今後の「新潮」はかじ取り次第では廃刊も


 雑誌ジャーナーリズムの危機が訪れている。名誉毀損など告訴が相次ぎ、裁判でも敗訴が続いている。そういう状況の中で「朝日新聞阪神支局襲撃事件」の虚報記事は、致命傷になりかねない。犯人が特定できないまま時効を迎え、謎の多い事件の犯人本人が名乗り出るという劇的な見出しで新潮社がキャンペーンを張り、部数を伸ばすなどセンセーションを巻き起こしたが、結局は「虚報」であった。この事件の処理を誤れば(もうかなり誤っているが)読者の信頼(ここの読者はそういう危ない新潮が好きなのかもしれないけど)を失い部数大幅減となれば廃刊という道が待っている。


毎日新聞より引用。 

 朝日新聞阪神支局襲撃事件など警察庁指定116号事件を巡り、週刊新潮が「実行犯」を名乗る島村征憲氏(65)の手記を掲載した問題で、同誌の早川清編集長は15日、毎日新聞の取材に「裏付け取材が甘く、島村氏のうそを見抜けなかった」と誤報を認めた。しかし、自身の責任問題には言及しなかった。同誌は16日発売の4月23日号で誤報を認め、読者に謝罪した。

 早川編集長は「手記掲載の途中で、右翼団体から『経歴がおかしい』と指摘を受け疑念を持ち始めた」とし、「経歴を徹底して取材していれば、掲載前にほころびが出ていたのではないか」と反省した。

 しかし、島村氏が毎日新聞などに「想定問答を新潮記者から見せられ答えた」などと話したことについては明確に否定。「捏造(ねつぞう)ではない」と強調した。

 16日発売号の「こうして『ニセ実行犯』に騙(だま)された」と題した記事によると、島村氏が阪神支局から持ち去ったと証言した手帳や散弾銃など証拠品は見つからなかったが、「知人に預けた」と説明したことから、「外的な要因で行方知れずになった可能性がある」と証言を疑わなかった。「犯行を依頼された」と島村氏が指摘した元在日米国大使館職員の男性(54)が実在したことから、正しいと確信したという。

 同誌は2月5〜26日号まで4回にわたり手記を掲載した。

 週刊新潮は1956年、出版社が出す初の週刊誌として創刊。昨年上半期の平均販売部数は約44万部。島村氏の手記1〜3回目まで、5万部上乗せし発行したという。【石丸整、山本浩資】


日経新聞より引用。

重大な背信行為
 ノンフィクション作家の佐野眞一さん の話  週刊新潮は雑誌の看板であの手記を売ったのだから言い逃れはできない。こんな長文の釈明よりも、まず編集長らが責任を認めて辞任すべきだった。1回目の手記を載せた時点で危ない人物と分かったのに4回も続けたのは、組織の病巣であり危機管理ができていないということ。雑誌ジャーナリズムへの重大な背信行為だ。疑惑に踏み込んで報じるのが週刊誌の使命という主張は居直りと感じられ、思い上がりも甚だしい。読者が知りたいのは真実。(読者は)絶対許さないだろう。
 
検証記事不十分
大石泰彦・青山学院大教授(メディア論)の話 間題点は三つある。事実ありきでなく企画ありきの姿勢、対象者を囲い込む取材手法、謝礼だけでなく生活の面倒までみたことだ。検証記事ではこうした問題点を抽出できていない。積極的なジャーナリズムにおいて誤報は起こりうる。誤報を許さない社会はむしろ危険だ。誤報をどう受け止め、教訓にするかが重要。週刊新潮がこれで幕を引くならジャーナリズムとはいえず、信頼回復は無理だ。