マスコミの政治部記者も総入れ替えを

余録:民主党新体制
 中国は晋の時代、楽広という人が病気になった親友にわけをたずねた。彼は「この前君に勧められた酒の杯に蛇が見えて気持ち悪くなった」という。楽広はその部屋に蛇を描いた弓がかかっているのを思い出し、親友を再び招いて蛇の正体を説明した▲わけを知った親友はすぐ全快したというのが「杯中蛇影(はいちゅうのだえい)」の故事である。「疑心暗鬼」「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と同じ意味だが、後2者に比べても大分そそっかしい話だ。鳩山由紀夫民主党代表にすれば、弓を蛇と見誤っているのは楽広の友だけでないといいたいらしい▲総選挙圧勝で影響力をさらに強めた小沢一郎代表代行の党幹事長起用で、新政権の「二重権力構造」を懸念する声が聞こえてくる。鳩山代表は「幹事長は党務、政府の政策にはかかわらない」と、二重権力になりようがないことを強調した▲だが懸念の声をあげる人が杯の中に見た不吉な影とは、前にも似た光景を見たデジャブ(既視感)だったに違いない。細川連立政権で新生党代表幹事だった小沢氏が、与党代表者会議を通じ政権を主導しようとした記憶は誰しも頭をよぎる▲そもそも過去の自民党政権下の政府と与党による政策調整を批判し、「内閣の下の政策決定の一元化」を掲げた民主党だ。万一にも小沢氏の取り仕切る与党が政府を振り回すような事態になれば、政権交代に期待した国民もさすがに鼻白む▲とはいえまだ政権が発足もしていない段階で「二重権力」呼ばわりは、杯の中の影ばかり見て壁の弓を見逃すことになろう。要はその政策決定の仕組みから蛇や鬼の幻影の巣くう余地をなくし、政治と責任を一直線で結ぶことだ。