽しいみもの。なかでは盗賊団「黒い風」の頭目アントニオに扮した紅のかっこよさに思わず目を射貫かれた。これぞ宝塚の若手男役である。アントニオの手下フェルナンドの美弥るりかもミランダの恋人役という設定でもうけ役。心優しい盗賊をハツラツと演じた。


 夢乃とこれで退団が決まっている水瀬千秋とのカップルもさわやか。ミランダをイネスと間違って殺してしまうロドリゲスは真風。唯一、ダークな美味しい役を好演。着実にチャンスをものにするあたりは大物の予感。酒井氏も若手陣の采配を楽しんでいるようで、このあたりの活躍ぶりがこの舞台一番のみどころかも。

  ☆2009年10月13日(火)〜10月25日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演 宝塚歌劇星組 宝塚ミュージカル・プレイ 「コインブラ物語」