週刊新潮の大虚報事件を考える。

毎日新聞(2009年4月20日朝刊)より引用。

朝日新聞阪神支局襲撃手記 週刊新潮誤報」対応に疑問の声
 虚偽の証言に基づく誤報が今年、相次いでいる。日本テレビの「真相報道バンキシヤ!」が岐阜県庁の裏金問題に絡み、関係者のうそ証言を放送したのに続き、朝日新聞襲撃事件を巡って「実行犯」の手記を掲載した週刊新潮が、誤報だったことを認め謝罪した。新潮社は、事態をどう教訓とするのか。ジヤーナリズムの姿勢が間われている。【蔓宏士】

 「説明責任果たした
 (3月30日)東京都内で開かれた「月刊現代」の休刊を考えるシンポジウム。ノンフィクション作家の佐野眞一さんは週刊新潮誤報問題を取り上げ「異論を承知で言えば、雑誌を殺したのは編集者だ。偽物か本物か人間を見る目が曇ってしまった。劣化の極みが週刊新潮の大虚報だ」と会場にいる新潮社関係者を前に厳しく非難した。 その一方で「週刊新潮は『こうしてだまされた』という記事を書くべきだ。同誌の芸風で、雑誌再生につながるかもしれない」と提案した。今月16日発売の同誌(4 月23日号)が、誤報の経緯を検証し、謝罪した記事のタイトルは、「『週刊新潮』はこうして『ニセ実行犯』に騙された」。この記事を巡っては識者らから「不十分な検証内容だ」との批判が相次ぐ。しかし、新潮社の伊藤幸人・広報宣伝部長は毎日新間の取材に対して「16日発売号の記事をもって会社としても社会に対する説明責任を果たしたと考えている」との姿勢だ。

「月刊現代」休刊とジャーナリズムの未来を考えるシンポジウム
 2009年3月30日午後6時から、東京都千代田区の内幸町ホール。第1部「いまそこにあるジャーナリズムの危機」(司会=田原総一朗、パネリスト=鎌田慧魚住昭佐藤優)▽第2部「ノンフィクションの過去、現在、そして未来」(司会=重松清、パネリスト=佐野眞一高山文彦青木理、城戸久枝)。

 この事件について、鳥越 俊太郎(とりごえ・しゅんたろう)氏毎日新聞(2009年4月20日朝刊)で次の通り週刊新潮を批判している。

  『誠意が見えない』
 「朝日新聞阪神支局』襲撃事件『週刊新潮』はこうして『ニセ実行犯』に騙された」4 月16日発売(4月23 日号) の週刊新潮にこうした見出しを掲げ、10ページにわたる取材開始から連載(4回) に至る経緯の「検証記事」が掲載されました。週刊誌が2、3 の名誉棄損訴訟を抱えているのは周知の事実ですが、週刊新潮は中でも群を抜いて訴訟が多い、というのは業界のいわば「常識」です。今回の「こうして騙された」記事を報じた発売日の各新聞の掲載面の片隅に「為末大選手報道で新潮社に賠償命令 東京地裁」(毎日) 「『為末選手の名誉棄損』新潮社広告巡り2 20万円賠償命令」(日経) がベタ記事で出ていたのが、なんとも皮肉に同誌の「訴訟」体質を示していました。そんな週刊新潮でもこれだけのページを割いて誤報を認め、おわびをしたのは初めてでしょう。前代未間の出来事です。
 前代未間の出来事ですが、その「検証記事」たるや、自分たちが騙された被害者だといわんばかりの言い訳に終始し、「真実」を直視しすべてを明らかにするメディアとしての誠意は全く感じられない― これが私の率直な読後感です。
 
 問題点を2点指摘しておきます。検証記事を書いた早川清編集長は「結果的に誤報だったが、捏造造したわけではない」ことを強調しています。しかし、私の考えによれば、この考え方がそもそもおかしい、誠意のない点なのです。全く事実無根の記事を掲載した時点で週刊新潮は「捏造」に加担しているのです。同誌を騙したと言われる島村征憲氏と週刊新潮は「捏造記事」をデッチ上げた「共同正犯」関係にある。つまり、同誌は捏造の共犯であり、加害者なのです。被害者面をするのは、卑怯であり、誠意のない対応といえるでしょう。

 次に今回の検証記事が、一連の連載記事を取材・掲載したチーム(3 人= 編集長、デスク、記者)の責任者= 早川清編集長の名前で書かれている点に大きな疑間を抱きます。誤報の当事者が誤報の検証をして誰が信用するでしょうか。その検証のあり方が「自分の都合の悪いことには触れず都合のいい部分だけを出している」との印象を読者に抱かせるのは当然ともいえます。ここは、誤報検証は第三者に依頼する― というメディア業界のルールに立たなければ、失われた信用は決して戻らないでしょう。

毎日新聞(2009年4月20日朝刊)より引用。

週刊新潮の手記掲載問題
 朝日新聞阪神支局襲撃事件(87年)など一連の警察庁指定116号事件の実行犯を名乗る島村征憲氏(65)の手記を2月5日号から4回掲載。朝日新聞が手記を「虚報」だとする検証記事を掲載するなど信ぴょう性に疑間符が付いた。新潮社は2009年3月19日、手記で指示役とされた元在日米国大使館職員の男性から訂正・謝罪を求められて和解。4月、島村氏は毎日新聞などの取材に「実行犯ではない」と手記内容を否定。4月23日号の検証記事によると、新潮社は手記の原稿料として計90万円を支払つたほか、ホテルの宿泊費などを負担。「自立支援のため」として、島村氏の生活保護申請や健康保険証の入手を手伝つたという。