衆議院議員選挙を楽しもう


  写真=衆議院解散  



毎日新聞社説(2009年7月22日)

衆院解散 総選挙へ=政権交代が最大の焦点だ

 衆院が2009年7月21日解散された。衆院選は8月18日に公示され、8月30日に投開票される。民主党を中心とする政権に交代させるのか、それでも今の自民・公明政権が続いた方がいいと考えるのか。有権者の選択が最大の焦点となる。戦後政治の大きな転換点となる選挙戦が事実上始まった。

 「昨秋解散しておけばよかった」と麻生太郎首相は後悔しているはずだ。毎日新聞世論調査(2009年7月18日・19日)によると麻生内閣の支持率は17%で前月より2ポイント下落。自民党の支持率は18%で36%の民主党に大きく引き離されている。有権者の間には「一度政権を交代させてみたら」というチェンジ志向が確実に広がっていると見ないわけにはいかない。


 ◇結束にほど遠い自民

 衆院本会議に先立ち開かれた自民党の両院議員懇談会で麻生首相は「私の発言や『ぶれた』と言われる言葉が国民に政治への不安や不信を与え、自民党の支持率低下につながったと深く反省している」と語り、記者会見でも自身の「不用意な発言」や自民党の結束の乱れを挙げて国民にも陳謝した。しかし党内は結束とはほど遠い状態で、首相が陳謝しないと収まらないところに今の追い詰められた姿が表れている。

 圧勝した2005年の衆院選から4年。なぜ、こんな事態に陥ったのか。

 郵政民営化のみを争点に掲げ、造反者の選挙区には「刺客」候補を送って注目された前回は、報道のあり方を含め確かに問題は多かった。ただ、反対を押しのけて進もうとする当時の小泉純一郎首相に多くの有権者が「政治が変わるのでは」と期待したのは事実だろう。

 ところが政治はさして変わらなかった。小泉氏は格差問題など「小泉改革の影」が表面化する中で改革の後始末をしないまま退陣。続く安倍晋三元首相は郵政造反議員を続々と復党させた。

 迷走はここに始まる。小泉改革路線を進めるのか、転換するのか。自民党は今に至るまできちんと総括してこなかった。そして国民に信を問うことなく次々と首相が交代し、場当たり的な対応をしてきたことが、現在の党内混乱の要因でもある。

 安倍氏憲法改正路線に軸足を置いた。だが、その間に国民の暮らしに直結する「消えた年金」問題が深刻さを増して、07年7月の参院選自民党は惨敗。その後、体調不良で突如辞任した。福田康夫前首相も1年で政権を投げ出した。そして、経済危機を理由に解散から逃げてきた麻生首相が今、低支持率にあえいでいる。漢字の誤読もあって「首相の資質」まで問われる有り様だ。

 だが、「人気がありそうだ」と首相を交代させ、その後は選んだ責任を忘れ支えようとしない自民党そのものに多くの国民は「本当に政権担当能力があるのか」と疑問を感じ始めているのではないか。今回の「麻生降ろし」に国民の支持が広がらなかったのはそのためだと思われる。


 ◇民主に問われるもの

 一方の民主党政権担当能力鳩山由紀夫代表の首相候補としての資質が当然問われることになる。

 「政治主導」をお題目に終わらせず、強固な官僚組織を変えられるのか。税金の無駄遣いをどこまで削れるか。子ども手当や高速道路無料化、年金制度の抜本改革は実現するのか。消費税率は4年間引き上げないというが、財源の手当てはできるのか。党としての統一感に乏しい安全保障政策はどうするのか。それらの疑問に具体的に応えるのがマニフェストだ。鳩山氏の政治資金問題もさらなる説明が必要となる。

 自民、公明両党はこれまでの実績を強調するだろう。だが、消費税率引き上げに関し、どこまで具体的に書き込むのかなどの課題が残る。自民党には反麻生勢力が独自のマニフェストを作る動きがあるが、これは政権公約とは言わないと重ねて指摘しておく。共産党社民党国民新党新党日本、今後できるかもしれない新党も含め、大切なのはこの国をどんな形にするのかだ。未来に向けたビジョンを示してもらいたい。有権者の目は一段と厳しくなっている。何よりごまかさず、正々堂々と政策論争を戦わせることだ。それがむしろ支持を集める時代なのだ。

 自民党は1993年〜1994年の細川護熙羽田孜内閣時代に一度野党に転落した。しかし、引き金になったのは自民党の分裂であり、1993年7月の衆院選は非自民各党が「細川氏を首相に担ぐ連立政権を目指す」と有権者に公約して選挙を戦ったわけではない。つまり「55年体制」ができて以降、私たちは衆院選有権者が投票によって選ぶという形では、政権与党と首相を交代させた経験がないのだ。

 そんな選択に初めてなるのかどうか。異例の長い選挙戦となるが、いずれにしても政治の行く道を決めるのは有権者=主権者だ。こんなにわくわくする選挙はないではないか。

 私たちは、歴史にいろいろなことを学ぶ。マスコミが大騒ぎした「小泉劇場選挙」が残したものを4年が経過して「検証」できる。投票行動に是も非もない時代に流され情報に惑わされるのが「大衆」である。どんなに重税・低福祉でもお年寄りが自民党に票を入れるのも、イラクにも派兵、インド洋にも自衛隊を派遣する公明党に平和を基本とする創価学会員が投票する。労働組合の党といわれながらたぶん半分の支持も得ていない民主党。その大衆の投票行動は千差万別である。でも、投票に行かなければ、矛盾だらけの政治に甘んじなければならない。いまの現状がよければ与党に、こんな社会を変えたいなら野党に、中間がよければそういう候補者に。選挙は楽しまなければ損である。それが今回の衆議院議員選挙だ。大衆の皆さん さあ〜投票に行こう。


北海道新聞社説(2009年7月22日)

 衆院解散 総選挙へ 政権の「旗印」を知りたい

 衆院が解散された。 総選挙は2009年8月18日公示、8月30日投開票の日程で行われる。 最大の焦点は政権交代だ。 日本の政治を長年主導してきた自民党が政権を維持するか、民主党をはじめとする野党が奪い取るか。 深刻な行き詰まりを見せる社会の再生に向け、国民が一票を通じて主体的に選び取る。

 その政権選択の機会が訪れた。 投票日までは40日間ある。 各党はマニフェスト政権公約)で旗印とすべき新しい政治の方向性と具体的な政策を示してほしい。  明日をだれに託すのか。有権者はじっくりと見極めよう。


 自ら危機招いた自民

 これほど待たれた総選挙はあっただろうか。「郵政選挙」以来、4年ぶりというだけではない。暮らしと国の将来像が見えない。自公両党による「政権たらい回し」の下で、そんな閉塞(へいそく)感が強まっている。 麻生太郎首相は解散後の記者会見で「経済対策を最優先し、景気は底を打った」と自信を見せた。 昨年9月の就任以来、世界的な経済危機への対応に専念してきたのは事実だ。だが、その中身は旧来型の「ばらまき」の域を出ていない。
外需頼みの産業構造転換など新たな発想と長期的視点を欠いては、先行きの不安は解消されようがない。 選挙で問われるべきは小泉純一郎政権以降、安倍晋三福田康夫両氏を経て麻生氏まで4代の政権実績だ。柱は構造改革路線の功罪である。 郵政民営化を唯一の争点にした前回選挙の圧勝で路線に弾みがついた。「官から民へ」の掛け声とともに社会の安全網が縮小し、雇用や社会保障にしわ寄せが集中した。格差が広がり、地方の疲弊も深まった。
 成果がなかったわけではない。だが、未曾有の不況であらわになった国民生活の危機は改革のひずみがもたらしたと言っていいだろう。 こうした事態に有効な処方せんを提示することができない政権党の衰弱は隠しようがない。安倍、福田両氏と2代続いた国政投げ出しで政権担当能力に疑問符がついた。「政策力」の低下も明らかだ。

 自民党は結党以来半世紀のおりがたまり、官依存体質のまま時代に適合できない惰性に陥った。それが4年前の追い風を逆風に変えている。過去の成功体験にとらわれず、一から出直しを図ることだ。今回の選挙では、その決意と刷新の構想力を示さねばならない。党の結束も試される。反麻生勢力が独自の公約を掲げて分裂選挙に突入するようであれば、党の存在意義さえ問われる事態になるだろう。

 
 民主の描く国の姿は

 民主党が期待感を集め、上り調子にあるのは確かだ。各種世論調査では政党支持率比例代表の投票先などいずれも自民党を上回る。これは与党批判の受け皿という側面が大きいと見るべきだ。民主党政権で政治はどう変わるか。それを明確にできなければ、世論の支持も「風」以上にはなりえまい。 「無駄遣い一掃」や「官僚政治の打破」をスローガンに掲げ、目玉政策として子ども手当、農家戸別所得補償制度などを打ち出した。
 自民党時代の「政と官」の関係を改め、税金の使い方を大胆に見直していく。その狙いはうかがえる。だが問題は、個別の政策がどんな「国のかたち」に結びつくのか体系だった全体像が見えないことだ。

 民主党が目指すのは新自由主義の修正か、北欧流の社民主義か。それとも日本流「第三の道」を模索するのか。鳩山由紀夫代表が唱える「友愛社会」の具体的な姿を知りたい。与党は「政権交代だけが目的だ」と政権担当能力に攻撃の的を絞る。統治システムの改革、他の野党との連携など現実の政権運営のあり方も語らなければならない。


 マニフェスト吟味を

 「今後の生活が貧しくなる」57%。「1カ月以内にいらいらしたことがある」48%。文部科学省所管の統計数理研究所が発表した「国民性調査」で、日本社会に不安といら立ちを覚える人が多いことが裏付けられた。

 世界2位の経済大国でありながら、職と住まいを失った人たちの「派遣村」が全国各地に生まれ、経済的理由で進学や修学旅行さえあきらめざるを得ない子供らが増えている。 こうした現状を抜本的に改善していく。そのための意思表明の場が総選挙である。

 今回は、1994年の法改正で衆院選挙に小選挙区制が導入されてから5回目となる。「首相候補」「政権枠組み」「政策」の三位一体で有権者が政権を選ぶ環境が、いよいよ本格的に整ったと言えよう。 民意を吹き込むことで政権の正統性を確立し、政治の漂流に歯止めをかける。その好機でもある。 景気や雇用の対策、医療制度の再生、地方分権少子高齢化対策など争点には事欠かない。

 有権者は判断材料としてマニフェストを自ら吟味していきたい。