新型インフルエンザの拡大を懸念する。

朝日新聞より。 

 世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長が読み上げた声明と、記者会見での発言要旨は以下の通り。
 入手した情報や専門家との協議に基づき、インフルエンザ大流行の警戒レベルを「フェーズ4」から「フェーズ5」に引き上げることを決めた。世界中に素早く広がる可能性があり深刻に、正確に受け止めなければならない。
 いい面を言えば、世界は歴史上で最も良く大流行に備えていると言える。強毒性の鳥インフルエンザに備える措置を取ってきたおかげだ。大流行への進展を追跡できる。
 インフルエンザウイルスはその素早い変異と予想できない動きで悪名高い。WHOや感染者のいる国の保健当局も答えをすぐには用意できないが、それでも見つけるつもりだ。WHOは疫学、臨床、ウイルス学の各レベルで大流行を追跡する。
 すべての国がただちに大流行への準備計画を動かすべきだ。インフルエンザに似た病気や重度の肺炎が、異例に発生することにも警戒を緩めないでほしい。
 現段階での効果的で不可欠な措置とは監視を強め、発生を早く察知し、早く治療し、医療施設での感染を制御することだ。警戒レベル引き上げは政府や製薬業界、経済界がいま行動し、その速度を上げるべきだというサインだ。
 途上国に医薬品支援をする国際組織や世界銀行などにも力を結集するよう求めた。抗ウイルス薬を作る会社にも生産能力や増産への見極めを求めたし、ワクチン製造会社にも生産への貢献を求めた。
 過去の経験から、インフルエンザは豊かな国では軽度な病気だが、途上国では致死率の高い重い病気になる。国際社会は準備と対応を加速させる機会とすべきた。
 抗ウイルス薬はまだ足りない状態だが、季節性のインフルエンザ向けの薬の生産をやめる状況ではない。また、WHOは国境の封鎖や人やモノ、サービスの移動制限も勧めない。豚肉もきちんと調理すれば食べても問題ない。

WHOの旗。蛇と杖のマークはギリシャ神話の医学神アスクレピウスに由来している。


読売新聞より。

 今回の新型インフルエンザのウイルスについて、専門家の間では、当初想定していた強毒性の高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)に比べて、感染しても比較的軽症で済む「弱毒性」との見方が強まっている。

 世界保健機関(WHO)の緊急委員会のメンバーでもある国立感染症研究所の田代真人・インフルエンザウイルス研究センター長は2009年4月29日、今回のウイルスが鳥と人、豚由来のウイルス遺伝子が混ざったもので、「強い病原性を示唆する遺伝子はなかった」と「弱毒性」との見解を明らかにした。
 
強毒性のH5N1型ウイルスは、のどや肺などの呼吸器だけでなく、内臓など全身に感染が広がるのが特徴で、感染者の免疫機能が過剰反応して、重症化すると考えられている。しかし、米疾病対策センターCDC)の遺伝子解析によると、今回のウイルスは強毒性のH5N1型と異なり、呼吸器にしか感染できない構造だったという。

 東北大の押谷仁教授(ウイルス学)も、「感染者の症状から考えると、H5N1型に比べて、毒性ははるかに弱いと考えられる。国内で流行しても感染者が重症で死亡する割合は低いのではないか」と指摘する。

 しかし、たとえ毒性が弱いとしても、今回の新型ウイルスは、ほとんどの人が経験したことがなく、免疫を持っていない。今後、世界各地で、爆発的に感染が広がる恐れがある。

 国立病院機構仙台医療センターの西村秀一・ウイルスセンター長は「毒性が弱く、重症化率が低くても、多くの人が感染すれば死亡者数は増える。弱毒性の方が感染に気づかないうちに周囲に広げる危険性が高い。マスクをするなど、感染拡大を抑えることが大事だ」と指摘する。さらに、インフルエンザウイルスは、遺伝子が変異しやすい。大流行して人間の間で感染を繰り返すうちに、弱毒性が強毒性に変わることも考えられる。

 実際、1918年から19年にかけて世界で4000万人以上の犠牲者を出した「スペインかぜ」も、弱毒性が流行の途中で変化したタイプだった。

 外岡立人・元小樽市保健所長は「弱毒性と安心せず、毒性がどう変化するか、今後も、注意する必要がある」と強調する。