宝塚評 「外伝ベルサイユのばらーアンドレ編ー」新人公演



 宝塚歌劇支局より=花組公演、宝塚ロマン「外伝ベルサイユのばらアンドレ編ー」(植田紳爾氏脚本、演出)の新人公演(鈴木圭氏担当)がこのほど宝塚大劇場で上演された。今回はこの模様を中心に報告しよう。 「ベルばら」は、最近の宝塚の主流になってきた自然体の芝居ではない歌舞伎的で様式的な演技が必要。「外伝」とはいえ、今回もふんだんに誇張した演技やカリカチュアライズ(戯画化)したコミカルな場面があり、新人公演はかなり修練の場といってもいい。しかし、望海風斗(のぞみ・ふうと 2003年入団)さんを中心とした花組新人公演メンバーは、予想をはるかに上回る成果を見せた。


 アンドレ(本役・真飛聖さん)に扮した望海さんは、「太王四神記」のタムドクに続く2度目の新人公演の主演、これが最後となった。前回の時もその豊かな歌唱力で、新人離れした実力を見せつけたが、今回は前回以上の充実ぶり。本役の真飛さんもたいがい歌はうまいが、望海さんの歌も負けてはいない。豊かな低音から心地よいまでによく伸びる高音へと聞く者のハートにぐさりと入りこむ歌唱力は何ものにもかえがたい大きな武器だ。スターらしい雰囲気も少しずつ身に付いてきた。身長はそれほど高くないようだが、落ちついた演技で大きくみえる。こういう逸材は、もう一度くらい新人公演で主演をさせて、じっくり育ててほしいものだ。


 マリーズ(桜乃彩音さん)に扮した天咲千華(あまさき・ちはな 2006年入団)さんは新人公演初ヒロイン。宙組時代に中日劇場で上演されたこの作品に出演しており、唯一の経験者。その時はアンドレの幼少時代を演じていた。今回は本公演でマリーズの幼少時代を演じ、新人公演で成長したマリーズを演じた。メークがずいぶん垢抜けてきて、一段と愛らしく、宝塚本来の娘役らしくなってきた。博多弁なまり丸出しの田舎娘から、ブイエ将軍の養女になり華やかなドレスで登場する後半での変身ぶりも鮮やか。天咲さんも歌える強みがなにより。望海さんとの唯一のからみである再会シーンも、大芝居ながらも空回りせず、望海さんに助けられながら立派に務め上げた。


 アラン役(壮一帆そう・かずほ)さん)は、今公演での退団が決まっている嶺乃一真(みねの・かずま)さん。壮さんをお手本に粗野な雰囲気を出しながら一途な男気をストレートにだしたが、やや甘いか。


 オスカル役(音羽麗(あいね・はれい)さん)は、大河凛(たいが・りん 2007年)さん。本公演でもアンドレの幼少時代を演じて印象的だったが、このオスカルは大ヒットだった。今回のバージョンでは愛に苦悩するオスカルが強調されているため、もともとりりしいというよりやや女っぽい感じの作りだが、大河さんは立ち姿がとにかく美しく、ブロンドのかつらに軍服がよく似合い、セリフもしっかりしていてまさにマンガから抜け出てきたよう。歴代オスカルのなかでもかなり上位に入るのではないだろうか。歌がないのが残念だった。


 ブイエ将軍(星原美沙緒さん)の真瀬はるか(まなせ・はるか 2006年入団)さん、ジャルジェ将軍(箙かおるさん)の浦輝ひろと(うらき・ひろと 2003年入団)さんもさすが実力派の2人だけにいずれも甲乙つけがたい立派な仕事。マロングラッセ(邦なつきさん)の華月由真(はなづき・ゆま 2003年入団)さんはうまいがやや若さが目立ったか。一方、シモーヌ夏美ようさん)の芽吹幸奈(めぶき・ゆきな 2004年入団)さんはその自然体の演技が素晴らしかった。


 フェルゼン役(真野(まの)すがたさん)は鳳真由(おおとり・まゆ 2005年入団)さん。若いが気品が感じられ、オスカル相手のワンポイントの出番でしっかり場の雰囲気をつかんでいたのがよかった。ベルナール役(未涼亜希さん)は煌雅あさひ(こうが・あさひ 2004年入団)さん樹里咲穂さんと柚希礼音さんをたして割ったような豪快さで印象的だった。男役はあと衛兵隊の瀬戸かずや(せと・かずや 2004年入団)さん彩城レア(あやしろ・れあ 2004年入団)さんらが水を得た魚のようなはつらつさで目立った。

 あと娘役では白華れみ(しらはな・れみ 2003年入団)さんが伯爵夫人たちのリーダー格カロンヌ伯爵夫人役(高翔みず希(たかしょう・みずき)さん)を華やかに演じてスターの雰囲気で一頭抜きんでた。

 望海さんを筆頭に出演者のレベルの高さで、作品の弱さを凌駕した珍しい新人公演だった。