劇評 宝塚歌劇支局より「外伝ベルサイユのばらーアンドレ編ー」


 

 真飛聖(まとぶ・せい)さんを中心とした花組の宝塚ロマン「外伝ベルサイユのばらアンドレ編ー」(植田紳爾氏脚本、演出)とスパーリングショー「EXCITER!!」(藤井大介氏作、演出)が9月4日、宝塚大劇場で開幕した。

 花組公演 2009年9月4日(金)〜10月5日(月)宝塚大劇場 2009年10月23日(金)〜11月22日(日)東京宝塚劇場   

 「外伝ベルサイユのばらアンドレ編ー」は、昨年来全国ツアーで好評だったシリーズの本拠地凱旋公演。アンドレ編は2009年2月(2月1日(日)〜2月23日(月) 宙組公演「外伝 ベルサイユのばら」−アンドレ編−/「ダンシング・フォー・ユー」)に中日劇場で上演されたものにアレンジを加えての上演だ。
 
 外伝シリーズにあり中日版にもあったプロローグのレビュー場面をすべてカット。舞台はいきなりプロバンス幼年時代アンドレ大河凛(たいが・りん))とマリーズ(天咲千華(あまさき・ちはな)=彼女は前の宙組中日公演ではアンドレ幼年時代を演じていた)が登場。2人がリボンとドングリの実の入った袋を交換して将来の結婚を約して別れる場面から始まる。
 大河さんのソロがなかなか聴かせる。暗転とともに2人は一気に成長して真飛聖さんと桜乃彩音(さくらの・あやね)さんが同じ主題歌を歌い継ぐという趣向などおおまかな筋立てはほぼ中日版と同じ。場面変わってベルサイユのはずれにある居酒屋。行き倒れになったマリーズが運び込まれてくるという展開になる。

 この店はアンドレやオスカルらも常連でちょくちょく顔を見せているという設定なのだが、マリーズとアンドレはすれ違いでここでは顔をあわさない。中日版でもあったオスカルがやけ酒をあおってアンドレが介抱するというのがここでの見せ場。オスカル役は2度目となる愛音羽麗(あいね・はれい)さんが、もうどんぴしゃ。もともとフェアリータイプの男役でこのところ女役を演じる機会が多く、本人はあまり気乗りしていないみたいだが、オスカルは見事にはまっている。ブロンドの長い髪、マントに白い軍服というスタイルがことのほかよく似合う。りりしい部分とともに女性として恋にゆれるオスカルの心情も深く掘り下げて成長のあともみられた。今回はワキとはいうものの「ベルばら」といえばオスカル。舞台に1人という場面も多く、そこで輝いていたのはさすが。今回はアンドレとの有名な今宵一夜の場面も復活した。

 さて真飛さんのアンドレは、アラン役だった前回の公演とは全く違ったアプローチで臨み、一途にオスカルを思う気持ちの発露とマリーズに対する誠実な態度を、包容力たっぷりに熱演。歌唱の充実ぶりも加えて新たなアンドレ像を創り上げた。今回は外伝ということでアンドレの目が悪くなっていく経緯をかなりくわしく追っており、そのあたりの細かな演技もみどころだ。

 ブイエ将軍(星原美沙緒(ほしはら・みさお))に養女として迎えられたマリーズは、オスカルの出征命令を撤回するよう将軍に懇願にきたアンドレと二十数年ぶりに再会する。そして、アンドレの心がもう自分にはないと知ったマリーズは、将軍がマリーズのためなら命令を撤回してもいいと提言したのだがそれを拒絶、そのために2人は死んでしまうことになる。なんだかマリーズがずいぶん悪者にみえる作り方だ。

 桜乃彩音(さくらの・あやね)さんは「外伝ベルばら」では前回が亡霊役、今回は報われない愛に終わるマリーズとあまり役には恵まれなかったが、養女にもらわれてから華やかな衣装で登場する桜乃さんは、娘役の頂点といっていい美しさに輝いていた。

 アラン役の壮一帆(そう・かずほ)さんは、なんと開幕約1時間たってから登場。プロローグがないとこういうことになった。しかし目のみえなくなったアンドレとの男の友情の場面と銀橋のソロで一気に挽回。スケールの大きなアラン像を現出した。

 あと、マロン・グラッセ役の邦(くに)なつきさんはじめ専科陣の充実ぶりが作品を助け、若手ではフェルゼン役の真野(まの)すがたさんが貴族らしい品のよさをだし、衛兵隊士役の華形(はながた)ひかるさんと朝夏(あさか)まなとさんが存在感を示した。とはいえ役の数が少なく、多くはアンサンブル、その分ラストの革命の場面はさすがの迫力だった。

 「外伝」でもありショーとの2本立てということでいつものような豪華さはなく、なんとなくチープな「ベルばら」という感じで、物語にもやや無理がある。せっかくの宝塚の財産なのだから、もうちょっと大切に扱ってほしいという気がした。

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