劇評:「外伝 ベルサイユのばら アンドレ編」

 フランス革命を目前に控えたパリ・ベルサイユ。男装の麗人オスカルにその人生をささげてきたアンドレ・グランディエ(真飛聖さん)は、平民出身だったが早くに両親を亡くし、オスカルのジャルジェ家に引き取られオスカルの護衛役として過ごしていた。
 アンドレの生まれ故郷プロバンスには、8歳の時に離ればなれになった幼なじみマリーズ(桜乃彩音さん)がいた。「大きくなったら結婚しようね」と約束した2人。マリーズは大人になってもその約束を忘れることができず、とうとう彼を探す旅に出る。
 旅の途中、行き倒れになったところをある酒場の女主人に助けられ、やがてそこで働くようになった。そんなある日、店に出入りするブイエ将軍(星原美沙緒さん)が彼女を養女にしたいと、自分の屋敷に引き取る。すっかり貴族のレディーになったマリーズと再会したアンドレ。マリーズは胸に秘めた思いをぶつけるが、アンドレの心の中にはオスカルしかいなかった…。ショー「EXCITER!!」と2本立てで宝塚大劇場 2009年10月5日まで。

プレシャス!宝塚 日刊スポーツ記者・土谷美樹氏

 宝塚「ベルサイユのばら」で激しい戦闘の末、銃弾に倒れるアンドレ真飛聖さん)。迫真の演技を披露した(プロフィール)
 花組トップスター真飛聖さんが“究極の男役像”アンドレにふんした「外伝 ベルサイユのばら」が幕を開けた。再演、続演を繰り返す名作で29人目のアンドレとなった真飛さんは、幼なじみマリーズ(桜乃彩音さん)に思いを寄せられながらも、オスカルへの一途な愛を貫く姿が印象的だ。花組の頂点に立って約1年半。トップスターとして脂が乗ってきたこの時期にアンドレを演じることに「右も左も分かってきたこの時期に、タカラヅカの財産である作品で、しかも本拠地で主演できることに運命を感じる」とノリノリだ。


 トップスターとして1年半を歩んできた自信が、真飛アンドレには漂っていた。幼なじみから告白されても迷うことなくオスカルを守り抜き、クライマックス、民衆を引き連れての戦闘シーンは鬼気迫るものがある。

 「オスカルを思って思って、最後は彼女を守って天国に行く。第三者で見てた時はアンドレってかわいそうだと思っていたけれど、自分がやってみてこういういちずな生き方って幸せで格好いいなあって改めて思っています」

 自身、これが3度目の「ベルばら」だ。研7だった01年、新人公演で主役オスカルを演じ、本公演では“荒くれ男”アランを熱演。昨年の全国ツアーでは、そのアランを7年ぶりに演じ話題となった。“ハマリ役”だったアランを演じながら、実はアンドレにどんどんひかれていく自分がいたという。

 「アランを演じながら、アンドレってやっぱり男役としては魅力的だな〜って思いながらやってたんです、実は(笑)。アランは感情をあらわにすることが多いので演じやすかったんですが、アンドレをやって思うことは一番自分が素直にやれる」。


 「ベルばら」とは不思議な縁もある。学生時代、友人が「ベルばら」を見てタカラヅカにはまり、真飛さんに勧めたことで彼女はタカラヅカを目指そうと決意した。「私の人生を変えた作品。しかも宝塚に入っても『ベルばら』をできない人だっているのに私はこれで3回目。タカラヅカの財産で、それだけの重みもある。トップになって右も左も分からない状態だったらアップアップだっただろうけれど、今1年半たっていろんなモノが見えてきた状態で主演としてできる…。すっごい縁を感じますよね」。しみじみ語った。


 それにしても今年は話題作がめじろ押しだ。お正月公演は韓流スター、ペ・ヨンジュン主演の「太王四神記」でヨン様と同じタムドクを熱演。7月にはミュージカル大作「ME AND MY GIRL」で究極のシンデレラボーイを演じ、このアンドレをはさんで年末には映画やテレビドラマでもヒットした「相棒」で杉下右京を演じることが決まっている。


 「今年は作品にも恵まれて、年末まで本当に忙しい1年。私だけじゃなくて花組がそれだけ充実してるって感じられるのが何よりもうれしい」。

 最近になって、ようやく主演男役としてのスタンスが分かってきたという。「最初は“こうあるべき”“こうありたい”って欲ばっかりが出ちゃって疲れてしまった。最近は“型にはまるとおもしろくない”って思えるようになって自分の道が見えてきたんです」。トップとして充実期に入った真飛さんのアンドレ像には風格が漂っている。