瀬奈じゅんさんの『エリザベート』


2009年5月22日(金)〜6月22日(月) 月組宝塚大劇場公演 三井住友VISAミュージカル『エリザベート』−愛と死の輪舞(ロンド)− トート瀬奈じゅん(せな・じゅん)さん。 エリザベート凪七瑠海(なぎな・るうみ)さん。  フランツ・ヨーゼフ霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん。  ルイジ・ルキーニ龍真咲(りゅう・まさき)さん。 ルドルフ= 遼河はるひ(りょうが・はるひ)さん/青樹泉(あおき・いずみ)さん。/明日海りお(あすみ・りお 第89期生)さん。  役替わり日程はこちら 
宝塚大劇場公演時間 ACT1 1時間10分 幕間(休憩)30分 ACT2 1時間20分 ◇11時公演→終演予定時間14時 ◇13時公演→終演予定時間16時  ◇15時公演→終演予定時間18時

  ☆5月24日 エリザベート評☆ マダム・ヴォルフ=沢希理寿(さわき・りず 2003年入団第89期生)

「プレシャス!宝塚」日刊スポーツ記者・土谷美樹氏。

ミュージカル大作「エリザベート」が開幕した。タカラヅカで7度目の上演となる今回は、月組トップスター瀬奈じゅんさんが黄泉(よみ)の帝王トートにふんし、宙組からヒロイン凪七瑠海さんを迎え、ルドルフには3番手男役・遼河はるさんひら3人の男役スターが日替わりでふんする豪華版。過去に暗殺者ルキーニ、エリザベートで出演してきた瀬奈さんにとっては3度目で満を持してのトート役で歌はもちろん、キレあるダンスでも魅せファンのため息を誘う。

 ウエーブがかった腰まであるシルバーのロングヘアに赤いメッシュ、左側は編み込みでアクセントを付けた。これまでの誰とも違う新たなトート。妖(あや)しくセクシーな瀬奈トートが舞台で一際輝いていた。

 瀬奈さんにとっては今回が3度目の「エリザベート」だ。花組時代の2002年には暗殺者ルキーニの熱演が話題になった。月組に組替えになった直後の2005年、当時のトップスター彩輝直(あやき・なお)さんのトートを相手にエリザベートを演じきった。今回は満を持しての主役。だが本人は「満を持して…などとおこがましさは全然なくて、私はこの作品にホントに育てていただいたという思いが強いので、今回もトートという役を通して成長できれば、成長した姿を見ていただければありがたい」。舞台を降りればそこには謙虚な瀬奈さんの姿があった。

 演出家小池修一郎氏たっての願いでカツラに赤色を入れた。「ロックテイストにしたいな、と思ったので編み上げを入れたりいろいろ考えました」。その言葉通り迫力ある歌声と、得意のダンスでキレのあるトートに仕上がった。ルックスはあくまで人間離れして、しかし、「体の中には青い血が流れている(黄泉の帝王の)はずなのに人間的な感情を抱いたトートの姿を出したい」と、エリザベートに恋心を抱き人間のような感情をむき出しにする姿が共感を誘う。

 そのエリザベートには宙組から若手男役・凪七瑠海さんを迎えた。男役、しかも違う組からヒロインを迎えての上演は異例だが、瀬奈さんはかつての自分にその姿を重ねていた。「けいこ場で彼女を見ていると自分のことを思い出して私まで泣いちゃったこともあったんです。あの時、(トート役だった)彩輝(直)さんが大きな心で見守ってくださったから私も乗り越えられた。私もそうありたい」と若いスターの奮闘に目を細める。

 実はけいこに入る直前、物語の舞台、ウィーンを訪れた。約1週間の滞在で同作の作曲家シルベスター・リーバイ宅も訪問。その日は偶然にも瀬奈さんの誕生日だった。「彼の家ってシェーンブルン宮殿の中にあるんです。そこでフランツとエリザベートも見たであろう中庭を見ながら、私だけにピアノを引いてくれて…。一生忘れられない誕生日になりました」と、まだまだ感動の余韻の中にいるようだ。

 思い出深いウィーン滞在を胸にしながら「今回のエリザベートは自分にとっては3度目ですが、私にとっては新たな挑戦。この作品はお客さまの方がよくご存じだし、大いに評論していただきたい」と気を引き締めていた。【土谷美樹】

 ◆「エリザベート」 1898年、ヨーロッパ随一の美ぼうをうたわれたオーストリアハンガリー皇妃・エリザベート(凪七さん)が暗殺された。舞台はその暗殺犯・ルキーニ(龍真咲さん)が独房で自殺を図ったところから始まる。死後の世界では犯罪から100年以上たった今もルキーニへの尋問が続いていた。「なぜ彼女を殺したのか」と。ルキーニは「エリザベートが黄泉(よみ)の帝王トートと恋に落ち、彼女自身が死を望んだ」と主張する。
 この証言を元にエリザベートと同じ時代を生きた人々が霊廟(れいびょう)からよみがえり、彼女の少女時代から皇帝フランツ(霧矢大夢さん)との結婚、皇太后ゾフィー城咲あいさん)との摩擦、息子ルドルフ(遼河はるひさんら3人の役替え)の自殺など数奇な運命をつづっていく。