白羽ゆりさんロングインタビュー


――シェルブールの雨傘は、「夢々しいラブロマンス」かと思いきや、意外とリアルな大人の物語です。映画をみて、どのようにお感じになられましたか?
 もともと、映画のタイトルや曲は知っていて、私も夢々しい感じなのかなと思っていたのですが、初めてDVDをみたときに、先日の制作発表で謝先生もおっしゃっていたように、「やはり女性は現実的で男性はロマンチストなんだな」と、だから、こういう終わり方なんだと思ったんです。女性ならではの心の動きをどう演じていくか、難しい部分もきっとあるんじゃないかなと感じましたね。
――カトリーヌ・ドヌーヴさんの役を演じられるというのは、いかがですか?
 彼女が演じているジュヌヴィエーヴという役柄からは、ある意味、破壊的というか、怖くなるようなストレートさを感じます。その、有無をいわせないような強さ、ストレートさは大切にしたいです。
――ジュヌヴィエーヴが大人の女性へと変わっていくさまを、白羽さんがいったいどういう風に演じられるのか興味しんしんです。
 最初の場面が16歳っていうのは、ちょっとプレッシャーありますが(笑)。でも、見た感じの印象は、意外に大人っぽい雰囲気ですよね。16歳のストレートなジュヌヴィエーヴが、いろんなことを経験し、いろいろな考え方に触れるなかで、自分でものごとを判断して動かしていけるようになる、それが、たぶん大人になるっていうことなんでしょうけど。…それはもう、お稽古しながら、がんばるしかないなって思ってます(笑)。
――でも、ジュヌヴィエーヴという女性こそが、まさに「等身大」で心のままに生きている人なのかもしれないですよね。
 そうなんですよ。だから、あまり迷いすぎても、ブレちゃうから良くないかなと。それよりも、まずは曲。いただいた曲を歌ってみて、そこで何かを感じていきたいと思っています。
――初めて、生身の「男性」とお芝居をするのは、いかがですか?
 今までは女性のなかで演じてきましたので、もしかしたら無意識のうちに身についているクセみたいなものはあるかもしれないとは思います。でも、今回に関しては、役柄が宝塚の舞台の役柄と違って、柔らかさの中にも芯の強さのある女性ですから、「私は宝塚出身だから、こういう風に『しない』ように気をつけなくちゃ」とか「今までとは逆のやりかたでやっていかなきゃ」というような意識はあまりないですね。
――相手役との井上さんとのデュエットは、いかがでしょう?
 この間、制作発表で歌わせていただいたときには、やはり、女性と歌うのとは「ぜんぜん違うな」と思いました。
――どういうところが違うんですか?
 宝塚では、相手役さんも女性なので、私たち娘役の音域が、すごく高いところから始まるんですよ。でも、今回は相手の方が男性なので、いわゆるアルト、中音域からはじまって、最後も中音域で終わるのが今までと全然違います。また、そのハモりのバランスも、やっぱりどこか違うんですよね。でも、いっしょに歌わせていただいたときは、本当に心地いい声を持ってらっしゃる方だなあと惚れ惚れしてしまいました。
――そう、制作発表でデュエットされたのを聞かせていただいたんですけれど、本当にキレイでした!
 うわ〜、そんな風にいっていただけたら、がんばろう!って思ってしまいます。井上さんは、制作発表の場でのお話からもわかるように、やはり芸大で勉強されていますし、理論的なことにもすごく詳しい方なんです。私なんて、音楽学校で少しは勉強しましたけど、あとはもう感覚だけで来ましたから。理論的な部分もわかりつつ、プラス叙情的な面も、その両方がある方で、本当に素晴らしいなあと思います。だから、ご一緒させていただくのがとても楽しみなんですよ。同時に、私自身もうんと努力して、とにかくいいものにしたいという気持ちがとても強いです。
――課題は何でしょう?
 いっぱいあるんです、じつは(笑)。今までは一曲歌って、あとは台詞でつないでいく舞台が多かったんですよね。でも、物語の全編を歌でつないでいくのは初めてです。「エリザベート」は近いですけど、ちょっと違いますし。ですから、これまで台詞で表現してきたことを、歌の中で表現していくことを、まずはクリアしたいです。
 あとは、これまであまり中音域で歌ったことのなかったので、曲として成立するよう、流れを持って歌いたい。まあ、当たり前のことなんですけど。
――映画でも、ジュヌヴィエーヴのお母さんが、また素敵な女性です。そのお母さん役が、元宝塚トップスターの香寿たつきさんですね。
 香寿さんとは、現役中に一度だけご一緒させていただいたことがあるんです。元・男役さんだった香寿さんとの母子のバトルがどうなるのか、楽しみです。
――演出を担当されるのが、これまた宝塚の舞台でもおなじみ、謝先生です。
 謝先生には、現役中も振付でお世話になっているんですけど、いつもニーパット(膝当て)をつけて激しく踊ることが多かったんですよね。さすがに「シェルブールの雨傘」でニーパットっていうのは、ないと思うんですけど(笑)。
 先生が「シェルブールの雨傘」の映画の世界観をどういう風にミュージカルにされるんだろう、と。制作発表で「秘密兵器が待ってます」とおっしゃっていましたが、それはいったいどんなものだろうとか、私はその中でどういう風に出てくるんだろうといったことも、とても楽しみにしています。
――宝塚の男役のトップスターの方が卒業された後、ミュージカルで主演するのはよくありますが、娘役のトップがこうして主演という形でスポットを浴びるというのは、意外にないように思えますが…。
 本当にありがたいなあとも思いますし、もちろん、今まで主演をやらせていただいていたからといって、当たり前のように主演が来るとは、まったく思ってません。だからこそこれはいいチャンスだと思って、いろんなことを吸収していきたいと思います。前向きに、もーっと緊張しなきゃダメなんだよと、自分に喝を入れたい気分です(笑)。
 そういう意味では、井上さんとの共演にも本当に感謝しています。これまでもずっと舞台を客席から拝見して、素敵だなと思っていた方と、お稽古場で間近に接することができるなんて。井上さんが、日々どういうことを考えながら舞台に取り組んでいるのかといったことも、お話させていただけたら、役者としてのこれからの私には、すごく刺激になるんじゃないかなと思います。「うれしい」っていう気持ちと、「まだまだ自分には努力が必要なんだよ」っていう気持ちと、両方のところにいる感じですね。
――宝塚の娘役さんっていうのは、さきほども「相手役さんあっての娘役」とおっしゃっていたように、まず男役さんを立てるというスタンスが身についてらっしゃると思うのですが、それをこれからはちょっと変えなくちゃいけないのでは?
 自分だけが目立ちたいということではなくて、むしろ、自分がまだまだですので、もっともっとやって、ちょうどいいくらいだと思います。相手役が男性の方ですし、先日、一緒に歌わせていただいたときにも、そのエネルギーが、もう比べ物にならないくらい、すごいパワーを持ってらっしゃる方だと感じましたので、いい意味で、ぶつかっていけたらいいなと思いますね。
 もちろん、「引く部分」というか、バランスはすごく大切です。「私は、私はこうやりたいんです」と主張ばかりするのは、普通の人間のコミュニケーションとしてもありえないですから。けれども、ミュージカルというものに対しては、基本的なベースも、歌にしても、お芝居にしても、私はまだまだ初心者ですので、「ぶつかる」というか、エネルギッシュに向かっていきたいなと思います。
――夏に、実際にシェルブールにも行かれたとのことですが、どういう印象でしたか?
  南仏をまわって、最後にシェルブールに行きましたので、カラフルなプロヴァンズに比べて、モノトーンな港町という印象です。映画にも出てきたお店にも行けて、実際に資料やお写真までみせていただいたりしたのは、うれしかったですね。
 自分が出演するお芝居の舞台となった場所には、必ず行くようにしているんです。「ベルばら」のときはフランスに行きましたし、「エリザベート」のときはウィーンに、「コパカバーナ」のときもニューヨークに行きました。
 でもそれはあくまで、「行けた!」っていう自分のなかでのちょっとした秘密に過ぎないんです。あくまで他にやるべきことはたくさんありますから。ただ、シェルブールに行ってきた経験が、少しでも自分自身の舞台につながっていけばいいなと思いますね。