悲惨なゲーム 「勇気」が足りない

産経新聞

 景気よく行うはずだった試合後のW杯出場報告セレモニーを前に、多くの観客が家路に向かい始めた。無理もない。試合開始早々にオウンゴールで先制しながら、持ち前の運動量を発揮できずに公式戦5試合ぶりのドロー。ベンチ入りできなかった岡田監督は「きょうは選手を生かしてやることができなかった。本当に申し訳ない」とスタンドに頭を下げた。
 言い訳の材料はたくさんある。故障者続出に移動の疲れ。中沢がペナルティーエリア外で犯したはずのファウルでカタールにPKが与えられるなど、不可解な判定もあった。何よりW杯切符を手にしたことで、勝てばプレーオフ進出の可能性を残す相手とは白星への執念に差があった。

 だが、大半は試合前には浮き彫りになっていた問題だ。それを承知で岡田監督が世界4強への「新たなスタート」と位置付けた試合だった。「久しぶりに生き生きとしていない。ミスをしたくない、そこそこの結果を残したいと考え、チャレンジする気持ちが足りない」。選手を入れ替えても結果と内容に期待していた指揮官には、思わぬ誤算だっただろう。

 中沢は「チームとしてバラバラだった」、闘莉王も「1回くらい叩かれた方がいい」と首を横に振った。本気の覚悟が備わっていないなら、「W杯ベスト4」など軽々しく口にすべきでない。 (奥村信哉)


試合後、闘莉王のコメント
 納得いかない。悔しい気持ちでいっぱいです。前回(のウズベキスタン戦)はうちのサッカーができなくて多少押し込まれた。今日は修正ができるかと思ったが、できなかったので悔しい気持ちでいっぱいです。勝つという気持ちは忘れていない。今日も勝ちたかったが思うようにいかなかった。これから課題を修正していきたい。強くなるために何をすべきか、1人1人が責任を持ってやるしかない。日本代表が怖がられる存在にならないといけない。準備をして強くなっている姿を見せたい。

試合後、中村俊のコメント
 何人か新しい選手が入って、もうちょっと、僕も含めて動けるかなと思ったが。前半の早くに点が入ってからペースをつかもうとしすぎたのかもしれない。もうちょっと勢いが必要だった。ホームだし、勝ちたい気持ちは強かったが、こういう結果になって残念。もっと仲間が何を、先を見て動けるか。今日はそのへんがうまくいかなくて、その分無駄走りが増えてしまった。(オーストラリア戦は)無駄な試合は1試合もないので。僕は行けないかもしれないので、(ほかの選手には)頑張ってほしいです。


スポーツナビより。
カタール戦後 岡田監督会見1 2010FIFAワールドカップ・アジア最終予選 2009年6月10日(水)

■こういう試合を今後にどう生かすかが一番大切

 ホームに帰って来て、いい試合をしたいと思っていましたが、選手1人1人は頑張ってくれたものの、チームとして生かしてあげられませんでした。非常に悔しい思いでいっぱいです。やはり、こういう試合を今後にどう生かすかが一番大切なことだと思います。この悔しさを忘れずに、まずは次のオーストラリア戦、向こうはいいメンバーで来てくれるみたいなので、アウエーですが、ぜひいい試合をして勝ちにいきたいと思います。

――この試合を次に生かす具体的なアイデアはあるのか? 

 ポジションを変更してやっていこうと。次の試合に関してはそう思っています。それと出場を決めたあとのモチベーションの上げ方、そういうものをもう少し考えていきたいです。

――ハーフタイムに選手たちに何を伝えたか

 戦術的なことをいくつか言おうと思ったのですが、選手が久しぶりに生き生きしていないというか、サッカーを楽しんでいないと感じました。そうではないんじゃないかということで、精神的なことを言いました。あとはシステムを2トップに変えて、真ん中を2枚にすることを指示しました。

――前半は動きの悪い選手もいたが、ハーフタイムで交代がなかった。まったく代えるつもりはなかったのか?

 実はメンバー交代をするつもりで、選手を呼んでいたんですが、話し終えて、自分たちでどこまで変えられるのかチャレンジさせようということにしました。

――カタール代表のメツ監督は、日本はテクニックはあるが、相手が仕掛けてくると日本は解決方法がないと言っていた。残り1年、試合の中で解決する力を養うにはどうすればよいか 

 メツさんがどうおっしゃろうと、われわれが今までできている試合はたくさんあって、今日ができなかったと。その1回ができなかったことで、すべてを覆すことは考えていません。メンバーの問題も当然ありますが、今日の相手なら今回のメンバーでも十分やらなければいけないと思っていましたので、そういう意味でできなかったことに関しては、解決していかなければと思っています。ただ、われわれは十分にそういう試合ができる力を持っているわけで、今日はそれを出させてやれなかっただけです。一回負けたからといって、ガタガタするつもりはまったくないです。いや、負けていないか(笑)。


試合後 カタール代表メツ監督会見 2010FIFAワールドカップ・アジア最終予選 2009年6月10日(水)

■ビッグな日本代表を脅かした

 われわれのチームは大変エクセレントで、優秀な試合をした。このチームの“いい顔”を見せてくれたと思うし、チャンスも非常に多かったと思う。日本もそうかもしれないが、われわれもあれだけのゴールチャンスがあったのだから、日本に勝っていてもよかった。
 わたしはこのチームを大変誇りに思う。まだ若いし、いい側面をこの試合で見せてくれた。つまり、プレーの質でも、モチベーションでも、それからメンタルでも、今日のチームに対して誇りに思う。まだまだ若いチームなので、今後が楽しみだし、(自国で開催される)アジアカップ、そして次のワールドカップ(W杯)に向けて期待が持てる。
 そして何より、ビッグな日本代表を脅かすことができた。日本はW杯に4回続けて出場するチーム。これだけの観客、そして日本の選手に対して、われわれは大いに彼らの動揺を誘うことができた。

――同点に追いついてからトーンダウンした。同点になってからのプランと、実際のところはどうだったのか?

 試合がスタートしてすぐにゴールを決められてしまった。カタールは若いチームなので、その意味で0−1からスタートするのは大変つらいものがあった。それでも、なかなかいい面を見せていたし、しっかりとオフェンシブなサッカーもできていた。日本に対しても、われわれの心臓部である中盤がしっかりとプレスをかけることができていた。それでも経験が足りない部分もあったので、こういった神経質な試合ではとてもきつい部分もあった。18〜20歳の選手ばかりだし、昨年の五輪チームと同じ選手たちが今のA代表でもある。そんなチームが日本のフル代表としっかり戦えた。その意味で、今後も大いに期待できる。

■今のままでは日本のW杯4強は難しい

――チームも進歩しているということだが、監督のカタール代表での冒険は今後も続くのか?

 これから1年半後、カタールアジアカップがあるので、それに向けてしっかりと戦っていきたいと思う。このチームは、すでにサウジアラビアイラクと戦い、さらにオーストラリアや日本と戦うことで、しっかりとその力を見せている。あと1年半もあれば、このカタール代表は、非常にいい形で物事が動いてくれると思う。一緒に仕事をしているスタッフも、カタールの生活も素晴らしい。わたしとしても、自分のベストを出して、今度のアジアカップにはポジティブな結果が出せると思っている。

――日本はW杯ベスト4を目指そうとしているが、その実力があると考えるか

 日本は技術的には高い資質を持っていると思った。だが、世界を相手にしていく場合には、まだまだ改良しなければならない点がある。つまり、今のレベルに満足してはいけないし、アスレチックな部分でもっと鍛える必要がある。日本はプレスをかけられたとき、そして相手に仕掛けられたときに対抗できない。また、試合をどの方向に持っていくのかを考える場合、相手に混乱させられたり、プレスをかけられたりすると、そこで自分たちの道を見失う部分がある。つまり、そこで解決策を変えていく必要がある。仕掛けられても、プレスをかけられても、しっかりと自分たちのゲームをどっちの方向に持っていくべきか、それができるように考えていく必要がある。
 W杯に参戦するには、そのあたりをしっかり練習する必要がある。日本はサッカー大国だが、そういった部分を改善していかなければ、大変残念だが、今のままで日本がW杯4強に入るのは難しいものがあると思う。とはいえ、わたしの見方が間違ってくれればいいのだが。どうか日本にも幸運があるようにと祈っている。


岡田監督会見2

■上から見ていて苦しかった

――先制点を取って自分たちが試合をコントロールすべき試合だった。パスサッカーをやるにしても、90分ずっとやり続けることはできない。ゲームをコントロールする意識付けというものはあるのか?
 
 例えばドリブルでリズムを作るとかですか? われわれが今、やろうとしているのは、今、日本にいる選手のタイプ、素質、そういうものを考えた上で、こういうサッカーをすることが一番いいだろうということでやっています。先ほどから言っていますように、こういうことも起こり得るだろうと。これがワールドカップ(W杯)なら引き分けでいいかもしれない。もう少し守りを固めてもいいかもしれない。でも、今はチャレンジのときなので、選手には「とにかく怖がらずに行け」とか、「ここで試合をコントロールして1−0で終わるようなことをしても仕方ない」とハーフタイムに言いました。このゲームをコントロールして、そこそこの(結果で)終わるよりも、やってやられる方が、僕はこのチームにとって必要なことだと考えています。このチームというよりも、自分自身に必要なことだと思うようにしています。

――今日の試合はどういうコンセプトで臨もうとしていたのか。それから、試合展開が難しくなってしまった要因をどう考えるか

 今までいろいろな状況の中でも、それを言い訳にせずに戦えるチームになろうということで、練習ができない、大変疲れている、そういう中でもやってきました。疲れている状況は相手とある程度一緒だと。ひょっとしたら、問題は(W杯)出場権を得たことかもしれない。そういう状況の中でもチームとして戦える姿を見せよう、と言いました。残念ながら、それができなかった。やらせてやれなかったです。
(前半については)選手は暑かったと言っていましたから、ともかく動けなかったですね。それと選手1人1人は頑張っているんですけど、中にはミスをしたくない、そこそこ結果を残したいとか、チャレンジする気持ちが足りなかったり。あとはボールを受けに行かないとか、逆にチャレンジした人がミスになったり。やはり、うちの場合は全員でやるサッカーなので、そういうバランスというかコンビネーションが欠けていると、厳しくなると思っています。

――監督がベンチに入れなかったことで影響はあったのか。また、(スタジアムの)上から試合を見ていて、直接指示できないことへのもどかしさは感じていたか?
 
 わたしも初めての経験だったんですけど、大して影響はないと思っていました。ただ、これほど自分の意思を伝えられないものなのかと。試合前から、ベンチにいるときよりも緊張するところがあって、ベンチだったら開き直っていますからいいんですけど、上から見ているとこんなに苦しいものなのかと。そういう感じを受けました。いろいろなこと、例えば足が止まっている、ただ「動いて」と言っても伝わらないわけで、それを伝える表現というのはその場、その場で違うんですが、そういうものが伝えられないのは、結構苦しいものだな、というのを感じていました。