TAKARAZUKA SKY STAGE 090714


 19:30〜 凍てついた明日−ボニー&クライドとの邂逅−('08年雪組・バウ・千秋楽 ボニー:大月さゆ版) 20世紀初頭のアメリカに実在した男女2人組のギャング、クライドとボニーの物語をミュージカル化。'08年雪組/バウ・千秋楽(2008年6月22日(日))/出演:凰稀かなめ(おうき・かなめ 2000年入団第86期生)さん 、大月さゆ(おおつき・さゆ 2003年入団第89期生)さん。 他(150分)

 2008年の「バウ・ワークショップ」は宝塚バウホール開場30周年を記念して開場当初のコンセプトに立ち返り、若手出演者を中心にバウホールで生まれた名作を各組2グループにより公演。雪組は、1998年に香寿たつき(こうじゅ・たつき)さん主演で上演された『凍てついた明日』。この作品は、20世紀初頭のアメリカに実在した男女2人組みのギャング、ボニー&クライドの物語のフィクションの部分を膨らませ、宝塚のオリジナル作品としてミュージカル化したもの。両グループ共に凰稀かなめさんが主演を務め、ボニー役他が役替りで演じられ、今回はボニー役を大月さゆさんが演じたバージョンの千秋楽。脚本・演出は荻田浩一氏。 1930年、大恐慌の中、ダラスでは強盗が横行。クライド(凰稀さん)もそんな悪党の一人だった。彼は弟分ジェレミー(真那春人(まな・はると 男役 第92期生)さん)を訪ねて行ったカフェで、ボニー(大月さん)と出会う。刑務所仲間・レイモンド(沙央くらまさん)が持ちかけた仕事で警察に追われる身となったクライドを、幼馴染で今は保安官助手となったテッド(緒月遠麻さん)が改心させようと説得するが、2人の隔たりは大きかった。逃亡の最中、クライドとボニーは再会する…。

☆2008年6月12日(木)〜6月22日(日) 雪組宝塚バウホール公演


宝塚zoom in! 2008.5.31」(取材・文:榊原和子氏/写真:小林勝彦氏)

2つのバージョンで主演をつとめる凰稀かなめさんに、稽古場の様子と心境を聞いた。


ワークショップという形なのに1人で2バージョン主演というのはすごいことですね。

 初めて聞いたときはびっくりしました。他の組はお2人でされていますから、両方とも自分というのは、やはり「えっ?どうしよう」という思いがありました。有名な作品ということもあり、いろいろプレッシャーもありましたが、稽古が始まってからは楽しんでいます。2つのバージョンをやらせていただけるのも幸せです。周りの役の人が変わればこちらの芝居も変わっていきますから。


荻田先生とはたくさん話をされたんですか?

 稽古前、ポスター撮りのときにイメージを話してくださって、稽古入りしてからは、まだあまり具体的な指示などはうかがっていません。全部が見えてきたときに、きっといろいろ指摘されるのではないかと覚悟しています(笑)。


初演はご覧になってないそうですね。

 映画もポスター撮りの前にビデオでさらっと観ただけなんです。先入観をもちたくないし、初演を意識しないでやりたいなと思いましたから。荻田先生もかなり書き直されているので、全然別物だと思っていただいたほうがいいと思います。


2バージョンの稽古を同時にしているのですか?  

まずAバージョンで立ち稽古をして、Bバージョンはそれをもとにやるというふうに進めています。倍の時間がかかりますね。でも私より皆のほうが大変ではないかと思っています。とくに大月さゆさんと愛原実花(あいはら・みか)さんは、ボニーとアニスの2役を2バージョンで役替わりするので、かなり大変そうです。


大月さんと愛原さんではどんな違いが見えそうですか?

 まず芝居のしかたが全然違いますね。大月さんは私の2006年のワークショップで相手役をしていますし、昨年の『シルバー・ローズ・クロニクル』でも兄妹役でしたから、どういうふうに芝居するかがなんとなくわかります。こういったらこう出てくるというのが見えるから、私はその逆をついていくとか、いろいろなことができるのが面白いですね。
 愛原さんは『シルバー・ローズ〜』で少し絡んだのですが、まだよくわからない分、新鮮な感じです。芝居の感性がすごく良いです。ボニーという役がもっと入ったら、うまくその部分が生きるんじゃないかと思います。


同期の緒月遠麻(おづき・とおま 2000年入団第86期生)さんが、クライドを追う幼なじみの保安官テッドですが、そこも物語的には見どころの1つですね。

 クライドとテッドには、男同士の通い合うものがあるので、そこの部分に今の私と緒月さんだから、また同期だからこその奥深さが出るといいなと思っているんです。全体的に気持ちの奥深いところまで掘り下げて、根本にあるものを大切にしてほしいと、荻田先生には言われました。


それはなかなか大変そうですね。

 でもいろいろ掘り下げていった一番下にあるものは、結構単純なものだったりするんですよね。そこをちゃんと見つけていきたいです。


台本は初演とは変わっているということですが?

 かなり変わっています。どこがどうとは具体的に言いにくいんですが、今回はお芝居がメインなんです。フィナーレ・ナンバーもなくて、ストレート・プレイっぽい作りです。出てくる人たちの芝居が大事だし、全員が大切な役ということは言えると思います。


凰稀さんがとくに苦労してるところはありますか?  

 恋人のアニスとのところが、今はちょっと難しいですね。なぜ愛しているのか、愛しているのになぜこんなことを言うのだろうかとか。宝塚ではめったにない関係性というかニュアンスだなと思います。
 ボニーといるときとアニスといるときで、雰囲気も変えないといけないし、変わるべきだと思います。意外と私は恋愛物をやったことがないので新鮮ですね。アニスとはドロドロにやりたいし、ボニーとはドライな風が吹いているけどなぜか呼吸が合ってしまう。そういうところをうまく出せたらと思っています。


ボニーとはなぜ一緒にいるのか、自分のなかで理由づけできないといけませんね?

 そうなんです。結局似たもの同士だから合う部分があって一緒にいたのかな?とか、最初こじれたりするのに一緒にいる理由はなんだろう?とか、いろいろ考えるんですが、それはきっと本物のクライドとボニー、その本人たちにしかわからないことなんですよね。
 だからかえって想像でいくらでも作っていけるし、作っていいと荻田先生からも言われたので、大月や愛原とも話し合いながら、それぞれの関係性を作っていこうと思っているんです。


歌やダンスはあるのですか?  

 前回と同じ劇中のダンスがありますし、曲も高橋城先生の素敵な曲をそのまま使っています。でも歌う人は変わっていて、たとえば安蘭けいさんが演じられたジェレミーの名曲「ブルース・レクイエム」は、今回のジェレミーは歌っていないんです。
 初演は曲も当て書きというか、歌うかたに合わせて書かれたものが多かったのですが、今回は人が変わっているのでそのまま歌ってないものも多いです。私は香寿たつきさんの歌われた曲は一応全部歌います。


男役としてはスーツの着こなしで見せる部分もありそうですね。

 でもあまりビシッと立ちたくないですね。崩して、でもだらしなくみえないような立ち方で立つ、それが難しいんですけど。


AバージョンとBバージョンを違う感じの作品にしたいですか?  

そうしたいのですが、結果としてあまり違わなかったとしても、それはそれでいいと思っています。でも絶対に日によっても違うでしょうし、どんどん変化していく部分もあるでしょうし。


確かに役替わりだけでなく、毎日の変化も楽しみですね。

 ぜひ2つのバージョンを観ていただいて、新しい『凍てついた明日』の世界に浸っていただけたらと思っています。