東京宝塚「太王四神記」が3月22日閉幕

 

 2009年2月13日(金)〜3月22日(日)東京宝塚劇場花組公演 NTT東日本NTT西日本フレッツシアター 幻想歌舞劇『太王四神記』−チュシンの星のもとに− 〜韓国ドラマ「太王四神記」より〜 脚本・演出/小池修一郎氏。

 『太王四神記』は今年1月2日宝塚大劇場で観劇して、「宝塚の名作になると確信しました」。東京でも好評であったと聞きます。常に新しい劇を創造するのも良いのですが、「宝塚にこの作品ありといえるものも、あと幾つかほしいものです」。   

asahi.comより引用。

 09年に入り、宝塚歌劇の挑戦が続いている。“ライトノベル”(雪組『忘れ雪』)、“ゲームソフト”(宙組逆転裁判』)と続いた異ジャンルとのコラボレーションも、22日に千秋楽を迎えた花組太王四神記』で真打ち登場(東京で観劇の場合)といった趣きだ。その手があったかといいたいような韓流ドラマとの初コラボだが、コアなファンをもつ作品の舞台化は、えてして難しいもの。原作ファンが期待するポイントを押さえつつ、同時に“一見さん”をも楽しませなければならないからだ。今回は手練の小池修一郎氏の演出とキャスト陣の熱演とで、文句なしのエンタメ大作に仕上がった。

 昨年10月に行われた制作発表では「計24時間のTVドラマを2時間の舞台にするに当たり、宝塚らしく“愛のドラマ”の要素を前面に出したい」と語っていた小池。高句麗の地で、運命に導かれるように真の王になるタムドク(真飛聖さん)と、彼の幼なじみながら長じて対立するようになるヨン・ホゲ(大空祐飛さん)という色の違う両者に、チュシンの王を手中にすべく企むプルキルに操られながらも、タムドクに心を寄せるキハ(桜乃彩音さん)を加えた3人の愛憎を軸に物語は進む。


  写真=大空祐飛さん 


 原作ドラマは歴史ファンタジーなので、SFXも見どころのひとつ。舞台化に際してそこをどう表現するのかも注目となったが、小池は盆(回り舞台)とLEDを多用し、スピード感を限界まで加えることで、あたかもハリウッド映画を立体で観ているような躍動感を出した。序章となる「神話の時代」は、盆を次々に回していくことで絵巻を広げるようにエピソードを処理し、「武道大会」では、舞台最奥から青・黄・緑などの鎧を身にまとった戦士たちが繰り出されて、スペクタキュラーな迫力を堪能させてくれる。

 タムドクは真飛さんいわく、「王という立場ながら、人の幸せを願ったり、誰も傷つけたくないと願っている人」(制作発表より)。そこが自身トップである真飛sann
の姿と自然に重なった。黒い長髪も似合い、キハに向ける優しい表情と、戦闘シーンでの凛々しい横顔との緩急もいい。そしてタムドクが温かい太陽なら、ホゲは冷たく光る月といったところか。この手の役を演じさせれば現在髄一といえる大空さんが、キッチリと務めを果たして楽しい。いわゆる“美味しい役”だが、それを生かすも殺すも役者次第なのだから、やはり大空さんの手腕といえるだろう。

 その他、キハ役・桜乃さんの硬質な美しさが印象的。芝居、アクション共にタムドクやホゲと対等に伍して健闘した。


 写真=桜乃彩音さん  

 

また、今回の悪役プルキル役の壮一帆さんに貫禄と存在感。専科に振ってもいい役どころだが、あえて小池氏は壮さんを配した。結果、細かな手の表情など的確な芝居で強大な悪を演じきった。その意気込みに拍手を送りたい。


    写真=壮一帆さん 


 さらに、柔らかい明るさを振りまいたスジニ役の音羽麗さん、冒頭の語り役を始め舞台を引き締めたヒョンゴ役の未涼亜希さんなど、脇の登場人物も適材適所。大らかなフッケ将軍役の悠真倫さんや、機敏に動きまわるパソン役の桜一花さん、憂いのあるチョロ役の真野すがたさん。キハを影で見守るサリャン役の華形ひかるさんに、女戦士カクダン役の望月理世(もちづき・りせ 本公演千秋楽で退団 男役 第86期生)さん、息子ホゲを王にしようと画策するセーム役の花野じゅりあさん、そして少々おバカだが憎めないチュムチ役の朝夏まなと(あさか・まなと 第88期生)さんなど、舞台の隅々まで個性的。どこを見ても楽しめるから、つい何度も観劇したくなる。

 宝塚大劇場東京宝塚劇場では舞台の尺が異なるので、東京公演の初日に先立って行われたゲネプロでは、小池氏の珍しく厳しい声が飛んでいた。出演者も大劇場で慣れた感覚を、いったんオフにしなければならないから大変だったろう。誰かがひとつ間違えても、この舞台は成立しない。ハリウッド映画的な爽快感と同時に、宝塚でしか見られない団体プレーを見せてくれたという意味で、これはまぎれもなく宝塚の代表作になりうる1本といえよう。